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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第169話「“代償”と、決着」

 
前書き
大門の守護者、ついに決着。
いやぁ、まるでレイドボスかのように時間がかかりました。
……構想してた時はもうちょっとサクッと展開が進んでいたはずなんですけどね(司達の戦闘~“極意”発動まで)。

なお、極意状態の優輝が無言過ぎてまるで守護者が主人公側みたいになってます。
 

 








       =out side=









 ……白い、白い、何もかもが白い空間が広がる。
 “地面”となる部分以外、何もない白い空間。
 地平線とも言える部分でしか、床とそれより上の境界が分からない程、何もなかった。

「………」

 その中でただ一人、緋雪に似ている少女がいた。
 似ていると言っても、飽くまで双子や姉妹ぐらいの程度でしかないが。

「………」

 少女の名は、“優奈”。優輝から派生し、何故か独立したもう一つの人格だ。
 そんな優奈は、空中に投影した映像で、外の様子を見ていた。

「……決着は近いかな」

 その映像は、戦っている優輝の視点での映像だった。
 視点での映像とはいえ、サーチャーのように優輝そのものも映し出す事ができる。
 それを利用して、優奈はずっと観戦していたのだ。

「ここまで“可能性”を犠牲にしてきたんだね……」

 守護者と互角……否、押している戦いを見て、優奈は目を細める。

「―――最初に、“平穏の可能性”を犠牲にした。導王として在るために。緋雪を、シュネーを助けるために力を行使し、鍛え続けて」

 映し出されるのは、導王時代の優輝。
 王として国を治め、侵略から身を守るために強くなり続けた姿。
 本人曰く、“才能がある訳ではない”身で、そう在り続けるのは困難を極める。
 ……だから、“代償”があった。

「ついでにその人生での“長寿”も犠牲にしたんだね。その結果が、シュネーのあの悲劇なんだけど。……代わりに、オリヴィエとクラウスに“可能性の加護”があったけど」

 シュネーを庇い、そして死んだムート。
 それを映し出していた映像は、ムートが死ぬと同時に電源が落ちたように消える。

「―――次に、その場で覚醒させた“力と記憶”の持続。……正直、これは仕方ないかな。相手は神。対してこちらは寸前までただの人間。無理もないよ」

 次に映し出されたのは、ノイズだらけの映像。
 だが、そこには転生する前の優輝と、転生させた神の姉妹が確かに映っていた。
 ノイズが酷く、すぐにその映像が消える。

「―――そして、また“平穏の可能性”を犠牲にした。せっかく生まれ変わったのに、また大切な人を……緋雪を助けるために」

 次に映されたのは、アリサとすずか、そして緋雪が誘拐された時の事。
 暴走する緋雪を止めるために、優輝は再び“力”を手にした。
 ……それが、“平穏”がなくなるきっかけとも知らずに。

「―――次は、“人を愛する可能性”を犠牲にした。感情の一端、それを代償に力を取り戻した。……尤も、それでも心しか救えなかったけど」

 映されていた映像が消え、代わりの映像が出現する。
 そこには、海の上で緋雪の攻撃を受け止め続ける優輝の姿があった。
 そう。この時に優輝は恋や愛に関する感情を失った。
 それを“代償”にしたことで、優輝は導王の時の力を取り戻し、緋雪の心を救った。

「―――……そして、“人間として生きる可能性”を犠牲にした。心を閉ざした幼馴染を救うために、“人に戻れる可能性”を潰し続けた。結果、可能性は閉ざされた」

 映像が消え、今度はいくつかの映像が映し出された。
 優輝の偽物との戦い。司を助ける時の戦い。そして、死にゆく司を助ける時。
 それらは、全て限界を超えた力の行使だった。
 故に、優輝は“人間”ではなくなり、受肉した“英霊”となった。
 司の命を救うその時まで、“人に戻れる可能性”はあったのに。
 それを潰して、司を救っていた。

