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練習あるのみ

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第一章

      練習あるのみ
 相楽ユキはお金持ちの家の一人娘で高校ではピアノ部に所属している、そして家でもピアノのレッスンを受けているが。
 家でのレッスンの時だ、レッスンを行っている先生が思わず言ったのだった。
「まだですか」
「お願い出来ますか」
「今日も念入りにされますね」
「はい、ピアノは奏でれば奏でるだけよくなる」
 ユキは先生に顔を向けて言った。
「そういいますよね」
「それはそうですが」
 それでもとだ、先生はユキに戸惑いを隠せない声で応えた。
「相楽さんはいつもですね」
「はい、ピアノをはじめますと」
「ずっとされますね」
「レッスンの時間が終わっても」
「ご自身だけで奏でられることも多いですね」
「はい」
 その通りだとだ、ユキは答えた。
「そうした時も」
「そうですか」
「子供の頃からそうです」
「だから多くのコンクールでも優勝されていますね」
「そうだと思います」
「それはいいことです」
 先生はユキの熱心なことはいいとした。
 しかしだ、心配している顔でこうも言った。
「ですがお気をつけ下さい」
「何についてでしょうか」
「手のことです」
 ピアノを奏でる身体のこの部分のことをというのだ。
「手も使い過ぎますと」
「痛めてしまいますか」
「腱鞘炎にもなります」
「だからですか」
「はい、演奏はいいにしても」
「過ぎるとですか」
「相楽さんは過ぎると思います」
 その域に達しているというのだ。
「ですから」
「腱鞘炎にはですか」
「手を痛めますと」
「よくないですね」
「そうです、ピアノは手で演奏します」
 このことは絶対のことだ、手なくしてピアノを演奏出来ない。十本のその指で演奏する楽器なのだ。
「手に何かありますと」
「それだけで演奏出来なくなるので」
「演奏されたいなら」
 そう思うならというのだ。
「くれぐれもです」
「手はですか」
「大事にされて下さい」
「練習も過ぎるとですか」
「よくありません」
 先生はユキに気遣う顔で述べた。
「ですから本当に」
「そうですか」
「演奏のし過ぎにはご注意を」
「では今以上演奏することは」
「あまりよくないと思います」
 実際にというのだ。
「今でぎりぎりかと。そのぎりぎりでも」
「手のことはですか」
「ご注意を。よく冷やされるなりして下さい」
「ケアも忘れないことですね」
「そうです」
「では演奏せずしてどうして学べば」
「お聴きになって読まれて下さい」
 先生はユキに率直な声で述べた。
「そうされて下さい」
「聴いてですか」
「読まれて下さい」
 そうしてくれというのだ。 
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