僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜
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散り散りの卵
日を跨いだ午後のヒーロー基礎学の授業。 前回は戦闘訓練だったが今回は『人命救助訓練』。 雄英の広大な敷地内には、その人命救助訓練を行うことのできる施設が造られているのだが、徒歩では時間が掛かり過ぎる距離の場所にあるのだ。その為、バスで行くに事になる。 A組の生徒達は各々、ヒーローコスチュームに着替え、バスに乗り込む。席順は決まっていないので、自由に座る。後ろ側は左右2席ずつでその中心に通路がある。前側は両サイドに向かい合うように設置されている。目的地に到着するまで、数分かかるらしいので、生徒達は各々、交友を深める。爆豪が蛙吹や上鳴に弄られたり、出久の個性について蛙吹が『オールマイトに似てる』と率直な質問を投げかけ切島がそれを否定したり、緋奈が昼食の食いすぎで吐きそうになったりと。
そして--
「すっげ―――!! USJかよ!!?」
誰かが叫んでしまうほど、施設内に入った彼らが目にした光景は圧巻だった。広大な敷地に存在する、広大な水場、燃え盛るような街、切り立った崖に、盛り上がる土砂の山……etc。 ただ、某テーマパークの様にアトラクションは存在しない。というのもここが、
「水難事故。土砂災害。火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も、ウソの災害や事故ルーム!!」
((( USJだった!!!!)))
災害救助でめざましい活躍を見せるスペースヒーロー『13号』が口にした施設名に、緋奈と爆豪・轟・八百万を除いたA組生徒達は心の中でツッコミを入れた。その後、引率として来ていた担任、相澤は、本来今日来るはずのオールマイトの事を13号に尋ねる。その質問に、13号は何やら小声で喋りながら、三本指を立てていた。
(・・・吐きそう)
周りが興奮している中、緋奈は顔を青くし、口元を押さえていた。
「えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ……」
相澤と話を終えた13号が指を一つ二つと立てていく。小言というわりには多すぎないだろうか? と生徒達は思った。
「僕の個性は『ブラックホール』。 何でも吸い込むことが出来る。それは逆に、人を殺すこともできるということ。僕達、ヒーローの力は人を傷付けるものではなく、誰かを救う為にある。 君達はそれを十分理解して、ヒーローを目指してください」
そう説く13号に、誰もが尊敬の眼差しと共に賞賛の拍手を送った。
彼の小言が終わったのを見計らい、相澤がセントラル広場の方へと視線をやると--
「一かたまりになって動くな!!
13号!! 生徒を守れ!!」」
目の色を変え、大声で13号に指示を仰ぐ。
蠢く黒い靄。 その黒は小規模なものから徐々に大きく広がっていき、教師陣やプロヒーローにも見えない怪しげな者達が這い出てきた。普通ならば、何かの抜き打ちテスト的なものと思うかもしれないが、今回のこれがそんなものでは無いことは、ヒーローの卵である緋奈達でも理解出来た。危険な何かだということも。
「動くな。 あれは--敵だ!!」
相澤は生徒達にもう一度動かないよう声をかけ、ゴーグルをかける。普段、大声を出さないからこそ、その言葉には信憑性があった。
すると、蠢く黒い靄の中心に立っている男が生徒達の方を見上げた。
「ひぃっ!?」
誰かがその男の顔を見て短い悲鳴を上げた。ただ、それは無理もなかった。
何故なら、生徒達を見上げる男の顔には手首から上しかない手が張り付き、その手はあらゆる部位にもあったからだ。不気味としかいいようのない姿。
「平和の象徴……いないなんて……子どもを殺せば来るのかな?」
と、不安定な震えた声で、悍ましい言葉を不気味な男は発した。
黒い靄から湧き出る数多くの敵。 これだけの侵入にも関わらず、各所に設置されているセンサーが反応していない。恐らく、センサーを阻害する個性を持った敵があの中にいるのだろう。
「校舎と離れた隔離空間。そこに少人数が入る時間割・・・バカだがアホじゃねえ。これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」
と、生徒達が知りたがっているであろう疑問に轟が答えた。
計画的な犯行。
そう判断するしかない目の前の光景。どんな馬鹿でも理解できる。
校舎から遠い隔離施設にA組生徒達が行く日。
ヒーロー基礎学開始の時刻。
そして--人数。
全てが読まれていた。
ただ、それを知る事が出来るのは雄英の教師陣だけだ。それ以外の者に知られる事は無いはず。しかし、情報が漏れている。そこから導き出される答えは、雄英高校の中に敵の内通者がいるということ。
(・・・それよりも今は生徒の安全が一大事だ)
相澤は思考を切り替え、生徒達の安全を優先する。 その為に、自身の武器である包帯を靡かせて、敵の群れへと飛び込んでいく。その際に出久が、相澤の戦闘スタイルは多対一人には向いていないと口走っていたが、『一芸だけじよヒーローは務まらん』と一蹴していた。
その言葉通り、相澤は無駄ひとつない軽快な動きで敵に迫り、【抹消】で個性を消し、包帯で無力化、または撃破していく。
しかし、【抹消】が1度消えるタイミングで、その隙を突くように、黒い靄状の敵が、生徒達と13号の背後へ現れた。
「初めまして、我々は敵連合。 僭越ながら……この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは―――
平和の象徴『オールマイト』に、息絶えて頂きたいと思ってのことでして。
本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ・・・ですが、何か変更があったのでしょうか? まぁ・・・それとは関係なく・・・」
黒い靄状の敵が揺らめいた瞬間、13号が臨戦態勢に入る。
「私の役目はこれ--」
黒い靄が徐々に広がり、13号と生徒達を飲み込もうとするそのタイミングで、爆豪と切島が攻撃をかました。だがその攻撃は黒い靄をなびかせる程度で終わる。
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
個性『硬化』を発動した切島が構えたまま、叫んだ。
「危ない危ない・・・。 そう・・・生徒といえど優秀な金の卵・・・」
「ダメだ、どきなさい! 二人とも!!」
飛び出した二人に下がるよう指示するが、それよりも早く、黒い靄がA組生徒がいる空間を呑み込んだ。
そして--黒い靄のドームが消えた後、そこに残っていたのは13号とA組生徒六人だけだった。
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