ありふれた日常。わりと耳にする言葉だと思うけど、改めて考えるとよく分からない。何が「ありふれた」なのだろうか。
昨日、浴衣を持った天美さんと別れる時、七夏ちゃんから「着付け5点セット」を渡されて、少し大変そうだったけど、その表情はとても嬉しそうだったな。これから天美さんにとって浴衣も「ありふれた夏の一場面」になってほしいと思う。こういう使い方なのだろうか。
トントンと扉が鳴る。俺は扉を開ける。
七夏「おはようございます☆」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「昨日はありがとうです☆」
時崎「え!?」
七夏「一緒にお買い物☆」
時崎「ああ。俺でよければいつでも声を掛けてくれていいから」
七夏「はい☆ えっと、昨日の帰りに柚樹さんがお話ししてくれた事で---」
時崎「あ! 直弥さんの件!?」
七夏「はい☆ えっとお父さんの模型さんに信号を付けるの、一緒にお手伝い。今日の宿題が終わってからでいいですか?」
時崎「ありがとう! もちろん構わないよ!」
七夏「くすっ☆ あと、朝食も出来てますので☆」
時崎「ああ! すぐに降りるよ!」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんと一緒に朝食を頂く。今はこれが日常になってきているけど、「ありふれた日常」とは思えない。この日常は「期限付き」だから、ひとつひとつを大切に受け止めたい。
七夏「!? 柚樹さん!?」
時崎「え!?」
七夏「どうしたの?」
時崎「いや、なんでもないよ。この玉子焼き、七夏ちゃんだよね!?」
七夏「え!? はい☆ どうして分かったの?」
時崎「凪咲さんの玉子焼きよりも、甘みが控えめな気がして」
七夏「くすっ☆ 柚樹さんは、このくらいの方がいいかなって☆」
時崎「ほんと、美味しいよ!」
七夏「良かったです☆」
この短い間に七夏ちゃんは、俺の好みをかなり分かってくれている。しかし、俺はというと七夏ちゃんの事をどの程度、理解出来ているのだろうか!?
俺の個人的な事を殆ど訊いてこない七夏ちゃんは、どのようにして人の心に触れているのだろうか?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝食を済ませ、自部屋に戻る。七夏ちゃんは宿題を済ませると話していた。俺の宿題は、凪咲さんと七夏ちゃんそれぞれへの、ふたつのアルバム作りと、直弥さんからのふたつの頼まれごと。七夏ちゃんのように、しっかりと計画しなければならないな。今日は直弥さんから頼まれた「鉄道模型の信号機」をレイアウトする。以前に踏切をレイアウトした事を思い出す。あの時、手を添えてくれた七夏ちゃん・・・昨日、高月さんからも手を差し伸べて貰っている俺は、いつも受け身気味だという事に気付いた。控えめだと思っていた七夏ちゃんや高月さんは、積極的な所もあるようだ。天美さんの方が積極的に手を出して来そうだけど、本当の事とイメージは、一致しない方が多い気がする。
昨日撮影した写真をデシタルアルバムに仮レイアウトする。また天美さんや高月さんにもコメントをお願いする事になりそうだけど、花火大会の時に風水に来てくれる予定だから、その時に頼んでみよう。
