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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督、里帰りする。その3

 はまなす亭で会計を済ませ、漸く提督の実家に向かう一行。

「……あ、買い忘れがあった。お前ら、先に行っててくれ。この坂道まっすぐ上がってけば着くからよ」

 そう言って別方向にスタコラサッサと走り去る提督。残されたのは土地勘も無い、美人ばかりの6人グループだ。いくら田舎とはいえ、女に餓えた野郎がいない訳では無い。

「へっへっへ、お姉さん達どっから来たの?道案内しようか?」

 解りやすいチンピラ的なのが出てきたなぁ……。金剛達が抱いた第一印象がそれである。提督の私服を思い出し、もしかするとこの辺はこういうチンピラっぽい格好がデフォルトなのか?なんて変な考えすら浮かんでくる。当然ながらそんな事は無く、提督の私服は個人的趣味なのだが。

「そうなのよ。お姉さん達とあるお家に用があるんだけど、道に迷っちゃって」

 意外とこういう交渉事に向いている陸奥が、にこやかに話しかける。向こうが善意で道案内を名乗り出ているなら善し、下心があるならちょっと痛い目に遭って貰ってご退場願おう……そんな所か。

「へぇ~……ちなみにその家ってなんてぇの?」

「金城さんってお宅なんだけど……知ってるかしら?」

 陸奥が提督の名字を告げると、チンピラっぽい兄ちゃんがフリーズした。

「……金城、さん?」

「えぇ、そうよ」

 途端に青ざめるチンピラっぽい兄ちゃん。

「すすす、すいませんっ!金城さんのお知り合いとは見ず知らず、失礼しましたぁっ!」

「いや、失礼な事なんてされてないのだけれど……」

 いつもの無表情に近い顔のままなのだが、若干狼狽えている加賀。

「おいおい、先行けって言っておいたろ……って何してんだ?一般人相手にカツアゲか?」

「「「「「「違うよ!?」」」」」」

「お、おぅ……」

 全員から声を揃えて反論されちまった。しかし、チンピラっぽい兄ちゃんがお前ら相手にペコペコしてたら勘違いするだろ、普通に。

「……で?そっちの兄ちゃんは何者だい?」

「ははは、はいっ!手前橋本興業にお世話になってる者でして、そちらのお嬢さん方が道に迷っておられるようでしたので道案内を、と思いまして……ハイ」

「ふ~ん……橋本さんのトコのねぇ。ま、何にしろ俺が合流したから案内はいらん。帰れ」

「ハイっ!失礼しますっ!」

「橋本のおやっさんに宜しくな~」

 手を振り振り、兄ちゃんを見送る。

「だ、誰だったの?あれ……」

 唖然というか、呆然というか。とにかくポカンとした様子の陸奥に尋ねられる。

「ん?まぁ、何というか昔“ちょっと”な」

 そう言って不敵に笑ってみせると、疑いの眼差しを向けられる。何だよ?別に悪いことした訳じゃあねぇぞ?




 気を取り直して一路、俺の実家を目指す。

「そういえば、パパは何を買いに行ってたの?」

「あぁ、これか?爺ちゃんの墓に供える物を買いに行ってた」

「ふぅん?」

 不思議そうに首を傾げる山風の頭を、クシャクシャと撫でてやる。暫く歩いていくと、少し草臥れたような見た目の二階建ての家が見えてきた。

「さ、着いたぞ。ここが俺の実家だ」

「な、何て言うか……」

「予想に反してボロっちいですねぇ」

 はっきり言うなぁ、青葉の奴め。

「仕方ねぇだろ?昔からよく言うんだ、『大工の家には戸板も立たない』ってな」

 大工は他人の家を建てたり直したりはしても、自分の家は後回しにするからボロいんだ……って言ってたのも爺ちゃんだったか。少し古ぼけたような引き戸をガラガラと開けて、声を掛ける。

「うぉ~い、帰ったぜ!」

「零二かい?帰って来るなら連絡寄越せって……言って………」

 台所からパタパタとお袋が出てくる。が、俺の面を見るなり固まりやがった。若干アワアワしてるようにも見える。

「ん?どうした、零二の奴が帰って来たんじゃ……」

 茶の間から顔を覗かせたのは親父だ。俺の顔を見てギョッとして、こっちも固まる。昼間っからビールを飲んでたのか、グラスからビールがコースアウトしてダバダバ畳に零れてるんだが。