「―――そして、今」

 映し出した映像は消え、改めて外の様子を映す映像に視線を戻す。

「……“感情”を、犠牲にした」

 そういう優奈の表情は、苦虫を噛み潰したかのように歪んでいた。

「……嗚呼、このままだと、“可能性”の代償で力尽きるのが先かもね」

 そこまで言って、“いや”と優奈は考え直す。

「“可能性”は私たちの領分。まだまだ乗り越える“可能性”は尽きていない。……私も、そのためにいるようなものだしね」

 “それに”と続け、別の映像を出す。
 そこには、なのはと奏が映っていた。

「……どうやら、私だけじゃないみたい」

 微かに笑みを浮かべて、全ての映像を閉じる。
 そして、何もない白い空間を見上げながら、ぽつりと呟いた。



















   ―――……時は、もうすぐそこまで来ている。覚悟、決めなきゃね

























 一方、司達は。

「………」

「………」

 意味深な発言をしたなのはと奏に、二人をよく知る者達の視線が集中していた。

「“代償”って……“可能性”って……何を、知っているの?」

「………」

「ねぇ!!」

 司の言葉に、二人は答えない。

「どういう、事なの……?」

「わ、私にもわかんないよ……」

「………」

 フェイトもアリシアも、困惑していた。
 二人をあまり知らない鈴達は、周囲の警戒と戦況の把握をしながらも、なのはと奏に注意を向けていた。

「ッ………」

「帝?」

 そして、帝は。
 帝だけは、二人を見て震えていた。
 まるで、二人の正体を知っており、それで恐れているかのように。

「……っ、は、れ……?」

「えっ?」

 その時、なのはと奏はいきなりふらつく。
 すぐさま体勢を立て直したが、様子が変わって……否、戻っていた。

「な、何!?え、私、何か変な事した?」

「……?……?」

 注目されている事になのはも奏も困惑する。
 それは、寸前までの事を何も覚えていないかのようだった。

「覚えて……ないの?」

「え……っと……うん。レイジングハート、私、何か言ってた?」

〈……Yes(はい)

 なのはの問いに、レイジングハートが肯定すると共に先ほどのやり取りの記録を流す。

「嘘……何、これ……」

「ッ………」

 その記録になのはと奏も絶句する。
 何せ、二人にとってはちょっと眩暈がしてふらついた記憶しかない。
 だというのに、まるで別人になったかのように記録では振舞っていた。

「(……何者かによる乗っ取り?それも、優輝君について何か知ってるようだった。優輝君なら何かわかる……?……ダメ、今の情報だけじゃわからない。それに……)」

 皆が困惑する中、司はどういう事か推測するが、それを一端止め、優輝の戦闘へと目を移した。

「(……戦況が、そろそろ動く)」

 司がそう考えた瞬間、優輝が掌底で守護者を吹き飛ばしたのが見えた。













「(術式への干渉、空間の跳躍、私の動きの見切り。……あまりに、凄まじい)」

 掌底に吹き飛ばされた守護者の頭の中は、そんな思考が占めていた。
 この時点において、優輝は完全に守護者を上回っていた。
 霊力量も、力も、ほとんどにおいて守護者は未だに優輝を圧倒できる程だ。
 だが、それを凌いで余りある程に、優輝の……導王流の極意が凄まじかった。

「ッ……!」

 体勢を整え、着地する守護者は、すぐに追いついてきた優輝へと刀を繰り出す。
 だが、その攻撃は受け流され、カウンターが返される。
 それを、守護者は最小限の範囲の障壁で受け止め……

     ギィイン!!

「くっ……!」

 その障壁を“ずらされた”。
 術式の中にある“座標の設定”に干渉し、吊り下がっている物を手で払うようにずらされたのだ。

「ッ!」

 即座にもう一刀を振るう。
 当然のようにそれは受け流されるが、さすがに守護者もそれを想定していた。

「(脱力した所から一気に振り抜く……なるほど、それでただ振るうよりも威力を出してるんだ。おまけに、力の“流れ”に干渉するような動きをしている……!)」

   ―――“弓技・瞬矢-真髄-”

 即座に跳躍。優輝の上を取る。
 そして、素早く矢を連射。その反動でさらに上へと上がる。

「ッッ……!」

 直後、守護者は頭を傾け、寸前まで頭があった場所を、優輝の手刀が貫く。
 神速で放たれる連続の矢を受け流しながら守護者の位置まで間合いを詰めてきたのだ。

「ふっ!」

「くっ……!」

     ギィイン!!

