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真田十勇士

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巻ノ百四十三 それぞれの行く先その十

 秀頼も頼む、こう言って大野は即座にだった。腹を切ろうとしたが。
 その時にかなりの量の銃声がした、それで彼はその銃声の方に驚いてだった。そのうえで周りに問うた。
「今の銃声は」
「右大臣様がおられますな」
「あちらに」
「それでは」
「ここは」
「うむ、見てまいれ」
 こう言ってだ、そのうえでだった。
 何人かが銃声の方を見て来るとだ、何と。
「右大臣様のおられる方にです」
「兵が向かっています」
「どうやらです」
「大御所殿が言われた通りになった様です」
「ぬう・・・・・・」
 大野はそう聞いて歯噛みした、それで周りに蒼白になった声で言った。
「切腹は後じゃ」
「はい、それでは」
「これよりですな」
「右大臣様のところに行かれますな」
「そうされますな」
「わしの力ではどうにもならなくなった」
 切腹、それをしてもというのだ。
「ここはまさにな」
「真田殿ですな」
「あの方をですな」
「頼らせてもらう」
 まだ姿を表していない彼にというのだ。
「あの御仁ならな」
「必ずですか」
「今はおられずとも」
「来られる」
「そうなのですね」
「あの御仁はそうした御仁だ」
 幸村を信じられるが故の言葉だ、これまでに何度も話をして幸村が信じるに足る者と確信出来たからこそ言うのだ。
「必ずな」
「約束を守ってくれてですか」
「そうしてですか」
「この状況でも」
「右大臣様を救って下さいますか」
「先程撃ったのはどの家の者じゃ」
 ここで大野は物見から戻ってきた家臣にこのことを問うた。
「御殿というより山里曲輪の方であったが」
「そこは」
 別の家臣がその曲輪と聞いて顔を青くさせて大野に言った。
「これより」
「右大臣様が御身を守る為に入られる場所じゃ」
「まさにその場所ですが」
「そこにじゃ」
 まさにと言うのだった、大野も。
「撃ってきたな」
「はい、これは」
「その家の者ですが」
 物見から戻って来た家臣が答えた。
「赤備え、それを見ますに」
「井伊家じゃな」
「間違いないかと」
「そうであろう、やはりな」
「井伊家は先陣を切ってきましたか」
「うむ、この時もな」
「城攻め、攻め落とすその時もというのだ。
「一番槍としてな」
「来た」
「そうなりましたな」
「そしてですな」
「山里曲輪、ひいては」
 家臣達も口々に言う。
「糒蔵にですな」
「来ますな」
「そうなりますな」
「うむ」
 まさにというのだ。 
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