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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百六十五話 夏と秋その六

「まあご馳走でもね」
「それでもよね」
「別にね」
 本当にこれといってだ。
「高いかっていうと」
「そうでもないでしょ」
「特にね」
 目立って言う程はだ。
「そうなったよ」
「お肉次第にしても」
「高いお肉だとご馳走だよ」
 言うまでもなくこうなる、神戸牛にしても松坂牛にしても。あと近江牛なら井伊直弼さんとなるのは幕末のイメージか。
「それでもね、安いお肉だと」
「輸入のね」
「まあ高いにしても」
「ちょっと位よね」
「そうだね」
 こう香織さんに答えた。
「本当に」
「そうよね」
「私はね」 
 詩織さんが言うには。
「ほら、うち母子家庭だったでしょ」
「だからだね」
「詩織としてはだったのね」
「お母さんが必死に働いてお金自体は困ってなかったけれど」  
 それでもというのだ。
「何か滅多に食べられないって感じだったわ」
「そうした意味でご馳走だったの」
「お母さん的には牛肉イコールお祝いの品ってね」
「そうしたイメージがあったのね」
「うちのお母さんにはね、それでね」
 詩織さんのお母さんがそうしたイメージだったからだというのだ。
「私はすき焼きっていうと」
「特別ってイメージあるの」
「そうなの、まあ確かに秋田でも牛肉はね」
「ちょっと値が張る位でしょ」
「輸入肉ね」
「輸入肉のすき焼きね」
「私はこっちだったわ」
 北海道生まれの香織さんに話した言葉だ。
「本当にね」
「そうだったのね」
「お金は困ってなかったにしても」
 詩織さんのお母さんが必死に働いてだ。
「お母さんも節約してたの」
「詩織のお母さんってしっかりした人だったの」
「そうだったの」
 実際にというのだ。
「それで食べるものもね」
「節約してたの」
「そうなの、それで死んだ時に私に全部残してくれたの」
「いいお母さんだったのね」
「うん、だからお通夜からお葬式の時まで何とかね」
 ここで唇を引き締めて言った詩織さんだった。
「泣かなかったわ」
「我慢したのね」
「だってお母さん全部残してくれて笑って送ってくれって言ったから」
 だからだというのだ。
「私もね」
「我慢してなのね」
「最後までそうして送ったわ、それでね」
「こっちに来たのね」
「そうなの、お母さんずっと見守ってくれてるわ」
「詩織をなのね」
「そうよ、そうも言ってくれたの」
 このことは笑って話した詩織さんだった。
「死ぬ時にね」
「本当にいいお母さんだったのね」
「大好きだったわ、今もね」
 言葉は現在形にもなった。
「大好きよ」
「そうなのね」
「ええ、本当にね」
 こう香織さんに話した。 
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