 投擲により手元を離れていた槍が、守護者の手に収まる。
 呼び戻しの術式によって取り寄せた槍で、守護者は優輝の追撃を防いだ。

     ギィイン!!

「っつ……!」

 直後に優輝は守護者の背後に転移。
 そこからの攻撃を守護者は受け止め、地面に叩きつけられるかのように着地する。

「(物理攻撃も、霊術も受け流される。“受け身”の戦法なのに、相対する私が防戦一方になるほど、攻撃が通用しない……!)」

   ―――“氷柱-真髄-”
   ―――“氷柱-反-”

 長柄な事を活かし、守護者は槍で優輝の攻撃を防ぐ。
 隙を見て、身を躱しつつ霊術で攻撃をするが、それを受け流した上に同じ術で反撃されてしまう。

「っ……!」

   ―――“風車-真髄-”

 返された霊術を違う霊術で相殺し、槍を振るう。
 当然のように受け流され、反撃が繰り出され、守護者はそれを槍の柄で逸らす。

   ―――導王流弐ノ型“流貫”

「ッ―――!?」

 刹那、その槍の防御をすり抜けるように、手刀が守護者へと迫る。
 顔を逸らす事でその一撃を躱し、蹴りと霊術を放つ。
 その攻撃が受け流され、反撃が来る前に守護者は障壁を張り、それを足場に後方に跳躍して間合いを取る。

「(私の“癖”をあの一瞬のみ完全に見切っていた……!見切る範囲を狭める事で、それを可能としているの……!?)」

「………」

「(だったら……)」

 “極意”のあまりの凄まじさに、守護者は驚愕してばかりだった。
 ……だが、さすがに慣れてきたらしい。

「(私も、“対応”すればいい)」

「ッ!」

     ギギギギィイイン!!

 槍から二刀に戻し、刀が振るわれる。
 その一撃一撃の軌道を、優輝は対処するが……。

「む……」

 ……反撃に出る事は、なかった。

「(動きを変えてきたか)」

「ふ、はぁっ!」

 一刀が振り抜かれ、それを受け流した手を切り落とそうともう一刀が迫る。

「ッ!」

「……!」

 その一刀も受け流され、反撃が繰り出され……る前に、霊術でそれを阻止する。

「(堅実……隙を潰した戦法。長期戦に持ち込むつもりか?)」

     ギィイン!ギギィイン!!

 優輝の扱う“極意”は、攻撃に優れている訳ではない。
 カウンターが基本となるため、堅実な戦い方に変更した守護者なら、お互いに攻撃を食らう事なくやりあう事が出来ていた。

「(いや、違う。動きを見極める気か)」

「ふっ……!」

     ギギギィイン!!

 二刀と霊術を巧みに扱い、器用に優輝の反撃に対処する。
 必要以上に突っ込んだ攻撃をせずに、優輝の動きを探るように守護者は戦闘を続ける。

「(……どの道、長期戦は必至。だが、生憎素直に受け入れる訳にはいかない)」

 守護者の狙いを瞬時に見抜いた優輝は、すぐに対策を行う。
 否、仕掛けていた魔法を使用した。

「ッ……!?」

 優輝の後方で浮かぶ本……グリモワールが輝きだす。
 正しくは、グリモワールに乗っている術式の理論から遠隔で術式を構成し、その術式が発動するために光っていた。

「槍よ、黄昏を穿て」

   ―――“Gungnir(グングニール)

「っ、この……!」

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”

 術式から槍のような砲撃が放たれる。
 それに対し、守護者は地面を蹴って優輝との間合いを取り、矢で迎撃を試みる。

「ッ……!?」

 そこで、魔法に詳しくない弊害が出た。
 その槍のような砲撃は、左右に分裂したのだ。
 砲撃が分裂した事により、放たれた矢は素通りした。
 そして、射線上にいたはずの優輝もその場から姿を消していた。

「くっ……!」

 分裂したり、一つに戻ったりしながら、砲撃魔法は守護者を追いかける。
 それに対し、守護者は障壁と矢を駆使し、相殺する。

「はっ!」

 同時に御札を頭上に投げつける。
 御札から放たれた霊術が、守護者に向けて掃射されていた剣群を弾き飛ばす。

「遅い」

「ッ……!」

 その剣群に隠れるように、優輝は遥か上空にいた。
 守護者が優輝が何か仕掛ける前に阻止すべく、即座に跳ぶ。
 しかし、守護者はここで判断ミスをしていた。
 優輝を止めるよりも、横へ逃げた方が確実だったからだ。

