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画伯

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第三章

「いいだろうか」
「全力でお断りしたいですが」
「しかしだ、白の中に黒があればだ」
「上手な中に下手があるとですか」
「上手が際立つ、そしてインパクトもだ」
「凄いですか」
「上手の中に下手もあるとな」
 その下手の方もだ。
「際立って両方にインパクトが出る」
「だからですか」
「これからは同人誌の最後のページにはだ」
「私のイラストを載せたいんですね」
「そうだ、いいだろうか」
「全力でお断りしたいです」
 さとみはバットは収めたが憤怒の形相で部長を見ていた、そのうえでの言葉だ。
「正直今部長にトルネードブリーカー仕掛けたいです」
「積極的だな」
「物凄く積極的に暴力を行使したいです」
「君は暴力反対ではなかったか」
「その私が真剣に頭にきているんです」
 怒る寸前だというのだ。
「そうなってますが」
「しかしだ」
「漫画研究会の同人誌にはですか」
「インパクトが必要だ、それでだ」
「私のイラストをですか」
「最後に載せたいのだ、尚断るならだ」
「何かあるんですか?」
「何もないが受けてくれるならだ」
 それならと言う部長だった。
「君のお昼のきつねうどんの食券一年分だ」
「一年分ですか」
「食堂のおばちゃんは既に説得してある」
「説得出来たんですか」
「色々としてな」
 部長は口元に思わせぶりな笑みを浮かべて話した。
「その色々は秘密だ」
「黒いことしたんですね」
「灰色ということにしてくれ」
 つまり事実は言わないということだ。
「とにかくだ」
「その一年分のきつねうどんが欲しいなら」
「イラストを描いてくれ」
「露骨な賄賂ですね」
「賄賂もまた世の中に必要なのだよ」
「私生徒会長でもあるんですが」 
 女子のとだ、それも話に出したさとみだった。
「ちょっとそうしたことは」
「安心しろ、ばれないとセーフだ」
「部長本当にモラルあるんですか?」
「必要な時はある」
 そうでない時はないというのだ、要するに。
 だがそうしたことはどうでもいいとしてだ、部長はさとみにさらに言った。
「しかし君にとっても悪い条件ではない筈だ」
「きつねうどん一年は」
「そうだ、どうだ」
「それはそうです」
「ではそれでいいな」
 部長は強引に決めた、こうしてだった。 
 話は決まった、さとみは同人誌の最後のページにイラストを描くことになった。そのイラストはというと。
 やはり見ていてかなりのものだった、それで部長は言った。
「うん、いい絵だ」
「下手だからですね」
「これは何のキャラかね」
 そのポーズでの言葉だった。
「一体」
「ですからこの漫画の主人公です」
 週刊少年雑誌の海賊漫画である。 
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