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511部分:第四十話 それぞれの幸せその十


第四十話 それぞれの幸せその十

「絶対にな」
「その心は絶対に忘れるな」
「いいわね」
 両親は同時に彼に告げた。
「いいな、それは」
「何があってもよ」
「つまりあれだよな」
 陽太郎は両親の言葉を受けてだ。二人の言うことをこうまとめた。
「決めるまでにはじっくりと時間をかけて」
「そうよ」
「それでな」
「決めたらもう迷うなっていうんだよな」
「そういうことよ」
「絶対に迷うなよ」
 また言う両親だった。まさにその通りだった。
 そうしてそのうえでだ。再び我が子に述べた。
「幸せにしなさいね」
「いいな、あの娘はな」
「幸せになんだ」
「人を幸せにすれば自分も幸せになれるのよ」
「人間はそういうものだからな」
 二人で話す。そうしてだった。
 陽太郎はだ。また考える顔になった。その顔を見ている二人だった。
 自然と微笑んでだ。また息子に言った。
「けれど。陽太郎もね」
「そうだな。成長したな」
「成長したんだ」
 そう言われてだ。陽太郎は少しきょとんとした顔になった。表情がよく変わる。その中でまた話す彼だった。自然と言葉が出る。
「俺って」
「だって。相手のことも考えられるようになってきてるでしょ」
「こうした話をすること自体がな」
「なってるかな」
 首を傾げさせる。やはり実感はないのだった。
 自分では実感できない。しかしそれでも両親は話した。
「幸せにしたいでしょ」
「あの娘のことは」
「ああ、絶対にな」
 それは間違いないとだ。答えることができた。
「そうじゃなければ意味ないしさ」
「そう思えることがよ」
「成長した何よりの証なんだよ」
「そうかな」
「そう思うよ」
 今度はだ。横から妹が言ってきた。楽しそうにお茶を飲みながらだ。
「お兄ちゃん大きくなったし」
「いや、背の話じゃないだろ」
「背もだけれど」
 それだけではないというのだ。妹だから見えていることだった。
 その見えているものをだ。兄自身に話した。
「心が凄く大きくなったよ」
「そうか?」
「あまり私のこと怒らなくなったし」
 それを言うのだった。
「何時も笑ってるようになったし。大きくなったよ」
「それって大きくなったってことか?」
 陽太郎は妹のその言葉に首を捻った。
「違うんじゃないか?ちょっと」
「いえ、違わないわよ」
「そうだぞ。その通りだぞ」
 だが両親はその妹の言葉をよしとするのだった。
「陽子はよく見てるわ」
「御前のそうしたところまでな」
「えっ、そうなんだ」
 両親の指摘にだ。陽太郎は目を丸くした。まさかと思ったのである。
「陽子の言う通りなんだ」
「ええ、そうよ」
「そうだぞ」
「そうなんだ」
 またこの言葉を出した陽太郎だった。
「陽子の言う通りなんだ」
「大きくなったな」
「本当にね」
 両親は笑顔で息子に話す。
 
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