戦国異伝供書
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第二話 百姓の倅その三
「兵達にも盗むな襲うなで」
「では足軽衆も」
「暴れぬわ」
「ううむ、それは凄いですな」
「しかも人を常に求めておられて」
そしてというのだ。
「身分が低い、尾張以外の国から来た者までもな」
「召し抱えると」
「左様、何ならお主も門を叩いてみるか」
即ち仕官を申し出るかとだ、その町人は木下に言うのだった。
「そうすれば足軽からはじまってもな」
「一城の主にも」
「ははは、そこまでは流石に無理にしても」
それでもと言うのだった。
「馬に乗れる様になるかものう」
「では」
「門を叩いてみるか」
「ははは、これから考えまする」
木下は今は笑ってこう言うだけで返事は避けた、だがそれでもだった。
町人との話の後でだ、彼は秀長に対してこう言った。
「どうもな」
「はい、民達からは慕われていますな」
「奇矯な方と言われていてもな」
「かなりの善政を敷いておられて」
「そのうえでな」
「この賑わいですし」
こう兄に言うのだった、秀長にしても。
「清州の殿様は」
「かなりの方であることは間違いないな」
「そうかと。しかもです」
「家臣を召し抱えるのにな」
「身分が低い者でも構わぬとのこと」
「ではな」
木下は自ら言った。
「これよりじゃ」
「仕官されますか」
「最悪足軽として雇ってもらえるであろう」
これが木下の読みであった。
「足軽なら幾らいても問題あるまい」
「ですな、戦の時には必要ですから」
「槍を持つ為にな」
「ではそちらで、ですか」
「雇われるわ、そしてじゃ」
さらにだった、木下は弟に話した。
「そこで功を挙げれば殿様が言われておる様な方ならばな」
「取り立ててくれますな」
「そうじゃ、だからな」
それでというのだ。
「わしが申し出て来る」
「ではそれがしは」
「うむ、稼ぎを持って家に帰るのじゃ」
秀長にはこう言うのだった。
「よいな」
「はい、そして兄上はですな」
「わしはこのまま幾分か小銭を持ってな」
儲けの中から貰ったそれを懐に入れてというのだ。
「雇ってくれる様に言って来るわ」
「そして足軽からでもですな」
「お仕えする、まあお仕え出来ればな」
「はい、それからはですな」
「わしはやるぞ」
にかっと愛嬌のある笑みを浮かべてだ、弟に話した。
「功を挙げて成りあがってな」
「ゆくゆくはですな」
「城主になるぞ」
「兄上ならなれますぞ」
世辞ではなく自分が思っていることをそのままだった、秀長は兄に話した。
「必ず」
「城の主にじゃな」
「はい、では」
「うむ、頑張ってくるぞ」
「そしてやがては奥方を娶られ」
「おお、それもあったわ」
木下はまだ独り身だ、それでそちらもそろそろと思っているのだ。それで秀長にもこう言うのだった。
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