とある3年4組の卑怯者
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
159 報告
前書き
藤木と笹山さんが一緒になるなんてあり得ないとか、藤木が笹山さんの事になると気持ち悪いという意見が巷で見受けられますが、そんな否定的にならなくてもいいじゃないですか。たとえ結ばれる事はないとしても藤木と笹山さんは仲良しなんですから。
スケートの全国大会が終わり、学校がまた始まった。たまえは幼稚園時代の友達であるひろ子から声をかけられた。ひろ子は自分のクラスの友達を連れていた。
「たまちゃん、おはよう!」
「ひろ子ちゃん、おはよう・・・」
「たまちゃんとこの藤木君のスケートの応援に行ったんでしょ?藤木君どうだった?」
「藤木?うん、すごいよ!銀賞だったんだ。今度はカナダでやる世界大会に出るんだって!」
「カナダって外国じゃん!凄いね!!」
「まあ、スケートが藤木の取り柄だからね・・・」
「うん、私達も同じ学校で学年だから応援するよ!じゃあね・・・」
ひろ子は自分のクラスの教室へと戻った。
藤木は教室に入るとクラスの皆から大会の事で労られた。不幸の手紙の事件の時は皆から嫌われ者となっていたが、今では全く正反対だ。最早人気者である。藤木のスケートの功績はクラスどころか学年全体でも大ニュースだった。世界大会への出場権を勝ち取り、カナダへ行く事なんて誰もが凄い話であろう。そんな中、城ヶ崎が藤木に声を掛けた。
「藤木」
「何だい?」
「大会の事、笹山さんに伝えたけど、笹山さんも凄く喜んでたわよ」
「ああ、伝えてくれてありがとう」
「それで笹山さんが藤木に会いたがってたわ。今日行ってあげて」
「うん、そうするよ」
藤木も丁度この日は笹山に会って大会の土産話をしたいと考えていたのだ。
藤木はとある休み時間、トイレから教室に帰ろうとする途中、長瀬、新井を連れた3組の成橋美宙から声を掛けられた。
「藤木君、聞いたわ。カナダに行くんだって?」
「う、うん。大会で銀賞を獲ったからね」
「凄いよね!藤木君スケート得意って知ってたけどそれで世界大会に行けるなんてね」
「まあ、他に取り柄がないからね。僕はただの卑怯者から変わりたいって思ったんだ」
「そんな事ないよ!藤木君はスケートリンクの上なら卑怯者には見えないし、それに凄い輝いてるよ!」
「あ、ありがとう」
「それにカナダってあそこでしょ?『赤毛のアン』の舞台のプリンスエドワード島がある国でしょ?いいなあ、行ってみたいな~」
「でも、僕が行くのはそこじゃなくてバンクーバーだよ。それにプリンスエドワード島とは離れているよ。ははは・・・」
その時、藤木達が喋っていた場所は1組の教室の前の廊下だっため、1組の女子達が廊下の窓を開けて藤木に手を振った。
「あ、藤木君だ!世界大会出場おめでとう!」
「どうも、ありがとう!ははは・・・」
藤木は対応に困ったが皆が自分にこんなに注目するとは少し嬉しく、世界大会出場は自慢にもなれた。誰によってその情報が広まったかは知らないが、藤木の人気が衰える事はなかった。その藤木の人気ぶりを丸尾は驚いていた。
(藤木君、ズバリ、凄いでしょう!世界大会にご出場なさる藤木君にワタクシに何かできる事は・・・)
藤木はケン太から声を掛けられた。
「藤木君、君凄いよ!流石スケートの天才だね!俺のサッカーよりも凄いんじゃないかい?」
「ケン太君・・・。いやあ、それほどでもないよ。まあ、僕はスケート以外取り柄がないからね」
「でも俺達は好きな事で世界一になる夢があるだろ!?君は俺はサッカーでさ!頑張ろうぜ!」
「うん、ありがとう!」
藤木のアイドルが来たような人気ぶりを見て山根と永沢が会話していた。
「藤木君、凄いね。スケートでカナダで行く事であんなに皆から羨ましがられるなんて」
「でも、スケートがなきゃただの卑怯者だけどね・・・」
「永沢君、君はそう卑怯卑怯言って、君だって皆をアッと言わせようと思った事ないのかい?」
「別に。僕はそんな皆から目立って人気者になろうだなんて考えてたことないし、そういう事するなんて何の得にもならないしね」
