空に星が輝く様に
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190部分:第十四話 夏の終わりにその八
第十四話 夏の終わりにその八
「大きいのになると」
「九メートルって」
「殆ど鯨位はありますよね」
「それは位はあるよな」
陽太郎は頭の中で巨大なマナティーを想像してみた。聞いた大きさにだ。するとかなりとんでもない生き物だと想像できたのであった。
「ええと、つまりは」
「つまりは?」
「俺のこの部屋全体よりまだ大きいんだ」
「長さもかなりですから」
「そうだよな。やっぱり凄いな」
想像してみてあらためて認識することだった。
「そこまで大きいとな」
「はい。それなのに大人しくて」
「ジュゴンとかも大人しいよな」
「それと同じで」
「あんな感じなんだ」
「冷たい海のところに住んでいて天敵もいなくて」
「ドードーとかと似てるな」
この動物も思い出した。狭山達と話している時に出た鳥だ。狭山がレポートの題材にしていたこともここで思い出したりもした。
「それって」
「ええ、そういえば」
「あれも可哀想だよな、ドードーも」
「はい、何か調べていると」
「人間って愚かなのかって思ったりもするよな」
「そうした一面は確かにありますね」
月美もそれは否定しなかった。
「けれど人間が絶滅から救った生き物もいますし」
「どっちとも言えないか」
「地球の為には。ほら、人間はいらないっていう考えですが」
「何か安っぽいSFでよくある話だよな」
「ああいう考えも間違ってるって思います」
少なくとも一国の宰相が言うような言葉ではない。そしてそうしたことを言う人間を持て囃す人間というのも非常に愚かなものである。少なくとも月美はそうした人間ではなかった。
「人間も地球の生き物です」
「何かがいらないって訳じゃないんだ」
「そう思います」
こう話すのだった。
「私は、ですけれど」
「そうだろうな」
陽太郎も腕を組んで月美のその考えに頷いた。そうして言うのだった。
「これって極論だけれどさ」
「はい」
「そんなこと言う奴って自分は何もしないんだよな」
「そうですね、念仏みたいに言うだけで」
「それで動かない」
こうした主張をする人間の常である。
「自分が一番いらないとも言わないしさ」
「だからおかしいと思います」
「自分だって人間なんだから。じゃあ自分もいらなくなるけれど」
「けれど何もしませんよね」
「そういうこと言ったら自殺しかないけれどさ」
そうした意味では某国の首相は自殺しなければならない。だがそうした人間程我が身のことばかり可愛いものである。その首相もまた同じ輩であった。
「それ、ないよな」
「自殺もよくないですけれどそれでも」
「嘘吐きだよな」
陽太郎はこの結論に至った。
「やっぱりな」
「はい、確かに」
「結局そういうのって奇麗事っていうかさ」
「嘘でしかないんですね」
「やっぱりそうなんだろうな」
陽太郎は月美と話していてこのことを再認識した。
「本当に」
「ですよね。ステラーカイギュウだって絶滅していなかったら」
「保護するのは人間の役目か」
「人間だけが駄目とかはないです」
月美はきっぱりと言った。
「人間は善でもあり悪でもある」
「だよな、よく言われるよな」
「だからそう言うのは間違いです」
「つまり何かだけが悪いってことはない」
「はい」
これが月美の言いたいことだった。
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