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終末世界に転生したら人造ゴリラだった件

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第一訓 GORIRA,GORIRA,GORIRA

 俺の名前は近藤勲。江戸にて真選組の局長を務める男だ。俺は朝、いつものようにお妙さんの右ストレートをモロ浴びして地面に倒れていた。変わらない日常。いつになったらお妙さんと結婚できるのだろうか。そんな事を思いながら、立ち上がろうとするが、何故か体が動かない。あれ……? おかしいな。いつの間にか俺、赤い水溜りに浮かんでいるんだけど。今日は江戸全体晴れって結野アナが言ってたのに、何時の間に赤い雨なんて降ったんだ?

「こ、近藤さん! ジャスタウェイが……ジャスタウェイが後頭部に!」

 気のせいだろうか。お妙さんが心配に満ちた表情で俺をみつめている。……ちょっと地面に倒れただけで愛する女性を泣かせるなんて……俺はなんて罪深い野郎だ。お妙さん心配には及ばねえ。俺は何があってもお妙さんを守ると心に誓ったんだ。
後頭部にジャスタウェイが直撃して、致死量の血が流れたぐらいで俺は死にませんよ。


     ◇     ◇     ◇



 気が付くと俺は研究所の中にいた。見た事もない緑色の植物がそこら中に植えられ、白衣を着た人達が歩き回っている。誰もかれもが派手な髪をして一発で外国人だと分かる風貌だ。……おかしい、江戸にあんな可笑しな連中いたか? っていうか、ここ何処? 俺なんで研究所なんかに居るの? しかもこれ、目の前にあるのガラスの壁じゃん。良く見ると俺、ゴリラと一緒に閉じ込められてるんだけど。ゴリラゴリラゴリラの中に勲が混じってんだけどォォォォ!!!

「おーいあんたら!! そこで何をしてるか知らんが、取り敢えず俺をこっから出してくれェェ!」

 雄々しい叫び声を上げると、研究者達が一斉に此方を向いた。口をでっかく開けて驚きに満ちた表情を浮かべている。そりゃそうだ。ゴリラの中に正真正銘の人間が混じっていたら、誰だって驚くに決まっている……でもなんかオーバーリアクションじゃね? あの禿げたおっさんに至っては、瞳孔開いて口からエクトプラズム噴き出してるよ!!! ちょっと待ってェェ! そんなに驚かすつもりじゃ無かったんだよォォォ!!! ここに純粋無垢な人間がいるって、気づいて欲しかっただけなんだってば!

「ご、ごごご、ゴリラが喋ってるぞ!」

 はえ? 俺まだゴリラと間違われてるの? 確かに俺ケツ毛ボーボーだけど、あそこまで全身毛ダルマじゃねえぞ。

「人造ゴリラが人間の言葉を使って、我々とコミュニケーションしようとしている!? そんな事が有り得るのか?」

 人造ゴリラァァァ!? 百歩譲って俺がゴリラだとしても、人造ゴリラって何だ!  何をどうしたらロボットゴリラと人間を間違えるんだ! てめーらワザと言ってんだろォォォォ!

「待っちくれえいいい!! 俺は正真正銘の人間なんだってば!」

 俺はけむくじゃらの両手を突き出してガラスの窓を揺さぶる。こうなったら自力で脱出するしかあるまい。力強く窓を叩くと、まるで板チョコレートの如く簡単にガラスが割れ、床に破片が散らばった。……しめた! 俺は四足歩行で研究所を駆け周り、必死に出口を探した。訳も分からず扉に体当たりして、強引にぶち開ける。すると目の前に、巨大なエレベーターが現れた。透明なガラスに覆われて中には……新八君がいた! 金髪に染めているが間違いなく新八君だ!

「新八君助けてくれ! 妙な連中に追われてるんだ!」

 扉が開くのと同時に体をダイビングさせた。俺は必死にボタンを連打してエレベーターを上階に移動させる。……ふぅ。取り敢えずこれで一安心だ。何がどうなっているのかさっぱり分からんが、新八君と一緒なら多分大丈夫だろう。

「あの……なんで人造ゴリラがエレベーターに乗って僕と喋ってるんですか?」




「ダハハハハハ! 面白い冗談だな新八君」



 見知った顔がいて安堵したのか、俺は両手で黒い胸を叩きながらウホウホと甲高い声を上げた。俺がゴリラ……しかも人造ゴリラだなんて上手い冗談だ。きっとこれは総悟が考えたドッキリに違いない。そう考えれば全て説明がつく。さっきの研究員達も仕掛け人で、新八君は恐らく……ネタ晴らし要員だ。うん、間違いない!!

「いやあの……僕新八じゃないです。リアム・ビネーです」

 変装しても溢れ出るツッコミ力は隠し切れないようだ。それにメガネも、全く隠せていないぞ新八君。

「フフフ。ちゃちなカツラを被って俺を騙そうとしても無駄さ。この俺が新八君のメガネを見間違えると思ったか?」

「いやいやいや……新八君のメガネって何ですか リアムのメガネですからこれ。あんたさっきから誰と間違えてるんですか!」

 そうこうしてる間に、エレベーターが最上階まで到達した。扉が開くと、いかにもなロボットが数体、俺達に向けて銃を突きつけていた。あんな玩具どこで買ってきたんだか。まままま、まさか幕府から支給された金使ってるなんてこたぁねえよな? そんな事したら松平のとっつあんが黙ってねえぞ!!! い、いやちょっと待て。これは俺へのドッキリだ……ってことは、ある意味俺も役者のひとりだ。役者が取り乱しちゃ何も始まらねえ。ここは武士らしく正々堂々といよう。

「差し詰め……この俺、近藤勲を捕えにきたって所か」

 我ながらあっぱれな演技だ。総悟達が何処で見てるか知らんが、今頃俺のガッツ溢れる演技に魅了されている事だろう。

「どうやら人格サブルーチンが誤作動を起こしているようだ」

「無駄な抵抗はやめて今すぐ我々の指示に従いなさい。特にそこのメガネ」

 プラスチックの皮を被った役者が、新八君にまで銃を突きつけていた。ま、まさか新八君もドッキリを仕掛けられている側だったのか!?

「エエエエエエエエエ!? ちょっと待ってください! 僕何も悪い事してないじゃないですか!!! なんでこんなゴリラと一緒に捕まらないといけないんですか」

「どうやらメガネの人格サブルーチンが故障しているようだ」

 プラスチックの男が真顔で言い放った。それに対し、新八君は顔面に蹴りを入れて強烈なツッコミをお見舞いしていた。

「メガネの人格サブルーチンって何だ! あんたらマジでいい加減にしないと本当怒りますよ!」

 銃撃。青色のレーザーが息吹を上げて黒い毛をかすった。俺と新八君は言葉を失い、口をポカンと開けて後ろを振り向く。レーザーで焦げた壁から生々しい煙が広がっていく。あれは玩具なんかじゃねえ。マジモンの銃だ……ってことはまさか、え? あれ? もしかしてこれ……ドッキリじゃねえのかァァァァ!?

「インスティチュートの敵は排除します」

「わああああああああ!!! 逃げろおー!!」

 俺達は走った。最悪の状況から逃げるために。









 
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