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ノーゲーム・ノーライフ・ディファレンシア

作者:シグ@グシ
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第1部 ゲーマー少年は盤上の世界に降り立ったそうです
  第1話 可能性



一芸も極めれば万事に通ず────そんな言葉をご存じだろうか。
ついでに────芸は身を助けるなんて言葉も、付け加えておこう。
無論、意味があって問うている。具体的には……そう。

唯一神に召喚され、とてもお困りの一人のゲーマーを前にして、浮かんだ問いだ────。


時は数時間前に遡る。
日の光を遮るカーテンが時間感覚を奪い去る部屋で、一人の少年が謎のメールに首を傾げていた。
【新着一件────件名:シグへ】

「……おかしい。このアドレスはゲーム広告だけを拾うハズなのに」

少年は、本来届くはずのないメールを訝しげに眺める。
彼のメールアドレスは、ゲーム広告以外の────通常のアドレスからのメールは、全て迷惑メール扱いして削除されるよう設定してある。そのメールアドレスに、こんな普通のメールが届くはずがないのだ。
少年は謎のメールに何か得体の知れない物を感じながらも、本文を読むだけならウイルスなどにも感染するまいと判断しそのメールを開いた。
だが────彼は知らない。その行為が、いったい何を招くかを。

開かれたメール、その本文を少年は読んでいく。そして────本文を読み進めるごとに、その表情はみるみる険しくなっていった。

「『  』と戦いたくないか、だと……?」

少年は、本文の一部を忌々しげに読み上げる。
────それは、俺が現最強ゲーマー『シグ』と分かって言ってるのか、と。

無論、『  』と戦いたいかと言われりゃ、100%「イエス」だ。だが、これで本当に『  』と戦えるなんて事は有り得ない。何故か?
『  』がアカウントを介さず、こんなメールで対戦を仕掛ける訳が無いからだ。失踪した『  』が、わざわざ普通に復活せずこのようなメールを送り付けるなど不可解にも程がある。もし『  』が俺と戦いたがっていたとしても、『  』は普通に自分のアカウントを使ってシグのアカウントにメッセージを飛ばせばいいだけだ。わざわざメールで誘う理由がない。ならば、このメールを送り付けた奴は『  』本人ではない。
となると後はメールの送信者が『  』と通じているという線しか残らないが────それも有り得ない。
もしメールの送信者が『  』と通じているならば、『  』の素性はいつしか漏れたはずだ。今こうして勝手に『  』の名を出している時点で、『  』の情報を隠し通そうという意思はまずないのだから。にも関わらず、『  』の情報漏れはない────つまり、コイツは『  』と通じてなどいない。ならば────このメールに反応した所で、『  』と戦うなど出来やしない。

「『シグ』を煽った事は水に流してやる……つーか、かまってやるのが馬鹿馬鹿しい」

通常ならば大正解の推察で、少年はメールをゴミ箱へと持って行く。────唯一神の招待状を、棄ててしまう。
そして────刹那。

「ねぇシグさん────門前払いは傷つくなぁ?遊ぼうよ?」

高く澄んだ少年の声が、明らかに画面の中から響く。同時、部屋を飛び交っていたはずのブルーライトが一斉に沈黙する────唯一、メールが表示されているPCを除いて。

「────ッ!?」

動揺する少年の思考は、PCから生えた手に完全にとどめを刺される。
そして────抗うことも許されぬまま、彼の身体は画面の中へ吸い込まれた。



拉致られた。それが、シグの理解できた限界だった。
そこは、白い空間だった。果てのない、立っているのかさえ曖昧な非現実。
そこに、かの少年────テトは佇んでいた。