一通り写真の仮レイアウトを済ませる。次は鉄道模型の信号機のレイアウトだ。これは、七夏ちゃんと一緒に行う事になっているから、それまでに昨日買っていたサンキャッチャーと風鈴の組み合わせの工作を行っておく。作業自体は簡単だ。風鈴の風を受け止める短冊をサンキャッチャーと交換する。いつでも元の状態に戻せる程度の工作だ。出来上がった風鈴サンキャッチャーを窓辺から吊るして、窓を開けてみる。
しかし、サンキャッチャーが重過ぎて、風鈴の音が鳴らない。こんな事に気付けないなんて・・・。そこで、サンキャッチャーの下に風鈴を付け、その下に元の短冊を付け直した。すると、窓からの風を受け、風鈴が心地よい音色を奏で始めた。風鈴の上にあるサンキャッチャーは夏の強い太陽の光を受け止め、優しい光へと変えてお部屋に届けてくれている。俺が思ったイメージに近い結果にホッとする。しばらく、優しい音色と光を楽しむ。
トントンと扉が鳴る。
時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「はい☆ 失礼いたします」
時崎「宿題、お疲れさま!」
七夏「はい☆ あ、やっぱり風鈴です♪ 柚樹さん、昨日買ってました☆」
時崎「え!? 風鈴って気付いてたの?」
七夏ちゃんの洞察力に改めて驚く。
七夏「はい☆ 昨日、柚樹さんのお買い物から、少し音が鳴ってましたので☆」
時崎「なるほど。音、結構気になるかな?」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃん、宿題をしてる時は、静かな方がいいかなって」
七夏「くすっ☆ ありがとです。宿題をしていると柚樹さんのお部屋の方から素敵な音が聞こえてきて、少し気になりました」
時崎「やっぱり・・・宿題の邪魔をしてしまってごめん」
七夏「いえ、返って捗りました☆」
時崎「え!?」
七夏「早く柚樹さんの風鈴を見たいなって☆」
時崎「そうなの!?」
七夏「はい☆」
時崎「でも、ずっとここに風鈴があると、七夏ちゃん気になるよね?」
七夏「くすっ☆ では、1階の縁側に飾るのはどうですか?」
時崎「え!? いいの?」
七夏「はい☆ お母さんも喜んでくれると思います☆」
時崎「では、早速!」
俺が風鈴を外すと、サンキャッチャーの光の粒が壁を大きく移動した。
七夏「あっ!」
時崎「え!?」
七夏「光が・・・七色の光!」
時崎「!!!」
聞き間違いではない! 今、七夏ちゃんは確実に「七色の光」と話した。サンキャッチャーの分光は、七夏ちゃんにも七色の光に見えているのだろうか? 確かめたいっ! だけど・・・迷っていると---
七夏「柚樹さん!? どしたの?」
時崎「え!?」
七夏「早く風鈴さん! 縁側に♪」
時崎「あ、ああ!」
タイミングを、逃してしまった。
七夏ちゃんと一緒に1階の縁側へと向かう。
七夏「柚樹さん! ここはどうかな?」
七夏ちゃんの指先に風鈴を飾るのに都合のいいフックがある。以前にも風鈴を吊るしていたのだろうか? そのフックに風鈴を吊るす。風鈴は先程と同じように心地よい音色を奏で始める。
七夏「くすっ☆」
時崎「これでいいかな?」
七夏「はい☆ 不思議です☆」
時崎「え!?」
七夏「風鈴の音で涼しい気持ちになれますから♪」
時崎「そうだね」
七夏「それに、柚樹さんの風鈴は優しい光も一緒です☆」
時崎「!!!」
七夏「どしたの? 柚樹さん?」
今だ! 今、訊かなくてどうする!?
