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真田十勇士

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巻ノ百四十三 それぞれの行く先その六

「お江のことですが」
「お江か。敵味方になったがな」
「それでもですね」
「妾はお江を恨んだことなぞ一度もない」
 このこともはっきりと言った。
「嫌ったこともな」
「はい、そしてそれはです」
「お江もか」
「そう言っております、そして常に姉上のことをです」
「案じてくれておるのか」
「おそらく今も。ですから姉上が冥土に行かれても」
 この戦で腹を切ってというのだ。
「そうされてもです」
「冥福を祈ってくれるか」
「私もまた」
 常高院自身もと言うのだった。
「そうされます」
「そうか、そうしてくれるのか」
「はい」
 まさにという返事だった。
「必ず」
「そうしてくれるか」
 茶々は妹の言葉を受けて思わず涙を一滴落とした、そうして言うのだった。
「有り難い、二人でそうしてくれるとは」
「出来れば生きて欲しいのですが」
「まだそう言うか」
「何処かに落ち延びられては」
 常高院は今度はこう姉に言った。
「そうすればです」
「大御所殿、将軍殿もか」
「腹を切られたということにして」
 そのうえでというのだ。
「見逃して下さいますが」
「それはよいことであるがな」
「それでもですか」
「それなら右大臣殿だけでな」
「そうされてですか」
「妾はよい」
「天下人の母として、そして」
 あえてだった、常高院は茶々に問うた。
「もう、ですか」
「落城は沢山じゃ」
 今度は涙を落とさなかった、だがそれでもだった。
 茶々はこれ以上はなく悲しい顔でだ、妹に答えた。
「小谷の落城で父上が腹を切られたな」
「はい、あの時のことは忘れらません」
 常高院も答えた、この上なく恐ろしい思い出だ。これは二人だけでなくお江もそうである。
「お優しい父上が」
「そしてであったな」
「北ノ庄でもまた」
「柴田の義父上とな」
「母上までもが」
「亡くなられた、そしてここでまた生きてもな」
「またですか」
「そう思えて仕方ない、だからな」
「ここで、ですか」
「落城するならな」
「終わりにしたいですか」
「死ねばもう落城に遭うこともない」
 決してという返事だった。
「だからな」
「それで、ですか」
「妾がいれば落城する気がしてならぬ」
 もうそう考える様になってしまっているのだ、これまでの二つの落城で。
「だからもうな」
「そうなのですか」
「ここで腹を切るのならな」
「後はですな」
「そなた達が冥福を祈ってくれるならよい」
 微笑んだ、この上なく悲しい微笑みだった。
「頼んだぞ」
「では」
「さらばじゃ」
「出来ればもう一度」
「よい、これを持って行け」
 ここでだ、茶々は。
 常高院に己が今持っているものを持って行けるものを全て出した、そうしての言葉だった。 
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