空に星が輝く様に
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410部分:第三十一話 夜の港でその五
第三十一話 夜の港でその五
「ああいう本とか雑誌読むのって」
「あっ、そういえばそうだよな」
陽太郎もだった。言われて気付いたのだった。
「何かああいう本読むのってさ」
「はい、楽しいですよね」
「病み付きになるんだよな。ネットで調べていても」
「こうすればいいとか。ああすればいいとか」
「真剣に読んでいってな」
「のめりこんでしまって」
「ああいうのかな」
陽太郎は首を傾げながら月美に述べた。
「ああいう本の楽しみ方ってさ」
「そうなのかも知れないですね。それを考えたら」
「必要なんだよな」
「ですね。デートの仕方についての本とかは」
「行く場所なんて凄いよな」
「デートスポットですね」
そこまで細かく書いてあるのがそうした本や雑誌やサイトの常である、ただしここには資本主義というものの原理も加わっていたりする。
「遊ぶ場所に食べる場所」
「何か俺達って食べる場所多いけれど」
「うふふ、ですよね」
そのことにはにこりと笑って返す月美だった。
「何か」
「だよな。それでもいいよな」
「いいと思いますよ」
「自然で」
それでだと。二人はわかったのだった。そんな話をしてだった。
やがて二人はその港がある駅に着いた。そうしてだった。
「ここだよな」
「はい、ここです」
月美が陽太郎に答えた。
「この駅です」
「じゃあここから降りて」
「港に」
「物騒な場所じゃなかったらいいけれど」
「大丈夫です。前に愛ちゃんと一緒に行きましたけれど」
椎名と一緒に行ったことをだ。ここでさりげなく話すのだった。
「物凄く落ち着いた静かな場所で」
「そういう場所じゃないんだ」
「はい。ただ」
「ただ?」
「刑事ドラマとかの舞台になりそうな場所ですけれど」
笑ってこう話すのだった。二人は話をしながら席を立ちそうして電車を出る。蛍光灯で白く照らされている駅に降りながら話しているのだ。
「最後の決着の場とかで」
「ああ、刑事が犯人を追い詰めて」
「はい、そうした感じの場所です」
「じゃああれじゃないか?」
陽太郎は冗談めかしてこんなことを言った。
「ヤクザ屋さんとかが密かに取引してたりとかさ」
「そういうのいたらどうします?」
「その時は逃げような」
月美を見ての言葉だった。
「二人で」
「二人で、ですね」
「っていうかそうなったら本当に漫画みたいだよな」
「ですよね。流石にそれはないですよね」
「ないよ。あったらかえって怖いよ」
「まあそこからはですね」
こう話すのだった。
「船が見えます」
「船がなんだ」
「それと海が」
「夜の海から」
「星も見えますから」
月美は笑顔で話していく。そうした場所だというのである。
「ではそこに今から」
「行こうか」
「はい、行きましょう」
こうしてだった。月美は陽太郎をその場所に案内するのだった。そうしてだった。
そこはだ。陽太郎にとってははじめて見る場所だった。しかし月美にとっては二回目だった。そこはあの時と同じだった。
闇の中の海から波音が聞こえる。停泊する船や街の灯りが遠くに見える。夜空には星座が瞬いている。そうした場所だった。
船の汽笛を聞いてだ。陽太郎は言うのだった。
「あのさ」
「はい?」
「汽笛って今まで何度も聞いたけれど」
港町にいるからだ。聞いていない筈がなかった。
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