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戦国異伝供書

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第五話 岐阜の城からその八

「そしてな」
「他の大名家も」
「うむ、今武田と上杉、そして毛利は忙しいが」
 三つの家は何処もそれぞれ敵と戦っているのだ、武田は北条と戦い上杉は一向一揆や関東攻めにかかっている。毛利も尼子や大友と戦っていて実は織田家に対して何かする余裕はないのだ。
「この間にじゃ」
「土台を固めていきますか」
「守りもな」
 こちらもというのだ。
「何かあっても万全の備えをしておけばよいからな」
「だからこそですね」
「今のうちにそちらもしておるしな」
 武田、上杉、毛利へのそれをというのだ。
「あと竹千代と猿夜叉にもじゃ」
「お二方にもですか」
「何かと助けてもらっておるからな」
 だからだというのだ。
「こちらもな」
「助けをですね」
「しておる」
 既にというのだ、決めたならすぐに動くのが信長でこの時もそうしたのだ。
「銭をやってな」
「やはり何といってもですね」
「銭じゃ」
 これがあってこそというのだ。
「何かが出来る、それでじゃ」
「それをお贈りして」
「助けておる」
「そうされていますか」
「そうしてじゃ」
「徳川殿と浅井殿をお助けしていますか」
「二人共頼りにしておるのじゃ」
 家康と長政、この二人をというのだ。
「だからこそな」
「そうして常にお助けして」
「頑張ってもらっておる、特に竹千代はな」
 家康、彼はというのだ。
「武田に囲まれる様にして領地がある」
「だからですね」
「何かあれば真っ先に武田と戦うことになる」
「それ故に」
「特に助けておるがあ奴は言うのじゃ」
「それは必要ないと」
「そうじゃ、申し出は有り難いがと言ってな」
 そうしてというのだ。
「わしが助けようと言ってもな、度々な」
「お断りしてですか」
「自分の家だけで戦おうとする」
「徳川家だけで」
「そうじゃ、確かに徳川家はまとまっておる」
 このことには天下で定評がある、主君である家康の下徳川家は三河侍達が一つにまとまっているのだ。
「家臣達は竹千代に絶対の忠義を誓っておってな」
「徳川代殿の為ならですか」
「例え火の中水の中じゃ」
「戦も政もですか」
「竹千代の為ならする、そして竹千代自身もな」
「家臣の方々を大事にされて」
「慈しみを忘れぬ、主従だけでなく兵や民達までもがな」
 家康、彼にというのだ。
「深い忠義を感じておる、あれだけまとまりがいい家はないし国もな」
「三河と遠江が」
 徳川家が治めている遠江はその全てではない、武田の領地となってしまっている部分もあるのだ。武田が強引に兵を進めて遠江の一部まで領土にしたのだ。
「そうなっていますか」
「そして武田と対し当家を助けてくれておる」
「ご自身も厳しい中で」
「だから銭を送ろうと言うが」
「それもですか」
「度々断る始末じゃ」
「徳川殿は律儀で謙虚な方ですが」
 帰蝶もこのことはよく知っている、家康のその人となりを。 
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