「圧し潰せ」

   ―――“Gravitation(グラヴィタツィオーン)

 空に浮く優輝のやや下方に、優輝を中心に五つの魔力結晶が浮かぶ。
 それらの魔力結晶が魔力の基点となり、魔法が発動する。
 五つの魔力結晶の内側且つ下側。
 つまり、守護者がいる場所を含めた広範囲が、魔法の範囲内となる。

「ッッ……!?」

 その魔法は、重力魔法。
 司が使う魔法とはまた別の魔法である。
 効果としては最も守護者に効く魔法の一つでもある。
 なお、他の魔法で援護ができないため、足止めにしかならないが。

「ふっ……!」

 次の瞬間、優輝は自ら重力魔法の範囲内に飛び込んだ。
 重力魔法に伴い加速する体。さらに自ら飛行魔法で下へと飛ぶ。

「ッ―――!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 明らかに捨て身の攻撃。
 それに対し、守護者は障壁を張る。

「(当てても外してもその反動は致命的。ならば障壁を張る事で僕だけが自滅すると考えたのだろう。ああ、確かに正解ではある。これが普通に当たれば、僕は死ぬ)」

 重力魔法で加速をつけてはいるが、攻撃を当てた際の反動は計り知れない。
 少なくとも、落下によるダメージで優輝の体はザクロのように飛び散ってしまうだろう。

「(だが、守護者よ、忘れたか?)」

 しかし、優輝がそんな事を考えていない訳がない。

「(この重力魔法の制御は、僕がしている事を)」

 刹那、重力魔法の術式が破棄される。
 同時に、優輝はマルチタスクを行使。
 重力による拘束が守護者から解けると同時に転移魔法の術式を構築。
 転移し、障壁の範囲外である側面へと移動する。

「ッ……!」

「遅い」

   ―――導王流弐ノ型“穿掌(せんしょう)

     ドンッ!!

 守護者は、辛うじて刀を割り込ませる事に成功する。
 しかし、受けるのは刀の腹。故に、そのまま吹き飛ばされる。

「ッ、がはっ!!」

 刀ごと吹き飛ばされ、守護者は木々を折りながら叩きつけられる。
 霊力による身体強化でまだ戦闘続行が可能だが、大ダメージを与えた。

「……」

 間髪入れずに優輝は転移魔法で間合いを詰めようとして……







   ―――ズキン……!







「―――ガ、ア……ッ……!?」

 その体が、途轍もない痛みに襲われた。
 そして、同時に“極意”も解けてしまう。

「っづ……!!」

 意識が引き戻されるように、優輝は“我に返った”気分に襲われる。
 力が抜けるような感覚と共に、今までの動きが出来ないと悟る。

 ……それもそのはずだった。
 この場にいない他の皆は当然、相対していた守護者も気づいてはいなかったが、優輝は“極意”を使っている間は、意識が半分なかったも同然だからだ。
 戦闘によって蓄積したダメージと、ほぼ力を使い果たした事が影響した事で、優輝は半分意識を失った状態となり、ほぼ本能のみで動いていた。
 それこそが、導王流に“極意”に至るための道標だったのだが。

「ぉ、ぉああっ……!!」

 意識が引き戻された事で、優輝の体は思うように動かない。
 だが、それでも、優輝は前へと踏み出す。

「ッ……!!」

 一歩、踏み出す。
 地面を踏みこみ、最小限の力のみで守護者との間合いを詰める。
 転移魔法は既に使用不可能。
 魔力は底をつき、魔力結晶で回復しても転移の負荷に体が耐えられない。
 よって、自力で間合いを詰めた方が最善と判断し、足を踏み出していく。

「ッッ……!!」

 さらに一歩、踏み出す。
 守護者も膝を付き、立ち上がろうとしている。
 優輝が辿り着くのが先か、守護者が復帰するのが先か。
 それで、勝敗が決まる。

「ッッッ……!!」

 さらに一歩、踏み出す。
 既に間合いはほとんどない。
 優輝の攻撃範囲に入るまであと少し。



   ―――“弓技・螺旋-真髄-”

「っ、ぁ――――」





 その瞬間、優輝は守護者が矢を放つのを見た。
 今更避ける事は出来ない。
 故に、攻撃のための一撃を迎撃に使おうとする。
 しかし、一瞬遅い。
 間に合わず、その矢が眉間へと吸い込まれるように飛び……





   ―――“Scarlet arrow(スカーレットアロー)



     ギィイイイン!!





