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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica16-D犯罪者狩り~Traitor ? 2~

†††Sideすずか†††

第8観測指定世界ミラルド。そこは現代の魔法文明を支えるデバイスなどの開発に必要とされる、特殊な素材が数多く眠る無人世界で、管理局の許可なくしては入ることが出来ない特別な世界の1つだ。そんなミラルドに、私とトーレとクアットロ、それにセッテの4人で赴いていて、今後の研究・開発に必要な素材の獲得に勤しんでる最中です。

「ごめんね、ちょっとだけ我慢してね。・・・シュート!」

――バインドバレット――

私の周囲に展開した魔力スフィア12基を誘導操作弾として一斉に発射。狙うのは湖の真ん中に陣取る超巨大な亀。全長は60m、高さは20mくらいあるかも。そんな亀の4本の脚に向かって放った魔力弾は次々と着弾して、その恐ろしく太い脚をなんとか拘束した。亀が長い首をもたげさせ始めた中・・・

「トーレ、セッテ!」

「ああ、任せろ!」

――ライドインパルス――

「はい!」

――スローターアームズ――

トーレとセッテのダブルアタックを指示する。トーレの右手首から展開されてるエネルギー翼・“インパルスブレード”と、セッテが両手に携えてる巨大ブーメラン・“ブーメランブレード”2本が、希少なレアメタルや鉱石で覆われた甲羅に当たる。

「くっ、やはり硬いな・・・!」

「すずか。もう一度いきますか?」

「お願い、セッテ。トーレも!」

「了解だ!・・・む? 反撃がくるぞ!」

亀が口を大きく開いたことでトーレが警戒するように叫んだ。でもすぐにクアットロが「大丈夫ですよぉ、トーレ姉様♪」って、纏ってるクロークをバサッと翻しつつ足元にテンプレートを展開。

「シルバーカーテン♪」

クアットロがスキルを発動。シルバーカーテンは、幻影を使って相手の知覚をかく乱するもので、亀の口から勢いよく放射された高水圧の砲撃は、私たちの居るところとはまったく違うところを通っていった。

「今です、すずか、トーレ姉様、セッテちゃん!」

「はい!」「ああ!」「判りました!」

“スノーホワイト”をグローブ型から三叉槍型の「スノートライデント!」へと変形させて、3つの穂に「コールダー・ランス!」って冷気を纏わせる魔法を付加。ルシル君やセレスちゃんの魔法を参考にして作った切断・貫通力強化魔法だ。

「せぇーーーーい!」

「おおおおおおおおおッ!」

――ライドインパルス――

「はぁぁぁぁーーーーッ!」

――スローターアームズ――

甲羅の一角に剣山のように付着してるレアメタルの柱2本へと“スノートライデント”を振るって、連続斬撃と刺突を打ち込む。続いてトーレの“インパルスブレード”が、私が傷つけた痕に追撃を打ち込まれた。最後にセッテの“ブーメランブレード”2本が直撃。

「やった!」

1mくらいあるレアメタルの柱2本がバキンと折れて、他の柱に引っ掛かった。亀は未だにクアットロのスキルに惑わされていて、私たちの幻影へと水圧砲や尻尾を振り回して反撃中。それに巻き込まれないようにもう一度接近したトーレが「採った! 離脱!」ってレアメタル2本を肩に担いで、亀から急速離脱。

「みんな、第1目標達成! 第2目標へ移動開始!」

私の指示にトーレ達が「了解!」って応じてくれて、亀の居る湖から急いで離れた。もちろんバインドは解除して。亀からの攻撃が届かない安全圏まで移動したところで「お疲れ様~」って、私はみんなを労った。

「えっと、それじゃあウーノ。転送準備をお願い」

『ええ、了解よ』

本局の第零技術部に居残りのウーノに、採取したばかりのレアメタルを直通転送で受け取ってもらう。転送されたのを見届けた後は、「はふぅ」と少し休憩。用意したお茶やお弁当を食べて、次の目標の予習。特殊鉱石を護るように群生している人食い巨大植物。自然発生したものじゃないらしく、魔力障壁やツタなどによる攻撃を行う知性のある危険植物だ。

「これまでに何度か局や各研究施設が焼いたり伐採したりしたそうだが、その再生力の凄まじさによって1日で元に戻るそうだ」

「ですが鉱石採取には何ら問題はありません」

「ですねぇ~。トーレ姉様とセッテちゃんの切断力と、すずかの氷結魔法なら十分に撃破可能ですぅ~」

食人植物の撃破はそう難しくないみたい。ならもう1つの目標、下手な金属より硬度のある角を有する巨大鹿の攻略。この鹿も、この世界特有の危険生物同様に魔力運用が可能な生き物で、すでに何名かが亡くなっているらしい。

