草原のメイド
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第三章
彼女が店に入ってだ、髪の毛は丸坊主にしていて鋭い嫌な目をした猿の様な顔の如何にも品がなさそうな人間族の店員がこう言ってきた。
「御前何やねん」
「はい、私はです」
アバクは自分の身分をすぐに話した。
するとだ、その店員はこう言った。
「あの屋敷の人やとしゃあないわ」
「しゃあないといいますと」
「エボニーでもや」
それでもというのだ。
「しゃあないわ、そやからな」
「そやから、ですか」
「うちの店のもん売ったるわ、感謝せえ」
こう言ってアバクにものを売った、正直アバクはその店員に悪い印象を持った。それでダークエルフにこのことを話すと。
彼女は暗い顔になってだ、アバクに話した。
「それが差別です」
「私があの店員にされたことが」
「はい、差別です」
それに他ならないというのだ。
「それなのです」
「差別はあれなんですね」
「あのお店の店員ですか」
ここでこうも言ったダークエルフだった。
「まさかあのお店にそうした店員がいるとは」
「新入りの人みたいですね」
「調べてみます、丸坊主で目つきの鋭い猿みたいな顔の店員ですか」
「はい、そうです」
「喋り方は西の方の方言で」
「そんな人でした」
「わかりました」
ダークエルフはアバクの言葉を受けて調べた、そしてわかったことは。
元ボクサーでボクサー時代から素行と品性の悪さで有名な男だった、それで店でも何かと問題を起こしていた。
そして彼女が調べた時にはもう解雇されていた、それでダークエルフはアバクに言った。
「もうお店にいないそうなので」
「気にしなくていいですか」
「はい、ですが」
それでもと言うのだった。
「世の中にはです」
「ああした人がいることもですね」
「覚えておいて下さい」
「旦那様みたいに分け隔てしない方もおられれば」
「あの店員の様に」
まさにというのだ。
「差別する人もです」
「いるんですね」
「どの種族でもそうした人がいます」
ダークエルフは自分の過去の経験からも話した。
「このことはです」
「私もですね」
「よく覚えておいて下さい」
「わかりました」
確かな顔でだ、アバクはダークエルフの言葉に頷いた。そうしてメイドとしての仕事を続けていった。
やがて彼女はメイドをしつつ差別を訴える様にもなっていく、このことについては彼女の経験が大きかったことは言うまでもない。差別をしない人とする人、両方を知ったからこそ。
草原のメイド 完
2018・8・25
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