オズのガラスの猫
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第一幕その十
「持ったことがないわ」
「そうなのね」
「これまで一度もね」
「満足してるのね」
「とてもね」
そうだというのです。
「あたし人を羨ましいって思うこともないし」
「それはオズの国の人達なら誰でもよね」
「そうでしょ、誰もね」
それこそです。
「人を羨まないわ」
「それはいいことですよね」
「だって羨ましいと思う前に」
まさにその前にというのです。
「自分がそれ以上にいいものを持ってたりするから」
「貴女みたいにね」
「そう、それにね」
さらにお話するつぎはぎ娘でした。
「欲しいものは何でも手に入れられるし」
「羨ましいと思ったことも」
「だからよ」
このこともあってというのです。
「皆他の人やものを羨ましいと思わないの」
「そうした感情がないのね」
「憎む、恨むって感情もなくね」
「羨むこともないのね」
「だから妬むこともないのよ」
ここでこう言い加えたドロシーでした。
「それもないのよ」
「羨まないからですね」
「そう、妬むこともないの」
「そうですね、羨まないと」
それこそと言ったナターシャでした。
「妬むこともないですね」
「羨むことと妬むことはつながってるでしょ」
「そうなりやすいですね」
「羨むことがないから」
それならというのです。
「妬まないの」
「そういうことですね」
「そういえば羨むとですね」
「どうしても妬むますね」
「そうなりやすいですね」
「人っていうのは」
「それがないからよ」
五人全員にも言いました、羨むものがないならというのです。
「妬まないのよ」
「あたしなんか誰かを羨ましいと思うとかね」
ガラスの猫はといいますと。
「想像も出来ないわ」
「貴女は特にそうね」
「ええ、そんなことはね」
それこそというのです。
「何か実感もないわ」
「つまり誰かを羨ましいとはなのね」
「どんな感情なのか」
「知らないのね」
「どんなのかしらね」
本当にわからないといったガラスの猫でした。
「オズの国の皆がそうだけれど」
「貴女は特にね」
「そんな感情とは無縁ね」
こうドロシーに言うのでした。
「あたしが一番なのよ」
「一番奇麗で立派だから」
「そう、どうして誰かが羨ましいの」
ドロシーに逆に聞き返す位でした。
「そもそも」
「だから想像も出来ないのね」
「全くね」
それこそというのです。
「出来ないわよ、どんな感情なのよ」
「あんたは謙虚さを知る方がいいんじゃない?」
つぎはぎ娘はドロシーの前でつんとしているガラスの猫にこう突っ込みを入れました。それもあっさりと。
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