「先ほどの亀と同じように~、私が幻術で視覚を潰しますぅ~♪」

「じゃあ私がバインドで動きを止めるから、トーレとセッテが攻撃担当でお願いね」

「了解した」「了解です」

それから休憩を終えて、食人植物が群生してるエリアへと移動を開始したら、ドォーン!っていう爆発音が立て続けに3回と聞こえた。私たちは背中合わせに陣形を取って周囲を警戒。するとセッテが「あちらに火の手が上がっています」って知らせてくれて、そっちに目をやると、「黒煙が上がってる・・・!」のを確認できた。

「あの辺りに火の手が上がるような要素は何も無いはずだが・・・」

「他の渡航者でしょうか?」

「ううん、今日の渡航者は私たちだけのはずだよ」

ということは、「密猟者かもですね~♪」クアットロの言うとおりかもしれない。無許可でこの世界に降り立って、勝手に素材の奪取や希少動植物の密猟など行う犯罪者も数多くいる。とはいってもその成功率は低くて、その大半が破損の激しい死体として発見される事が多い。

「密猟者なら放っておいても良いのでは~? 死ぬのも自己責任ですしぃ~」

「う~ん、でも見殺しにするのもちょっと夢見が悪いというか・・・」

「そういうわけだ、クアットロ。気に入らずとも救援に行かなくては局員ではないぞ」

「は~い、トーレ姉様~」

黒煙が上がる方へと進路を変更して空を翔る中、トーレが「あれは仮面持ちか」って言った。未だに肉眼で視認できない私だけど、トーレや他のシスターズは機械の体だ。、視界をズームアップする機能も持ってるから、こんな遠くからでも視認できるんだ。

「仮面持ちは女2人、周囲には密猟者と思しき人間が10人ほど。うち半数が死体です」

「あらあらぁ、最後の大隊に殺害されちゃうような下種共ということですねぇ~。どうしますぅ~?」

「決まってるよ。仮面持ちも密猟者もまとめて捕まえる!」

私がクアットロにそう答えると、トーレがフッと小さく笑って「ああ、楽しみだ」ってやる気を漲らせた。トーレの戦闘者としての意識が昂ぶってるみたい。だったら「トーレ、先行お願い!」って指示を出す。

「ああ、任された!」

――ライドインパルス――

スキルを使って超高速で現場へ向かったトーレに追翔するように「フローズンバレット!」を、オートロックオン機能を追加した上で12発と放つ。次いで「セッテも先行!」って指示を出して、私やクアットロより飛行速度の速い彼女も先へ行かせる。

「クアットロは・・・」

「とりあえずすずかの直援に入ります~」

「うん、それでお願い」

私も速度を上げて現場へ向かう中、トーレから『エンゲージ!』って連絡が入ったから、私は「シュート!」って号令を掛けて、トーレの側に待機させていた魔力スフィアを魔力弾として射出させる。

≪っ! すずか、全弾を無力化されてしまいましたわ! 相手はかなりの手練れですわ!≫

「でもぉ、トーレ姉様とセッテちゃんの前じゃ、余程の魔導師じゃない限りは勝てませぇん♪」

「だね・・・!」

そうして私とクアットロも現場に到着。トーレは両手に剣型デバイスを携える女性仮面持ちと闘っていて、セッテも徒手空拳の女性仮面持ちと闘ってるんだけど・・・。徒手空拳の仮面持ちの武装は、ローラーブーツと籠手っていう、友達に瓜二つなものだった。

(しかも戦闘スタイルがシューティングアーツ・・・! こんな偶然が・・・!)

ううん、戦闘スタイルが似通ってたってスバルやギンガ、それにノーヴェやクイントさんなわけない。局員なクイントさん達は有名だし、そのスタイルを真似る人がいたっておかしくないから。少なからず受けたショックをかき消すために自分にそう言い聞かせて、まずはセッテと交戦してる拳闘魔導師から片付ける。

「セッテ!」

「いつでも!」

――バインドバレット・サークルシフト――

セッテが仮面持ちから一足飛びで離脱して、追撃されるより先に仮面持ちの周囲に魔力スフィア14基を半球状に高速展開。仮面持ちが対処する前に「シュート!」って発射させる。仮面持ちはローラーブーツの機動力で、前後左右、それに上からも来るバインド弾を躱し始めた。でも・・・。

