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犬を引き取って

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第一章

               犬を引き取って
 紫樹は村で薬屋を営んでいる、その彼のところに村の老夫婦が彼の好物である和菓子を持ってきて言ってきた。
「一つお願いがあるが」
「いいかのう」
「多分ですが」
 その老夫婦にだ、紫樹は怪訝な顔で尋ねた。
「僕に頼みにくいお願いですよね」
「ああ、わかるか」
「やっぱりわかるのね」
「はい、お二人は犬を飼っておられますね」
 このことを彼から言った。
「ということは」
「そうなのじゃよ」
「他に頼める人がいなくてねえ」
「うちのシロを預かってくれるか」
「わし等が旅に出ている間」
「何、ちょっと寺参りに行ってな」
 夫の方が彼に言ってきた。
「それで温泉に入る位じゃ」
「二週間位かのう」
 女房の方も言ってきた。
「大体」
「それ位の間預かってくれるか」
「それだけでいいんじゃ」
「物凄く大人しい子だからのう」
「と言われましても」
 紫樹は老夫婦に困った顔で返した。
「僕は猫は好きですが」
「しかしじゃ」
「他に頼める人もおらんのじゃ」
「だからここはな」
「二週間の間だけ頼む」
「お金は払うし」
「預かってくれるだけの報酬は支払う」
 そう言ってだ、老夫婦は紫樹に小判を数枚出した。
「和菓子もよかったらもっとあげるぞ」
「だからじゃ」
「和菓子、ですか。それに」
 小判も見て言うのだった。
「お金も多いですし」
「だからのう」
「ここは頼めるか」
「そうですね」
 紫樹にしてもそこまで頼まれるとだった。
 断れなかった、しかも和菓子と小判の魅力もあった。それで犬は苦手でもそれでもであった。
 彼は老夫婦にだ、こう答えた。
「仕方ないですね」
「おお、そうか」
「そう言ってくれるかい」
「はい」
 こう答えた紫樹だった、こうして彼は老夫婦の犬を引き取ることになった。だがその白く大きな犬が家に来てだ。
 彼はすぐにだ、お手伝いとして雇っている隣の家の双子に対して言った。
「悪いけれど犬の世話も頼むよ」
「うん、やっぱりね」
「そうなるわよね」
 双子は紫樹の言葉にわかっていたと返した。
「先生が犬を引き取るって聞いてね」
「そうなるって思ったわ」
「絶対に私達に世話しろって言うって」
「そう思っていたわ」
「だってね」
 それこそとだ、紫樹は言うのだった。
「僕は犬は駄目なんだ」
「猫は好きだけれどね」
「犬はその猫と正反対だから」
「もう犬は駄目」
「そうよね」
「そうだよ、色々あって引き取ったけれど」
 老夫婦から一時とはいえだ、相手の交渉能力の前に負けて。 
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