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練習あるのみ

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第三章

 しかしだ、その致命的な苦難をだったのだ。
「けれどね」
「その耳のことをでしたね」
「ベートーベンは乗り越えたわ」
「そうしてこの曲もでしたね」
「作曲したわ」
 そうしたというのだ。
「そうした曲だったわ」
「そうでしたね、耳のことは知っていましたけれど」
「今なのね」
「読んで」
 その曲の背景や楽譜をだ。
「実感しました、それでこの実感が」
「そうね、演奏にもね」
「出ますよね」
「演奏は演奏する人の想い、心が出るから」
 そうしたものがというのだ。
「だからね」
「それで、ですね」
「読んでもね」
「ピアノの勉強は出来ますね」
「ベートーベンの想いが楽譜にも出てるっていうけれど」
「わかってきました」
 苦悩、そしてそれを乗り越えようとする強い意志をだ。
「色々と困った人だったみたいですが」
「人間としてはね」
「お付き合いのしにくい」 
 俗にそうだったと言われている、お世辞にも人付き合いが上手な人物でも人好きのするタイプでもなかったという。
「そうした人でしたね」
「このことは知ってたわね」
「はい」
 ユキはすぐに答えた。
「有名ですから」
「不幸な人でもあったし」
「耳のこと以外でも」
「家庭のことでもね」
「結婚したくても出来なくて」
 暖かい家庭に憧れていたのだ、それも終生。
「そうしてね」
「不幸の多い人でもありましたね」
「そう、それでもね」
「その不幸もですね」
「乗り越えようとして」
 そうしてというのだ。
「こうした曲を作曲していったのよ」
「そうしたこともですね」
「聴いて読んでいるとね」
「わかるんですね」
「ええ、わかるから」
「演奏するだけでなく」
「そちらも頑張ってね、そしてね」
 部長はユキにさらに話した。
「これもピアノの練習のうちだから」
「演奏だけじゃないですね」
「演奏、ピアノを奏でることも大事だけれど」
 これ自体もというのだ。
「こちらもね」
「大事ですね」
「そうよ、確かに相良さんは練習熱心だけれど」
「手のことも考えて」
「演奏の練習は限界までにしてね」
 そうしてというのだ。
「それ以外はね」
「聴いて読んで」
「練習をしていってね」
「わかりました」
 ユキは部長の言葉に素直に頷いた、そうして演奏の練習の時間は今以上に増やさずに聴いて読んでいった。 
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