「捉えた!」

仮面持ちの隙を突いたセッテが高速接近して、“ブーメランブレード”を振るった。仮面持ちはそれを読んでいたみたいで、足元に見覚えのあるテンプレートを展開して、右腕を振りかぶった。

「はああああああッ!」

――振動拳――

「「「っ・・・!?」」」

“ブーメランブレード”の迎撃として繰り出された仮面持ちの右拳。拳が刃面を打ち、そして“ブーメランブレード”を一瞬にして破壊。さらに「きゃああああ!?」セッテの右腕を大きくひしゃげさせ、後方に十数mと吹っ飛ばした。

「今のは・・・!」

「振動破砕・・・!?」

「くぅ・・うぅ・・・!」

振動破砕を使った影響か右の籠手が砕け散って、右腕を押さえる仮面持ちを視界外に出すことなく私は、「セッテをお願い!」ってクアットロに指示を出す。サイボーグで良かった。ダメージは大きいけど、致命には至らない。スカラボに搬送して、治療すれば回復できるレベルだ。

「判りました! セッテちゃん!」

「待っ――まだ闘えます、すずか!」

半ばから折れた右腕を庇いながら体を起こそうとするセッテをクアットロが支えて、私たちの側から離脱する。

「問答無用! ウーノ、セッテを転送してください!」

『了解です!』

緊急転移で即座にセッテをスカラボへと直通転送。セッテは最後まで残って闘おうとしたけど、そこは主任としてストップだ。セッテはすぐさまスカラボに転送されて、今頃はウーノとドゥーエが治療に当たってくれるはず。そして私は振動破砕を使用した仮面持ちと対峙する。

「スバル・・・なんだよね?」

そう尋ねても返ってくるのは無言。でも構えや雰囲気でスバルなんじゃないかって思えてくる。私は“スノートライデント”の長い柄を両手で握り締め、石突側を空へ向け、穂先を前方の地面へ向けるように突撃の構えを取る。

「(トーレの方は手を貸さなくてもきっと大丈夫。だから・・・)言葉を交わさないなら、交わせるようにちょっと痛い目に遭ってもらうよ」

――チェーンバインド――

「っ・・・!」

スバル?の周囲から鎖状のバインドを4本と伸ばしたけど、彼女は急速後退することで回避。

「フローティングアイス!」

スバルの背後に氷塊を1つ発生させる。この魔法は大きな氷塊をシールドとして使うものだけど、壁や足場として別の使い方もある。

「あぅ・・・!?」

ドンッと氷塊に背中からぶつかったスバル?がハッとして背後をチラッと見た。その僅かな意識の外れを見逃さず、私は「ふっ・・・!」息を小さく吐いて一気に距離を縮める中、スバル?の視界に入らないように、私の背後にバインドバレット6発を追翔させるように発動。

「っ・・・!」

スバル?が私の接近に気付いた。仮面越しながらもその視線が“スノートライデント”の穂先に向いてる気がする。視線誘導は完璧。なら・・・。私は穂先の角度をさらに下げて、地面へと突き立てる。棒高跳びのように私は宙へと飛び上がって、彼女の視線をさらに私に誘導。ここまで来たらもう私の勝ちだ。

「え?・・・あ!!」

スバル?の頭上から彼女がバインドバレットの直撃を受けて、6本のバインドで拘束されたのを見届ける。いろいろと問い質したいことがあるけど、「ウーノ、転送お願い!」って、まずは確実に本局へと移送することを優先。最後の大隊には転移スキルを持ったメンバーがいる。せっかく捕らえたのに奪還されるような下手は打てない。

『了解です。主任、人手が足りないので他の部署の技術官を呼びました。事後報告で申し訳ありません』

「大丈夫! あと、これから送るのは最後の大隊メンバーだから、武装隊にも応援を!」

『了解です。では手続きに入ります!』

ウーノとの通信が切れたと同時、スバル?が転送の光に飲まれる。バインドから逃れようともがき始めて、「アンチェイン・・・ナックル!」って、私のバインドをすべて弾き飛ばしたんだけど、もう手遅れ。脱出できないままスカラボへと転送された。

「次!」

トーレが未だに撃破できていないほどの実力を有する双剣の仮面持ち。おそらく幹部クラスだ。あの仮面持ちこそ捕まえないといけない。だから「クアットロ、援護お願い!」って指示する。

「了解です! シルバーカーテン!」

クアットロの幻影でかく乱しつつ、私とトーレで確実に墜とす、って作戦を立てる。双剣の仮面持ちはトーレの高速移動に余裕で付いて来られるような実力だ。やり過ぎなんてことはない。トーレが一旦距離を置くと同時に、私とトーレの幻が10体ずつ出現した。

「・・・っ!」

仮面持ちが息を呑むのが判った。トーレと互角だったことから、私とクアットロの参戦で逃げの一手に踏むと考えてた私は「バインドバレット・・・!」をスタンバイ。そして仮面持ちの動きに注意を払っていた時、彼女は双剣を地面に突き刺したうえでミッド魔法陣を展開。その魔力光の色は茜色。脳裏に過ぎるアリサちゃんの姿。

(だけど、そんなのありえない!)

