真田十勇士
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巻ノ百四十二 幸村の首その八
「攻められる者達でな」
「わかり申した、それでは」
「お主達はわしの周りにおれ」
「城攻めにはですな」
「加わることはない」
その必要はないというのだ。
「もう大坂の城の命運は決まっておるわ」
「陥ちるだけですな」
「本丸だけ、その様な城なぞな」
今の幕府の大軍で攻めればというのだ。
「一日で攻め落とせるわ、ではな」
「明日で戦は終わりですな」
「そうなる、では兵達には今宵もたらふく食わせてやる」
そうして明日の城攻めに備えて力をつけよというのだ、まさに腹が減っては戦が出来るということだ。
「明日を境に戦の世は終わるわ」
「民達が望んでいた泰平の世にですな」
「ようやくなるわ」
「そうなるのですな」
「だからな」
「明日はですな」
「大事な戦じゃ」
戦国の世を終わらせる意味でもというのだ。
「ようやくな」
「そうですな、長い戦乱でしたが」
「それが終わるのじゃからな」
「是非ですな」
「勝って終わるぞ」
城を攻め落としてというのだ、こう言ってだった。
家康は兵達に大飯を食らう様に告げた、そうして自らも喰らい明日に備えるのだった。
大坂の城ではもう誰もが疲れ果てていた、それで秀頼は大野に対してこう言っていた。
「今宵のうちにじゃ」
「逃げたい者はですか」
「追わぬと告げよ、そしてな」
「幕府に降るなりしてもですか」
「生きよと伝えよ」
「そしてですか」
「城に残る者はな」
その彼等はというと。
「命を賭けて戦ってじゃ」
「そうしてですか」
「戦う様に伝えよ」
「それでは」
「そしてじゃが」
さらに話す秀頼だった。
「真田源次郎はどうなった」
「どうもです」
大野は秀頼に幸村の行方についてこう述べた。
「討たれた様です」
「そうなのか」
「首を取られたとか」
このことを言うのだった。
「そう言われています」
「あの者が討たれたか」
「はい、どうやら」
「生きて帰ってはおらぬが」
「馬は帰っております」
幸村が乗っていたそれはというのだ。
「そして槍ですが」
「あの者のじゃな」
「二本の槍も家臣達が持って帰っていますが」
それでもというのだ。
「ですが」
「そうか、死んだか」
「そう思っていいかと」
「わかった、しかし今日の戦でな」
まさにとだ、秀頼は己の前にいる諸将を見て述べた。
「多くの将帥も兵達も死んだな」
「はい、最早です」
大野は秀頼に頭を垂れて述べた。
「これ以上攻めることは出来ませぬ」
「そうじゃな」
「はい、明日はこの城に幕府の軍勢が来ます」
「そうなってしまえば」
毛利も言ってきた。
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