「親父もお袋もなに固まってんだよ、そんなに懐かしの倅の顔が嬉しいか?ん?」

「あ……アンタどっからそんなに別嬪ばっかり拐って来たんだいっ!」

「はああああぁぁぁぁ!?何だそりゃ!」

「いつかはやると思ってたが……おい!早く警察に連絡しろ!」

「ふざけんなこの糞親どもおおおぉぉぉぉぉ!」

 危うく実の親に誘拐犯にされかけた。解せぬ。




 ギャアギャア喚き散らす親父とお袋を黙らせ、茶の間に上がって向かい合わせに座る。

「痛ったぁ……」

「親を殴るとか、教育した奴の顔が見たいわ」

「お前らだろうがこのポンコツ夫婦」

 あんまり騒ぐので、黙らせるのに軽く小突いただけだ。……ホントだぞ?

「あ~……まぁ、さっきの騒がしいので薄々察してるとは思うが、この2人が俺の親父とお袋だ。お袋は専業主婦だし、親父は……大工はもう引退したんだったか?」

「まだ稼いどるわ、バカタレ」

 これだよ。仮にも海軍の大将にバカタレ呼ばわりだぜ?もう少し敬意ってモンがよ……。

「提督のお義父様とお義母様ですね。初めまして、私提督……いえ、こちらの零二さんと結婚させて頂きました『艦娘』の金剛と申します」

 淀みなくそう言って、正座したまま深々と頭を下げる金剛。その所作にはいつもの似非外国人キャラなんてものは微塵も感じず、寧ろ良いところの御嬢様のような気品すら感じる。流石の俺も固まっちまったぜ。

「あ、え、あぁ、これはこれはどうもご丁寧に……」

「不肖の息子ですがどうぞよろしく……」

「オイ」

 さっきまでの空気どうしたよ。さっきまでの家族コントから、いきなり結婚の挨拶の場の雰囲気になっちまったぞ?……まぁ、金剛と正式に結婚してからこっち、1度も帰ってきて無いからなぁ。そういう雰囲気にもなるか。

「はぁ~……この美人さんが皆、あの化け物と戦ってる艦娘さんねぇ」

「間近で見ても信じられない……いや、間近で見たからこそ信じられないわ」

「信じるも信じねぇも、事実だからしょうがねぇだろうに」

 一頻り驚いたり呆気に取られたりが終わった後で、改めて皆を紹介する。

「初めまして、加賀と言います。提督の……第二婦人です」

 親父とお袋が茶を噴いた。

「うぉい!?どういうこった零二ぃ!てめぇ第二婦人だとぉ……そんな羨まsーー」

「……父ちゃん?」

 お袋の背後に般若が見えたぞ、オイ。

「あのなぁ、艦娘には『ケッコンカッコカリ』って制度があんだよ。名前こそふざけてるが、中身は艦娘の強化を目的とした公的に認められてる物だ。加賀の言った第二婦人とか何とかは冗談だよ」

「え、そうなの?」

「すみません、はしゃぎすぎました」

 シレッとして頭を下げる加賀。お前なぁ……冗談のぶちこみ方が酷すぎるぞ。HS(ヘッドショット)喰らった気分だわ。

「あ、ちなみに私もケッコンしてます。……申し遅れましたが私は陸奥って言います」

「こっちの3人はケッコンしてませんので、ご安心を。あ、青葉と言います!宜しくお願いします!」

「あ~、秋雲って言います。一応提督の生まれた所がどんな所かを取材する目的でくっついて来ました」

「や……山風、です。え、えっと、て、提督の……娘、です」

 はい、3発目の爆弾が投下されました。それも、予想外の所から。

「……娘?」

「あ~、正確な手続きはまだだが……その内養子縁組する予定だ」

「と、言う事は……」

「「初孫じゃぁ!」」

 何だよ、あいつ等まだ独身なのかよ……あ、あいつ等ってのは俺の弟妹だ。弟が2人に妹が1人。今日は皆仕事で居なかったらしい。

「そうかそうか!山風ちゃんて言うのか~♪おじいちゃんって呼びなさい!」

「私はお祖母ちゃんね~♪」

「うわキモ」

「「あぁん!?」」

 夫婦揃ってメンチ切ってくるんじゃねぇよ……ガラ悪いなぁ、ったく。

 
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