――ストームフレア――

魔力光が同じ人なんて数多くいる。だからあの仮面持ちも、たまたまアリサちゃんと同じ魔力光なんだって考えてると、展開されていた魔法陣から強烈な炎が噴き上がった。飛んで来る火の粉からも魔力を感じることから、触れたらきっとダメージが入る。

「炎で障壁を張ったか・・・!」

「これだと逃げられちゃう・・・!」

自己ブーストのナイツ・ルナレガリアを発動できれば、真っ向から対処できた。でも残念ながら今は昼間。管理世界標準時なら深夜だけど、この時間帯じゃあまりに弱い。だからと言って手を拱ねいている余裕は無い。転移スキルで逃げられる可能性が完全になくならない以上は・・・。

「バインドバレットを破棄! リフリジレイト・エア!」

≪かしこまりましたわ!≫

仮面持ちの炎の竜巻を上書きするように吹雪の竜巻を発生させる。炎と吹雪が混じり合って周囲に火の粉やら雪やらを撒き散らす。でも炎の「勢いが収まらない・・・!」所為で、私の魔法がどんどん弱くなってく。

「いや、あそこまで弱まれば、十分突貫できる・・・!」

――ライドインパルス――

トーレが高速移動スキルを使って炎と吹雪の竜巻の中へ突っ込んだ。そのすぐにドンッと竜巻を突き破ってトーレと、トーレの右手で顔面を鷲掴まれた仮面持ちが飛び出してきた。仮面持ちは空いている左手に携えてる剣を振りかぶろうとしたから、私は咄嗟に持ってる“スノートライデント”を投擲。我ながら褒めたくなるほどの綺麗な軌跡を描いて、仮面持ちの剣を弾き飛ばした。

「ぐっ、くぅぅ・・・!」

「膂力で敵うと思うな・・・!」

トーレは仮面持ちの剣を握り潰し、さらに仮面を粉砕。続けて目出し帽までも引き千切ろうとしたけど、仮面持ちの悪あがきが始まった。トーレのお腹に魔力付加した膝蹴りを打ち込んで、かなり体重があるトーレを吹っ飛ばした。

「チェーンバインド!」

でもソレで逃げ切れるだなんて思わないで。私は即座にバインドを発動させて、仮面持ちの四肢をバインドで拘束した。仮面持ちは必死に体をくねらせてバインドの隙間を作ろうとしてるけど、私のバインドはそんなに柔じゃないよ。

――ブレイズロード――

力ずくじゃ無理だって判断した仮面持ちは体全体を炎で覆って、私のバインド以上の魔力を以ってバインドを焼き払って自由になった。そして今度こそ離脱するためか、炎を全身に纏ったまま離脱を図った。

「逃がさない!」「逃がすか!」

――ライドインパルス――

「アイスミラー八陣の3・ウィドゥスウォール!」

ミッド魔法陣型のシールド8枚を横一列に並べるように展開して、仮面持ちの逃げ道を僅かでもいいから塞ぐ。仮面持ちは飛び越えることを選択したみたいで、グッと膝を曲げて跳躍準備に入った。でもその僅かな停止が、トーレの追撃を許す大きなミスとなった。

「はあああああああッ!」

――インパルスブレード――

仮面持ちへ斬り掛かるトーレ。振り払われた右手首から展開された“インパルスブレード”は、ギリギリで展開されたラウンドシールドを打ち、その勢いを僅かに落とした。その間に仮面持ちは改めて離脱を図ろうとするけど、私が居るってことは忘れちゃダメだよ。

「キャプチャーネット!」

魔力の縄を編んで作られた10m四方の魔力網を、仮面持ちの頭上に展開して降らせる。彼女は捕まる前に前方にヘッドスライディング、そして前転して完全にネットの範囲外へと離脱した。仮面持ちは肩で大きく息をしながら私たちを見た。

「思っていた以上にやるな・・・」

「うん。・・・本当に・・・アリサちゃんみたい・・・」

「っ!・・・あぁ、なるほど。どこかで見たことのある身のこなしだと思ったら・・・。しかし」

トーレも私の言葉に同意はしたけど、アリサちゃんなわけがないって首を横に振った。クアットロも「ですねぇ~。スバルらしき子も、何か訳ありと思いますぅ~」って微笑んだ。