「そうかい?僕は藤木君は前より変わった気がするけどな・・・」
「さあ、気のせいじゃないのかい?」
藤木は笹山の入院している総合病院へと向かった。スケートの全国大会で手にした銀賞の楯を持って行って。
「笹山さん!」
「藤木君?お帰り!!」
笹山は藤木が帰ってきてとても嬉しかった。
「昨日城ヶ崎さんから聞いたわ。銀賞おめでとう」
「ありがとう、これがその楯だよ!」
藤木は笹山にその銀賞を示す楯を渡した。
「うわあ、凄い!」
「君の事を思い出しながら演技したんだ。これのお陰でもあるよ」
藤木は遊園地で買ったストラップをポケットから取り出した。
「うん、ありがとう・・・。私も藤木君の演技、見たかったわ・・・。藤木君、お願いがあるんだけど・・・」
「何だい?」
「私をスケート場に連れてって・・・」
「え?でも君はまだ怪我が治ってないし、一緒に滑れないよ!」
「分かってるわ。私は見るだけでいいの。私にその大会でやった演技を私にも見せて欲しいの!」
「笹山さん・・・。うん、分かった。僕も見せられたらいいなって思ってたんだ!」
「ありがとう、明日いいかしら?」
「ごめん、明日は花輪クンとフランス語の勉強をする約束があるんだ。明後日でいいかな?」
「うん、いいわ。・・・え。フランス語の勉強?」
「うん、カナダは英語とフランス語を使うって聞いたんだ。花輪クンに英語を教えている先生とフランス語の先生を紹介してくれてカナダに行く前に少しでも話せるようにしようと思ってね。英語の勉強についてはリリィも付き合ってくれるって言ってたんだ」
「へえ、良かったわね。分かったわ。私も看護師さんにお願いして外出許可を貰うわ」
「笹山さん・・・。うん、明後日が楽しみだね!」
「あ、そうだ」
笹山は松葉杖を持って冷蔵庫の所へ向かい、戸を開けて箱を差し出した。
「これ、堀さんが持ってきたケーキよ。一緒に食べよう」
「え?そんな、折角堀さんが君のために持ってきたケーキを僕が食べるなんてそんな小杉君みたいに図々しい事できないよ」
「ううん、いいのよ。藤木君が頑張ったんだから私からも何かご褒美ができたらいいと思ってね・・・」
「そんな、ありがとう」
ケーキの箱の中にはチーズケーキとショコラタルトが入っていた。ショートケーキは昨日笹山が食べていた。
「あ、僕が皿によそうよ。転んで落としちゃうからね」
「そうね」
笹山は藤木にケーキの入った箱を渡し、自分はベッドに戻った。藤木は給湯用の流しの上にある棚にある皿を取り出し、ケーキを乗せた。
「どっちがいいかい?」
「藤木君が先に選んでいいわ」
「じゃあ、遠慮なく」
藤木はショコラタルトを選んだ。
(は、選ぶか・・・。僕は未だに笹山さんとリリィ、どっちにするかまだ決められないでいる・・・。このケーキを決めるようにすぐに決めた方が二人共気が楽になるかもしれないけど、簡単には決められないんだよな・・・)
藤木は未だに選択ができない自分が最低なように感じた。
「藤木君、どうしたの?」
「あ、いや、ちょっとボーっとしてたんだ。笹山さん・・・」
「何?」
「このケーキ、一口だけでも食べていいよ」
「え?いいの?」
「うん、折角掘さんが君のために買ってきたんだから本当は君が食べた方がいいんだ」
「うん、ありがとう。じゃあ、一口だけ貰うわ」
笹山はショコラタルトをフォークで一欠片取って口に入れた。
「こっちも美味しいわね」
「うん」
藤木は笹山が美味しそうに食べる所を見ていると自分も嬉しくなるのだった。
丸尾は自宅の部屋である事を考えていた。
(う~ん、学級委員として藤木君にできる事は・・・。そうだ、ズバリ、学級委員隊で集合して話し合いましょう!)
丸尾は嘗て自分に不幸の手紙を送った藤木に非常に悪意を持っていたが、その事件が解決した今、自分もクラスメイトである藤木のスケートを応援しようと思っていた。
後書き
次回:「約束」
スケート場に行く藤木と笹山。藤木は笹山に大会で見せた演技を披露する。一方、丸尾は学級委員隊のメンバーを呼び集めて定例会議を開くが、その内容は・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
ページ上へ戻る