時崎「な、七夏ちゃん!」
七夏「え!?」
時崎「さっき、七色の光って話してたけど・・・」
今、七夏ちゃんは「優しい光」としか話してなかったけど、その前は「七色の光」と話していたから、本当に知りたい事を訊いてみる。
七夏「七色?」
時崎「あ、ああ」
七夏「この優しい光は、七色の光です☆」
時崎「み、見えるの? 七色に?」
七夏「えっと・・・本当は・・・」
時崎「・・・・・」
俺は七夏ちゃんの言葉を待つ、七夏ちゃんの答え次第で、俺は謝る覚悟でいた。
七夏「・・・ご、ごめんなさい」
時崎「っ!」
やっぱり、七夏ちゃんには、この光が七色には見えていないのか・・・俺が謝ろうとした時---
七夏「三色・・・四色かな?」
時崎「え!?」
七夏「ごめんなさい! 私には『ななつの色』までは見えいなくて」
時崎「ななつの色!?」
言われてみれば「七色」と言っても、色がななつに見えるのか? 俺にもこのサンキャッチャーの分光は、七夏ちゃんと同じように三色か四色の光に見える。・・・と言う事は七夏ちゃんと俺は同じ色を見ているという事なのか!? そう思うと、急に嬉しくなってきた。
七夏「!? 柚樹さん!?」
時崎「一緒だよ! 七夏ちゃん!」
七夏「ひゃっ☆ 柚樹さん!?」
時崎「あ、ごめん。急に大きな声で」
七夏「くすっ☆」
凪咲「あら? 風鈴かしら?」
時崎「凪咲さん、はい」
七夏「お母さん、ここに風鈴さん飾ってもいいかな?」
凪咲「ええ。涼しくなる音色ね♪」
七夏「はい☆」
時崎「ありがとうございます」
凪咲「お昼も用意できてますので」
時崎「すみません。あまりお手伝い出来てなくて」
凪咲「いいのよ。柚樹君が居ると、風水も色々と変わってきて、七夏も・・・」
七夏「え!?」
凪咲「なんでもないわ。お昼、よろしければどうぞ」
時崎「ありがとうございます」
凪咲さんは、サンキャッチャーの光の事については触れなかった。七夏ちゃんの事を思っての事だろうか? だとしたら、俺は・・・。七夏ちゃんの事をもっと知りたいと焦ってしまった。
七夏「柚樹さん? どしたの?」
時崎「いや、なんでもない。お昼、一緒にいいかな? 七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆ はい☆」
七夏ちゃんと一緒に昼食を頂く。いつもの日常のように思えて嬉しく思う。
この後、鉄道模型の信号機を七夏ちゃんと一緒にレイアウトする事になっている。
時崎「ごちそうさま!」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃん、俺、先に直弥さんの部屋で準備してていいかな?」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
俺は直弥さんの部屋へ移動する。机の上には俺と七夏ちゃん宛ての封筒が置いてあった。七夏ちゃんが来たら、一緒に中身を確認しようと思う。まあ、今すぐ確認しなくても中身の予想はできる。きっと七夏ちゃんが喜んでくれる物だろう。
鉄道模型のレイアウトの隣にある袋から信号機を取り出して、中の説明書を読んでおく。「3灯式信号機」と記載されているが、詳しくは分からない。6個ある信号機をよく眺めてみると、灯が付く箇所が5灯ある物もあった。信号と言えば「青」「黄」「赤」の三色だと思うけど5灯と言う事は他の色もあるのだろうか? 更に説明書を読み進めると、黄が、三灯もあるようだ。よく分からなくて少し不安になってきた。
時崎「えっと・・・確か・・・」
直弥さんから受け取っていた信号を設置するイラスト図を取り出して確認する。その指示を見ておおよその設置場所を確認する。全部で6個ある信号機だか、駅に設置する信号は「出発信号」と記されており、これが3灯式信号機のようだ。同じように見える信号でも二種類あるようで、駅に設置する2個は3灯式、他の4個は5灯式となるらしい。レイアウト上に箱のまま、おおよその設置位置に信号を置いておく。
トントンと扉が鳴る。七夏ちゃんだろう。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「柚樹さん☆ お待たせです☆」
時崎「それは!」
七夏ちゃんは俺が蒸気機関車イベントで買った「C11蒸気機関車」を手にしていた。
七夏「みんなの模型さんです☆ 後で一緒にと思って☆」
時崎「ありがとう!」
七夏「くすっ☆ あ、柚樹さん宛てのお便りです!」