「正体はどうであれ、捕まえて聞き出せば良いだけですぅ~♪」

――シルバーカーテン――

クアットロが再び幻影スキルを発動して、私とトーレとクアットロの幻が3桁近くまで出現した。仮面持ちは焦ることなく周囲を素早く見回して剣の位置を確認したのが判ったから、先制で対象を氷に閉じ込める拘束魔法の「アイシクルスタチュー!」を発動。剣を氷塊で覆って封印。

「はあああああああああッ!」

――ブレイジングスマッシュ――

仮面持ちが右腕に炎を付加した上で足元を殴った。起こる大爆発、生まれる黒煙、放たれる衝撃波。その所為で完全に仮面持ちを見失ってしまった。

「すずか!」

――トランスファーゲート――

「うん、すぐに晴らすよ! リフリジレイト・エア!」

私たちに害が及ばない距離に竜巻を発生させて黒煙を晴らすんだけど、「ダメだ、逃げられた!」って悔しがるトーレの言うように、あの仮面持ちの姿はもうどこにも無かった。

・―・―・―・―・―・

淡い照明に照らされた鋼の通路に2つ人影の姿があった。ひとりは転移スキルを用いて、仲間を各地に飛ばし、そして回収する役目を担うシスター、トルーデ・ロホルト。ひとりは先ほどまで月村すずか、トーレ・スカリエッティ、クアットロ・スカリエッティと交戦していた女性仮面持ち。仮面はトーレに砕かれ無いが、目出し帽は今なお着用している。

「同志ウェン。ホントに助かったわ。危うく計画外のあたしまで捕まりそうだったわ」

「構いません。これが私の任務です。それはそうと同志カラン。もう変身を解除しても問題ないですよ。ここは我われ最後の大隊の本部なのですから」

「っと、そうだったわね」

同志カランと呼ばれた変身を解除し元の姿へと戻った。その姿はやはりすずか達が危惧したとおり、時空管理局ミッドチルダ地上本部、首都防衛隊に所属するアリサ・バニングスだった。そんな彼女たちの行く手の先より、「シスター、アリサさん!」と名前を呼びながら駆け寄ってくる少女が1人。

「どうかしました、同志ギル?」

同志ギルと呼ばれた少女の姿は、どこからどう見てもティアナ・ランスターだった。ティアナはアリサの前にまで移動して、「あの、スバルは・・・?」と尋ねた。やはり先ほど確保されたのはスバル・ナカジマだったようだ。

「予定通り捕まってもらったわ。ここからが局崩しの始まりよ」

「そう・・・ですか。ですよね・・・、それが・・・計画なんですよね・・・」

アリサからの答えを聞いたティアナは、「判ってたけど・・・」と俯きながらポツリと漏らした。アリサはそんなティアナの肩をポンと叩き、「耐えなさい。今は・・・」と言って、彼女の隣を通り過ぎていった。

「同志ギルは大丈夫でしょうか?」

「兄のティーダ一尉が居るのだから、少ししたら問題なくなるわよ」

アリサもそうは言うが表情はやはり曇っていた。とぼとぼと遅い足取りで付いて来るティアナを含め、本部と呼ばれる施設の奥へと向かったアリサとトルーデの3人は、あるスライドドアの前に立った。ドア横のプレートには会議室を意味する、コンフィレンツツィマーとベルカ語で刻まれている。

「「失礼します」」

「・・・失礼します」

開いたスライドドアを潜り、円筒形の大ホールへと入ったアリサ達。床の構造は棚田のように階段状になっており、一段ごとに途轍もなく長いテーブルが床の形状に沿って置かれている。ホール内には最後の大隊の幹部メンバーが揃っており、中央である一番低い床には、“堕天使エグリゴリ”のフィヨルツェン、パラディンのキュンナ、そして元イリュリア騎士団総長のグレゴールの最高幹部が立っていた。

「諸君。まずはご苦労だった」

労いの言葉を各メンバーに掛けたグレゴールは毛1本と無い禿頭を撫でた後、「早速だが・・・」と本題を切り出した。彼の話を引き継ぐようにフィヨルツェンが「新たな仲間を紹介します」と発した。その言葉を合図とするかのように出入り口のスライドドアが開いた。

「前所属は本局特務零課、現在はミッドチルダ鉄道警備隊に所属。ミヤビ・キジョウ陸曹です」

以前、大隊メンバーからスカウトを受けていたミヤビがそこに居た。
 
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