 遠方から飛んできた紅い矢によって、弾かれた。

「っ……!!」

 故に、最後の一手が、届いた。

「っつぁっ……!!」

   ―――導王流弐ノ型“穿掌”

 血を吐くと共に、渾身の一撃を守護者に放つ。
 ダメージが大きかった守護者は、攻撃が弾かれた動揺から復帰するのに遅れた。
 そのため、防御が片手しか間に合わず、直撃する。

「が……はっ……!」

 背にしていた木々を突き破り、吹き飛ばされる。
 同時に、優輝はその場に倒れこむ。
 体の限界が来てしまったのだ。

「っ……今、のは……」

 うつ伏せから仰向けになり、優輝は矢が飛んできた方向を見る。
 優輝はあの瞬間でも、飛んできた矢の魔法をしっかりと見ていた。
 そして、それが良く知った魔法であることも分かっていた。

「……ありがとう、緋雪……」

 いるはずがない。そう思っても、優輝はそう言わざるを得なかった。
 尤も、緋雪は実際に来ているのだが、それを優輝が知る由もなかった。







「……まったく、お兄ちゃんは……」

 優輝が倒れこむ遠方で、矢を放った緋雪はそう呟く。

「あれだけやっても、守護者はまだ倒れないなんてね……」

 緋雪の体力もまだ戻ってはいない。
 それでも、優輝を助けるために緋雪は魔法を放っていたのだ。

「無理した代償かな……もう、時間が近い」

 そう言って、緋雪は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。







「終わった……の?」

 戦闘を見続けていたアリシアが、呆然とそう呟く。
 誰もが、これで勝ったと思っていた。

「っ、う、嘘……!?」

 ……だが、それを覆す存在がいた。

「ま、まだ立つって言うのか……!?」

 そう。守護者が、まだ立ち上がるのだ。

「っ、行くよ……!」

 それを見て、司が助けに行こうとする。
 それに続き、他の面子も助けに行こうとして……

「その必要はないよ」

 合流してきた紫陽によって、それは止められる。

「……もう、決着はついた」

「で、でもまだ守護者は……!」

「いや、時が来たのさ。黙って見てな」

 成り行きを見届けろと、紫陽は目でそう言った。
 あまりに確信めいたその言動に、誰もが足を止めて再び成り行きを見た。







「……まったく、笑えない、な……」

 立ち上がり、再び戦闘が可能になった守護者を、優輝も見ていた。
 魔力を使い果たした優輝とは違い、守護者はまだ霊力があった。
 それにより、体のダメージをある程度回復してしまったのだ。
 既に蓄積したダメージで弱っているとはいえ、それでも今の優輝では勝つのは絶望的でしかなかった。

「…でも、やるしか、ない、か……」

 息も絶え絶えになりながらも、優輝は立ち上がろうとする。







「大丈夫だよ」

「―――何?」

 その時、優輝の背後から声が掛けられた。
 その声は、視界に映る守護者と同じ声で……

「……あとは、私が責任を持って決着をつけるから」

 そして、姿さえも、瓜二つだった。









「……やっと、現世に出てこられた」

 彼女は“有城とこよ”。
 守護者の本体である存在だ。
 “やっと”と言う言葉の通り、彼女は現世に出るのに手間取っていた。
 
 ……そう。これは紫陽が言っていた“解決策”。
 守護者の本体であるとこよ本人が干渉し、守護者を倒す事。
 干渉には時間がかかるため、紫陽は犠牲が多くなると言っていた。
 その時間が、ついに満たされたのだ。

「ここまで弱らせたのに容赦なくやるのもどうかと思うけど……」

「……貴女は、一体……」

 前に出るとこよに、優輝は思わず尋ねる。
 二人称が“貴女”になったのは、その身から発せられる強さを感じ取ったからだろう。

「私は有城とこよ。幽世の守護者にして、幽世の大門を閉じる者。……志導優輝君だね?後は任せて大丈夫だよ」

「……有城、とこよ……」

 話に聞いていた本人の登場に、優輝も驚いていた。
 それを尻目に、とこよは守護者と向き直る。

「……私にも、人並みの寂しさはあったんだろうね。故郷……というより、あの学園に帰りたくて、江戸があった場所へと向かっていた。……でも」

「ッ……!」

     ギィイイイン!!

