獣篇Ⅲ
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44 世の中には通過儀礼が多くありすぎる。
半刻後くらいのことである。辺り一面武家屋敷が並んでいる中に、何やら左手方面に一際立派な屋敷が見えた。私の半端ない動体視力を駆使してみると、屋敷の前に立っている立派な門の標識にデカデカと「佐々木」と記してあったので、どうやらここが佐々木家のようである。運転手が門番に何やら耳打ちして門が開き、屋敷の前にあるスペースに横付けで車が止まると、運転手が颯爽と扉を開け、エスコートしてくれた。ありがとうございます。とお礼を言って車を降りると、立派な屋敷の前に独り中年(くらいに見える)男性が佇んでいた。先に降りたらしい骸が、異三郎!とだけ言うと、異三郎もまた颯爽とこちらに向かってきた。よくぞいらっしゃいました。と言うと彼は、私たちを屋敷の大接間に誘導した。
誘導されるまま席に着くと、どこからか現れたボーイさんらしき恰好をした世話人が私たちにお茶とお茶請けを一つずつ置いていった。私たちとテーブルを挟んで反対側には佐々木と骸が同じように並んで座っていた。世話人が佐々木に何か耳打ちしてから立ち去った後、どうぞ一杯お茶でも。と言って手でも合図してくださった。勿論道中飲み物を取る時間がなかったので私自身とても喉が渇いていたが、ここでホイホイお誘いに乗るようでは淑女とは言い難いので、皆さんご存知の所謂、”通過儀礼”という名の攻防戦が待ち受けている。だが今回は本当に喉が渇いていたので薬物の検査(という名の毒見)をしてから2ラウンド目くらいにはもう撃沈した。だが晋助はまだお茶無しでも生きていられるようである。きっと晋助の場合、お茶よりも酒に目がないはずだ。全く、お酒ばかり飲んでいては背が伸びるはずもない。こんなことをうっかり口にすれば私の命が無いのでこれは心の中にしまっておこう。
暫く沈黙が続くと、突然何を思ったのか、佐々木が口を開いた。
_「あ、そうだ。高杉殿と零杏殿、わたくし佐々木と信女、それぞれそちら側と2人きりでお話申し上げることがございますので、それが終わり次第、我々全員揃っての会合と致しましょう?それでも構いませんか?…今日は泊まっていかれるでしょう?」
その言葉に私と晋助は顔を見合わせ、アイコンタクトをかけると晋助が軽く頷いたので、どうやら今日はお泊り決定のようである。
_「あァ。…ならば今日は世話になるなァ。」
その言葉に安堵したのか、心なしか佐々木の表情も和らいだ感じである。
_「分かりました。では家の者に準備をさせますね。では今宵はお互い、語り明かしましょうぞ。」
ということで我々は二手に分かれてから、勿論私はいつもの如くイアリングという名の盗聴器をONにし、骸に誘導されるがまま奥の方の座敷に案内された。部屋に入ると中央付近に置かれていた座布団に座るように促されたので、その指示に従った。
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