七夏ちゃんも直弥さんからの封筒に気付いたようだ。
時崎「七夏ちゃん宛てでもあるよ!」
七夏「くすっ☆ 一緒になってます♪」
時崎「そうみたいだね」
一緒と言われて、なんか妙に恥ずかしくなってくる。
七夏「えっと、どうすればいいのかな?」
時崎「七夏ちゃんは、俺よりも詳しいと思うけど、とりあえず、信号機を直弥さんの指示する場所に置いてみた・・・箱のままだけど。
七夏「くすっ☆」
時崎「ひとつ開けてみたんだけど、2種類あるようだよ」
七夏「え!? そうなの!?」
時崎「3灯式出発信号機と、5灯式信号機があるみたい」
七夏「あ、出発信号機は駅の側に置くのかな?」
時崎「さすが! そうみたいだね!」
七夏「えっと、信号機を・・・」
時崎「今、仮に並べてみたけど、この位置と方向で大丈夫かな?」
七夏「はい☆ 大丈夫だと思います☆」
時崎「後は電気的な配線かな?」
七夏「お父さんの絵にあるこれの事かな?」
時崎「ふたつあるコントローラーから線を取れるようだけど、ひとつはこの前、踏切を置いた時に使ってしまっている為、既に塞がっていた。」
七夏「線はこっちからしか取れないみたいです」
時崎「そうみたいだね。信号機は6個あるんだけど、線を分配する部品が必要なのかな?」
俺は信号機の説明書を読み進める。
七夏「部品が足りなかったら、お父さんに相談しないと」
時崎「なるほど。大丈夫みたいだよ、七夏ちゃん!」
七夏「え!?」
時崎「信号機の配線は、数珠繋ぎに出来るみたい」
七夏「そうなの?」
時崎「説明書によると---」
俺は信号機を手に取り、裏側を見ると、更に配線を繋げられる拡張用端子を確認し、七夏ちゃんに見せてあげる。
七夏「なるほど☆ よかったです☆」
七夏ちゃんと一緒に信号機を設置して行く。しかし、コントローラーから遠い場所にある信号機は線の長さが足りないようだ。
七夏「えっと、こっちの線が届かないかな」
時崎「延長コードのような部品が必要になるのかな?」
直弥さんのイラスト図には電気的な配線の指示はない。さらに信号機の説明書を読んでみると、拡張端子は踏切にもあるようで、そこからも信号機を接続する事ができるようだ。
時崎「なるほど!」
七夏「え!?」
時崎「この前、七夏ちゃんと一緒に設置した踏切にも、拡張端子があるみたいで、そこからも信号機を接続できるみたいだよ。踏切の近くの信号機はここから線を取れば大丈夫!」
七夏「よかったです☆」
七夏ちゃんと一緒に6個ある信号機を全て設置、配線も完了させた。
時崎「・・・よし! これで大丈夫かな?」
七夏「はい☆ お疲れ様です☆」
時崎「最初、3灯とか5灯とかあって不安になったけど、作業は結構楽しいと思ったよ」
七夏「くすっ☆ はい☆ 柚樹さん☆」
七夏ちゃんは「C11蒸気機関車」とヘラのような物を手渡してくれた。このヘラのような物は、列車を線路に乗せる為に使う物で「リレーラー」と言うらしい。
時崎「最初は、このリレーラーを見た時、なんでそうしているのか分からなかったよ」
七夏「くすっ☆ これが無いと、列車を線路に乗せにくいですので☆」
早速、「C11蒸気機関車」を線路に乗せる。
時崎「七夏ちゃん! 客車と車掌車も一緒に!」
七夏「はい☆」
C11に客車と車掌車を繋ぐと列車らしくなった。コントローラーの電源を入れると、6個の信号機の灯火も入る。レイアウトに光の彩が加わった。よく見ると、駅に設置した3灯式信号の灯は「赤」で、5灯式信号機は「青」の光だ。同じように見える信号機だったが、灯が入ると明確な違いとなって現れた。
七夏「駅の信号が赤で他の信号は青になってます☆」
時崎「え!?」
・・・聞き間違いではない。七夏ちゃんは確かに俺と同じ「赤」と「青」を認識できている。七夏ちゃんと俺は同じ色を見ているという事なのか!? サンキャッチャーの時も思ったけど、こういう事は何度あっても嬉しくなる。
七夏「? どうしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!? いや、信号の灯が綺麗だなと思って」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、どうぞです☆」
時崎「ありがとう」
俺は、コントローラーのつまみに手を持ってくる。この前は七夏ちゃんが手を添えてくれた事を思い出す。七夏ちゃんは信号機と列車を眺めているだけで、この前のような展開にはならなさそうだ・・・だったら!
