八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百六十二話 夏の最後の夜その八
「それでもな」
「格闘技とかしていないしね」
「力はないんだよ、そもそも暴力はな」
「親父は嫌いだね」
「あれは小さな力だよ」
数多くある力の中でだ、親父は僕にこのことも物心ついた時から話していた。
「殴ったり蹴ったり罵ったりで相手に言うこと聞かせたり憂さ晴らしをするのが暴力だな」
「そう言ってるね、親父は」
「そんなのは本当にな」
「小さな力だね」
「そうだよ」
軽蔑を込めての言葉だった。
「だからな」
「親父は暴力は嫌いだね」
「ましてや自分より弱い者に振るうだろ」
それが暴力だともいつも言っている。
「強い相手から身を守る、正しいことの為に敢えて使うのはな」
「武力だね」
「矛を止めるな」
「戟だったかな」
「その戟の右のそれだよ」
「それを止めるだね」
「それが武力でな」
それでというのだ。
「暴力ってのはな」
「弱い相手に振るうんだね」
「自分が正しいと思っていてもそれがリンチになるならな」
「やっぱり暴力だね」
「それになるから注意しろよ」
「いるよね、暴走するけれど正しいことをしているって言う奴は」
親父にもこの話をした。
「けれどだよね」
「それはもうな」
「暴力だね」
「それだよ」
もうそれに他ならないというのだ。
「それで正しくもないんだよ」
「暴走した時点で」
「自分をいつも振り返って間違いはないか」
「自分を正しいと思うなら余計にだね」
「チェックするものなんだよ、けれどな」
「そのチェックをしないで暴走したら」
「それは悪なんだよ」
正しい、正義どころかというのだ。
「邪悪って言っていいな」
「正義とは正反対だね」
「それで使う力もな」
自分が正義でなくなるならだ、その使う力も。
「暴力になるんだよ」
「そちらになるんだね」
「寄ってたかって数でいじめ抜いたり自分より腕力なり体格なりが弱い奴を痛めつけるだけのな」
「小さい力だね」
「下らないな」
親父はこうも言った。
「そうした力なんだよ」
「本当に下らない力だね」
「ああ、そうさ」
やはり軽蔑を込めて言う親父だった。
「そんなのはな」
「だから暴力はだね」
「御前に振るったこともないだろ」
「怒られたことはあるけれどね」
それでもだ。
「暴力はないね」
「振るわれたら嫌だろ」
「誰だって嫌だよ」
「そんな力振るって得意になってる奴程恰好悪い奴もないさ」
また軽蔑を込めてだ、親父は言った。
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