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ラジェンドラ戦記~シンドゥラの横着者、パルスを救わんとす

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第一部 横着王子
序章 原作以前
  第五話 求婚成否

残念ながら、サリーマの反応は芳しくなかった。

「私はね、生まれたときに『この子は王妃になるべき運命の下に生まれてきた』と国一番の占い師に言われたんですって。その言葉を現実のものとする為に、私は懸命に努力してきたわ。頭脳を磨き、心を磨き、美しさにも磨きをかけてきた。そんな私を王太子に選ばれなかった貴方がどうやって王妃に出来ると言うの?」

そんな彼女の言葉にもかなり食い下がったんだけどな。

「結論として、貴方にそれが出来ると私には到底思えない。残念でしょうけど、諦めて下さらない?」

冷たくあしらわれて、彼女の部屋から締め出された。

呆然と立ち尽くしていると、屋敷の使用人が俺の脇を足早に通り抜け、部屋の扉を叩いた。

「お嬢様、今度は王太子殿下がお見えです。こちらにお通ししてもよろしいでしょうか?」

「まあ、殿下が!勿論よ、すぐにお通しして。くれぐれも失礼の無いようにね」

「かしこまりましてございます。ただちに」

使用人はマッハでその場を立ち去り、すぐに兄ガーデーヴィを連れてきた。

兄はまず俺がここに居ることに驚いた表情をし、次に俺の表情を見て事情を察したようで納得の表情を浮かべ、更に傷心の俺を労るような眼差しを向けた。

もうやめて!そんな目で俺を見ないで!俺のライフはもうとっくにゼロよ!

そして、稚気を含んだ笑みを顔に貼り付け、

「うむ、丁度いい。お前には立会人になってもらおう!一緒に来い!」

俺は強引に腕を掴まれ、部屋に引っ張り込まれた。

そして、二人だけの世界が繰り広げられ、俺は兄の求婚シーンを目の当たりにする事になった。

サリーマは兄の求婚の言葉に頬を薔薇色に染めて頷いた。マヘーンドラも滂沱の涙を流しながら、ウンウンと頷いていた。

…いや、おっさん、あんた一体いつの間にここに居るんだよ…

◇◇

悄然と肩を落としたまま立ち去るラジェンドラ王子と、笑み崩れながら足取りも軽く王宮へ戻っていく父上(仕事を放り出したままなのだそうだ。…と言うかいつの間にここに居たのかしらね?)の姿を見送って、私は部屋の扉を締め、辺りに人の気配が無い事を確認して、部屋に残ったままの王太子殿下に軽く頷いてみせた。

「で、弟はどんな事を口走っていた?」

「『俺には未来が判る。パルスは4年後にルシタニアとの戦争に敗れ、王太子アルスラーンがペシャワールに逃げ延びてくる。彼の陣営は後方を安定させる為、俺を王位につけようとこの国に攻め込み、戦象部隊をも撃破した上で国都まで迫り、神前決闘を経て俺が王位を継ぐ事になる』ですって」

そんな訳の判らない事を、彼はしきりに言っていた。本当にどうかしていると思う。殿下もこめかみを押さえている。

「…万に一つも起こりえない事ばかりだな。ルシタニアなどはるか西方の貧乏国だろう?それがパルスを倒す?逃げ延びてくるのは王太子だけ?あのアンドラゴラス王が討たれるとでも?それにあの弟がパルス人にそんなに信用されると言うのか?」

「私もその辺りの事は指摘しましたわ。でも、彼は『必ずそうなる。俺は判ると言うより、そうなると知っているのだ。何故ならこの世界はアルスラーン戦記と言う物語の世界だからだ』と…」

「…シンドゥラ王家は200年以上、狂人を身内から出してない事が自慢だったんだがな。あいつ、もうどこかの寺院にでも幽閉した方がいいかもしれん」

「諜者の一族が彼を素直に渡すとは思えませんわ。しばらく機会を伺うしかないのではないでしょうか?」

「くっ、頭が痛い。頭が痛いぞ、私は」

殿下は頭を抱えながらフラフラとし、寝台に倒れ込んだ。そして、こちらをチラリと見る。

「なあ、癒やしてもらえるか、いつものように」

ええ、癒やし合いましょうか、寝台の上で、一糸まとわぬ姿になって。


そして、事が終わった後、私は気になっていた事を訊いてみる事にした。

「そう言えば、さっき仰っていたのは本当ですの?本当に王家からは200年以上狂人が出ていないと?」

「ああ、あれはとある人の有名な言葉の真似なのだよ。本当に出ていないかは確かめないとならないな」

「まあ、そうだったのですね。それでどこのどなたの?」

「ここから遥か遠くにあるフェザーンと言う国の、ボリス・コーネフと言う男のね」

◇◇

「で、ガーデーヴィ兄、俺に頼みたい事って何だよ?」

こんなぞんざいな言葉遣いが出来るのも、謁見の間ではなく、人払い済みの摂政執務室に呼び出されているからだ。どうも内密の要件であるらしい。

「お前にはパルスへ行って欲しいのだ。そして、次の代の私の治世からはシンドゥラはパルスと友好関係を結びたいと伝えて欲しい。まあ、今のところは打診のみで構わないがな」

ああ、確かに去年、シンドゥラはトゥラーンやチュルクと共にパルスに攻め込んだばかりだからな。一応、あの戦の直後には弁明の使者を出したが反応は芳しくなかったし、一朝一夕に友好関係は難しいかもしれない。だが、代替わりを控えた今攻め込まれても困るし、打診と共に時間稼ぎをしたいと言う事か。

そう言えば、そろそろあの出来事が起こる頃合いだったっけ。それが起こるのを防いでしまえば、また大きく歴史が変わる。アルスラーンの翼将の数が変わってしまうかもしれない為、以前はどうすべきか迷っていたが、最近肚が決まった。例え歴史が変わったとしても、幾人もの人間の運命を捻じ曲げたあの出来事を必然などと俺は呼びたくはない。俺の力が及ぶならば、防ぐ為に行動すべきだと思う。万事狙い通りに事が運べば、あの恐ろしい敵の一味に楔を打ち込む事も出来るかもしれないしな。あと、現時点では所在不明のあの男にも出来れば巡り会いたいけれど、それはどうだろうか、難しいだろうか。

「兄上、その仕事を済ませた後、少しばかり寄り道してみたいんだが構わないか?」

「別に構わんが、何処へ行きたいんだ?」

「フゼスターンのミスラ寺院に」

十八歳のピチピチギャル時代のファランギースに会いに行きます。
 
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