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「え!?」
俺は、コントローラーのつまみと七夏ちゃんを交互に見ると、七夏ちゃんは察してくれたようだ。
七夏「~♪」
七夏ちゃんがあの時のように手を添えてくれた。これを「日常の事」のようにしたいと思う。一緒にコントローラーのつまみをゆっくりと回すと、駅の3等式信号機が「赤」から「青」に変わった。
時崎「おっ! 青になった!」
七夏「はい☆」
七夏ちゃんも信号の「青」を認識している! さらに、コントローラーのつまみをまわすとC11蒸気機関車のヘッドライトが点灯し、ゆっくりと動き出した。そのまま列車は信号機を通過すると、青だった灯は赤になって、しばらくすると黄になり、再び青に戻った。5灯式信号機を列車が通過すると信号は青、赤、黄色2灯、黄色1灯、青と黄色、青という順番で光るようだ。
時崎「列車の信号って逆なんだね」
七夏「え!? 逆って?」
時崎「青から赤になって黄色、青になるから、道路の信号と逆かなと」
七夏「そう言われれば、そうですね☆」
時崎「列車の信号って詳しくは分からないけど、青は『進め』で、黄色は『注意』、赤は『止まれ』かな?」
七夏「はい☆」
時崎「青と黄色が一緒の場合は・・・」
七夏「えっと、確か『減速』だったと思います」
時崎「げんそく?」
七夏「速度を落とす意味だったかな? お父さんに聞いてみれば分かるかもです☆」
時崎「あはは・・・」
七夏「どしたの?」
時崎「俺が直弥さんに訊くと、訊いた事以上に答えてくれそうだなと思ってね」
七夏「くすっ☆」
しばらく、七夏ちゃんと一緒に列車を運転させ、一通りの信号機の動作確認を行った。
時崎「問題ないみたいだね」
七夏「はい☆ ありがとうございます☆ お父さんも喜んでくれると思います☆」
俺は、直弥さんだけでなく、七夏ちゃんにも喜んでもらいたい。
時崎「七夏ちゃん! これ!」
俺は、机にあった直弥さんからの手紙を七夏ちゃんに手渡す。
七夏「ありがとうです☆ わぁ☆ 図書券です! こんなに沢山!」
時崎「良かったね、七夏ちゃん!」
七夏「はい☆ えっと、柚樹さんと半分ずつです☆」
時崎「全部、七夏ちゃんが貰うといいよ!」
七夏「え!? でも・・・」
普通に話すと、七夏ちゃんは遠慮してくるのは既に知っている。七夏ちゃんが喜んで全部受け取ってくれる話し方・・・それは、俺が望んでいる事であればいいはずだ。
時崎「いつも色々とお世話になっているから、俺からの『お願い』聞いてくれるかな?」
七夏「・・・はい☆ ありがとうです☆」
七夏ちゃんは、俺の事を良く知ってくれている。俺も七夏ちゃんよりはゆっくりだけど、少しずつ七夏ちゃんの心が分かってきている事を実感している。
ひとつひとつの小さな出来事の積み重ねが日常へと育つ。七夏ちゃんの「ふたつの虹」を今日は全く意識していない・・・これこそが---
七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏ちゃんは、列車を駅に停車させて、こちらを見つめている・・・これは、俺にも分かる!
時崎「じゃ、一枚撮るよ!」
七夏「はい☆」
俺は、今日まったく意識していなかった「ふたつの虹」・・・いや、「日常の虹」を撮影する事が出来た。大切なのは、この「ふたつの虹」がどんな色なのかという事ではなく、七夏ちゃんが幸せに満たされていれば、どんな色でもいいのだと思うのだった。
第三十一幕 完
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次回予告
虹は珍しい自然現象のひとつである。「ふたつの虹」を持つ少女は、もっと珍しいと思うのだが・・・
次回、翠碧色の虹、第三十二幕
「不思議ふしぎの虹」
いや、珍しいかどうかは、その少女がその事を望んでいるかどうかだ。