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戦国異伝供書

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第二話 百姓の倅その八

「それはまた」
「何、それがしの今の禄なら」
「絹もかい」
「買えまする、ですから」
「これからもかい」
「買わせてもらいます」
 是非にと言ってだ、そしてだった。
 木下は母を屋敷に入れて秀長も取り立てることにした、そうして屋敷の中で女房のねねに言うのだった。
「いや、こうしてのう」
「あっという間にだね」
「武士になれて屋敷を建てて母上もお迎え出来た」
 それでというのだ。
「わしは果報者じゃ」
「そうだね、けれどね」
「それでもじゃな」
「あんたまだまだだね」
「うむ、いつも言っておるな」
 木下はねねに強い声で返した。
「わしの夢はな」
「城主様だね」
「そうなるからな」
「だからそれまでは」
「どんどん働くぞ」
「そうしなよ、しかしね」
 ねねは夫のやる気に笑顔を見せた、だがその笑顔と共に彼にこうも言うことを忘れてはいなかった。
「死ぬんじゃないよ」
「戦に出てもな」
「傷位はいいけれどね」
「それはもう結構受けておるわ」
 刀傷なり矢傷なりとだ、木下も服を脱げばその身体は結構なものになっている。
「しかしじゃな」
「そうだよ、死ぬことはね」
「わかっておる、それはじゃ」
「絶対に死ぬんじゃないよ」
「その要領はわかっておるしな」
「用心もしてね」
「やっていくわ」
「あと子供だよ」
 ねねは木下にこちらの話もした。
「もうけないとね」
「それじゃな、何か又左殿はな」
「ああ、おまつさんとだね」
「占いで随分子沢山になると言われたそうじゃ」
「いいことじゃないか」
「殿も弟様妹様が多いしのう」
「それじゃああんたもだよ」
 夫に笑ったまま言うねねだった。
「子供は沢山ね」
「そうじゃな、もうけねばのう」
 こうした話をしてだ、木下は侍になって大きな屋敷も持った。だが間もなく織田家は今川家が攻めてきて大きな危機を迎えた。
 だがその時にだ、織田家の家臣達は誰もがだった。
 信長の下に揃っていた、佐久間はその中で平手に言っていた。
「誰もです」
「去ろうとはしておらんな」
「叔父上もです」
 佐久間は自分の叔父のことも話した。
「是非今川家の軍勢を迎えうち」
「例え討ち死にしてもか」
「よいと文で言われています」
「そうか、そしてお主もじゃな」
「無論、戦になれば」
 その時はとだ、佐久間は平手に毅然として答えた。
「織田家の、殿の捨て石となろうとも」
「戦うな」
「そうさせて頂きます」
「わしもじゃ、これでも昔は戦の場で結構暴れてきたわ」
 平手もこう言うのだった。
「だからな」
「戦になれば」
「殿の盾にもなってな」
「戦われますな」
「最後の最後までな」
「今川の軍勢は二万五千、我等は一万五千」
「兵では不利じゃな」
 平手はこのことをはっきりと述べた。 
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