「やぁシグさん。僕はテト────神様さ♪」

テトはおどけて言うが、シグはその言葉を聞いて表情に更なる影を落とした。
シグは、テトの発言を明らかに忌避していた。

「そんな怖い顔しないでよ?僕は怪しい者では無いよ」
「そうか、初対面で拉致って『僕は神だ』とか世迷言吐く奴が怪しくないってか」

シグは、ごもっともな指摘でテトを黙らせる。そして、光を失くした目で、問う。

「なぁ────お前が神だっていうなら、俺の過去を運命づけたのはお前なのか?」

そう、何も映さない黒い瞳で問う。無論、テトはシグの過去など改変してはいない────
だが、彼の過去を覗き見て、テトは絶句した。

「そんな、君はいったい────」

テトをして驚愕させる過去を持つ少年は、しかしテトの言葉が残した情報の確認だけして、感傷に浸るでもなくこう言った。

「もう昔のことだ。それより、『  』と戦いたくないか────だったな?
勿論答えはYESだ。とっとと、試験内容教えてくれよ」

試験内容。その一言だけで、全て理解したとシグは────現最強ゲーマーは告げた。
それは同時に、あれほどの過去を思い出して何の動揺もないことをも暗に示していた。そんな感情のこぼれ落ちた感傷に、テトは悲しげな笑みを浮かべながらシグの問いに答える。

「────へぇ、流石『  』さんの後釜に入ることの出来るだけはあるね。
たったあれだけの情報で、もう状況を把握したのかい?」

しかし、それをすぐさま押し殺して不敵に振る舞い、テトは唯一神らしく不遜に問い返した。
だが、シグはその質問に「自明の理を説かせる気か」と当然のように答える。

「────まず、『  』は失踪してる。そしてお前は俺を拉致った。方法も原理も理解不能、神様と仮定。
『  』も拉致ったとすれば、俺を『  』と戦わせる事も出来る。拉致った『  』の元に、俺を送ればいいだけだ。
だが、お前は「『  』と戦わせてやる」と言う前に「遊ぼう」と言った。つまりそれは、自分も混ぜろ、あるいは『  』の前に自分と戦えって事だろ。
そして、お前が送り付けたメールにはURLがあった。
つまり、ホントはここに連れて来る前にゲームするつもりだった。
よって、それは連れてくるかどうかの選別でもあるということ────違うか?」

シグは、まるで当然を説明するかのようにテトの行動の逐一の意図をバラした。その異常なまでの推察力に、テトは顔を引き攣らせる。

「うわっ、末恐ろしいなぁ。────当たりだよ、これは試験だ。
内容はチェス…さあ、ゲームを始めよう!!」

しかし、それも束の間。傲慢不遜なゲーマーと化したテトは、チェス盤を編んで宣言する。

「復唱してねシグさん────【盟約に誓って】!!」
「OK、負けて泣くなよ?────【盟約に誓って】」



勝負は、ほぼ互角を演じた。
仕掛けるのはテト、奇抜な発想で一手を放ち。
受けるはシグ、狂った思考で一手を打つ。
一進一退の攻防。永遠に続くかと思われた、実力者同士のチェス────しかし、それにも決着の瞬間は訪れた。

「チェックメイト────俺の勝ちだ」

勝ったのは────シグだった。
斯くて『  』への挑戦権────。盤上の世界(ディスボード)への片道切符を、シグは手に入れる。
手に入れる────が。


「なんでこんな過疎地に飛ばしやがったテト……こっからどう『  』に辿り着けと?」

降り立った地は人っ子一人もいなかった。食料品どころか水にさえ困窮する状況、もし腹いせなら度が過ぎるにも程がある。

「開始地点が余りに酷いだろテト…負けた腹いせか?」
「そんな風に思われるのは心外かな?僕はただ、『  』さんと条件を対等にしただけだよ」
「……ならいい。『  』がこっから巻き返したなら、俺だってそうする」

シグの言葉に、だがテトは首を振って答えた。

「いや、やっぱりエルキアまで送ることにしたよ。死なれちゃ困るしね♪」
「人の話くらい聞けよ」
「いや~、唯一神の好意だよ?めったにないから、受けて損はないと思うなあ」

言うやテトは、問答無用にエルキア領へと転移した。

「────相変わらずの出鱈目だな」
「褒め言葉と受け取っておくよ。それじゃ、健闘を祈ってるよ☆」

そう言って、テトは刹那に消える。────全く、出鱈目だ。

「……さて、まずは資金と情報収集。ゲーマー的には鉄則だよなあ」

売れる初期装備はないが、と呟いて、シグは一歩踏み出した。


その一方で、テト。
彼は表情に影を落として、独り言を言った。
「『  』さんといいシグさんといい…なんであんな自己嫌悪に満ちた目をするんだろうね」
そう、テトは自己嫌悪に満ちた目で言った。
「その目は…(リク)を思い出させてしまう眼なんだ」 
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