夢幻水滸伝
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第五十八話 伏龍と昇龍その五
「姫巫女殿の軍勢、何よりも姫巫女殿がな」
「その時にをか」
「何時になるかわからないが」
「その時にだな」
「攻める、その時が来れば」
その腰にある刀、和泉守を手にして言った。
「貴殿が今言った通りにだ」
「九人全員でな」
「攻めて勝とう、一気にな」
「一か八かだけれどな」
苦い顔での言葉だった、幸田の今のそれは。
「もうそれこそな」
「うむ、劣勢なのは否めない」
「こっちがな、それで考えた策にしても」
「成功するかどうかはな」
「もう本当にな」
「我々九人が一気に仕掛けてな」
「そうしてどうにか、しかし成功させてやるさ」
幸田はにやりと笑って言い切ってみせた。
「これは博打だ、博打はな」
「勝ってこそか」
「そうだよ、確実に勝てる場合じゃないとな」
「しては駄目か」
「この場合は特にな」
日毬に強い声で述べた。
「多くの奴の命がかかってるんだ」
「だからか」
「余計にな」
「命、運命だな」
「ああ、戦う人間のな」
「生き返らせられるにしてもな」
「それでも死んだら痛いだろ」
だからだというのだ。
「それでだ」
「確実に勝てないとか」
「しないことだよ、金だって下手に失うと馬鹿だしな」
博打、それでだ。幸田は博打は好きだがやるには確実に勝つ自信と根拠がないとしないのだ。負けた場合のリスクをわかっているからだ。
「それで碌でもない結末を迎えた奴も多いだろ」
「馬鹿な奴等だ」
日毬は博打で破滅した者達を嫌悪の言葉で切り捨てた。
「全く以てな」
「厳しいな」
「厳しいのも当然だ、博打なぞだ」
「するものじゃないか」
「そうだ、その様なものに金を使ってどうする」
日毬は博打に対する自分の考えを述べた。
「それよりもだ」
「他のことにだよな」
「大事に使うべきだ、しかし確実にか」
「ああ、勝てないとな」
それこそというのだ。
「おいらも考えて動かないぜ」
「そうだな、ではだ」
「やってやる、綾乃ちゃんは九人全員で攻めるが」
「特にだな」
「おいらとな」
「私だ」
日毬は幸田に強い声で応えた。
「東国の天の星二人がだ」
「その通りよ、軸になってな」
「攻めるな」
「そうしような」
「三つの神具を全て使う」
日毬はその和泉守を手にしたまま述べた。
「三振りの刀をな」
「そうするか」
「必ずな、そしてだ」
「綾乃ちゃんに勝つか」
「そうする、姫巫女殿は確かに強い」
日毬はサングラスを外した、すると赤い光を放つ切れ長の瞳が姿を現わした。その目からは今は熱線は放たれていないが目の光はかなりのものだ。
「私達九人が全力で向かってだ」
「上手に戦ってな」
「どうかという相手だ」
そこまでの強さだというのだ。
「まさにな、だからこそだ」
「あんたもってなるな」
「全力で。私はいつも全力だが」
相手を侮らず愚弄せずに向かう、それが日毬だ。その心の中には時代遅れと言われていても武士道が生きているのだ。
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