「もう、終わりの時間だよ」

 大ダメージを受けたとは思えない程の勢いで、守護者はとこよへと斬りかかる。
 それを、とこよは冷静に受け止め……

「さぁ、幽世に還って!!」

   ―――“刀奥義・一閃-真髄-”

     ギィンッッ!!

 刀を弾き、もう一刀で一閃を放つ。
 それにより、守護者の刀が弾き飛ばされ、守護者も大きく後退した。

「ッッ……!」

「遅いよ」

   ―――“秘術・劫火(ごうか)
   ―――“秘術・氷華”

 術式の込められた御札が二枚放たれる。
 その御札から炎と氷が発せられ、守護者が放とうとしていた術式を破壊する。
 守護者は咄嗟にその術式のための霊力を防御に回したが、破られて吹き飛んだ。
 真髄に至った術ではないが、御札一枚で放つという早さで守護者を圧倒した。

「ふっ……!」

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”

「っづ……!?」

 間髪入れずに、とこよが矢を放つ。
 それを避けきれなかった守護者は、片腕を吹き飛ばされる。

「ァアッ!!」

   ―――“禍式・束瘴波”

「シッ!!」

   ―――“槍奥義・玄武貫-真髄-”

 足掻こうと、守護者から瘴気の砲撃が放たれる。
 優輝の持つ導標の神力での阻害がなくなったため、再び瘴気が扱えるようになっていた。
 しかし、とこよはそれを槍の一突きで打ち払った。
 そのまま、とこよは守護者へと間合いを詰める。

「ッ……!」

   ―――“禍式・護法瘴壁”

 このままではいけないと、守護者は瘴気による障壁を張る。
 そこへ、とこよは武器を斧に持ち替えて……

「はぁっ!!」

   ―――“斧奥義・天蓋砕-真髄-”

 強力な一撃の下、その障壁を消し飛ばした。

「ッッ……!?」

「もう、使わせないよ」

   ―――“秘術・神禊-真髄-”

 さらに、とこよごと守護者を囲むように御札がばら撒かれる。
 術式が発動し、その中では瘴気が浄化されるようになった。

「ッ、ァアアアアアアアア!!!」

 追い詰められ、本体が現れ、守護者は完全に理性を失っていた。
 残った片腕で、最後の力を振り絞って刀を振るう。









「これで、トドメ」

   ―――“森羅断空斬”







 ……それよりも先に放たれた一刀により、守護者は断ち切られた。
 守護者は刀ごと左右に分かたれた事に気づかないまま、その場に倒れ伏した。















 
 

 
後書き
Gungnir(グングニール)…追尾式の分裂可能砲撃魔法。単発という欠点を、分裂する事で補っている。緋雪が使うグングニルとはまた別扱いの魔法。

Gravitation(グラヴィタツィオーン)…“重力”のドイツ語。グリモワールに記載されている魔法の一つ。魔力の基点を五つ設置し、その内側且つ下側に、強力な重力を掛ける。消費魔力は割と多い。

穿掌…導王流弐ノ型において、シンプル且つ威力の高い技。文字通り敵を穿つような掌底を放つ。今回の場合は、重力魔法による加速もついていたため、威力は桁違いになっている。

秘術・劫火…秘術・氷華の炎バージョン。威力も氷華とあまり変わらない。


最後は本人がトドメ。
これでもとこよは本調子を取り戻せていません。本調子どころか、本来の力の四分の一も出せないような状態です。
それでも倒せたのは、それだけ守護者を弱らせていたからに尽きます。
なお、もし守護者が万全だったとしても、表に出ずにもう少し干渉を続けていれば今回の状態にまで弱って倒す事が出来ます。 
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