艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~
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第六十九話
前書き
どうも、部屋に置いてあるカポック(観葉植物)を育てはじめて早四年。最早樹になってきた。育ちすぎだお前。最初はその辺の雑草みたいな見た目だった癖に。
―昨夜―
「…………どういう意味だこら。」
俺は拓海の胸倉を掴んだ。やはり、拓海を軽々と持ち上げれてしまう。
ここにいる艦娘の半分くらいが、無理矢理、あるいは仕方なく艦娘になっただぁ?
「…………普通の人が艦娘になる方法は、幾つかある。」
拓海は持ち上げられたまま、俺の目をじっと見ながら語りだした。
「一つは、『始祖』の場合。最初っから艦娘として産まれたパターン。千尋は半分例外だけど、ここに含まれる。」
俺はふと、春雨やお袋や鳳翔さんを思い浮かべた。所謂、人外というやつだ。
「さらに、最初から『適性』を持っているパターン。病院での血液検査の時に判明したら、本部のところに連絡が入って、すぐさま声が掛かる。相手が了承したら、然るべき対処の後、艦娘になる。木曾や冬華はこのパターンだね。」
今度は木曾の顔を思い浮かべた。あの眼帯オレっ娘は、元気にしてるだろうか。また電話しようかな。
拓海はそこまで言うと、先程に比べて少し神妙な面持ちになった。
「…………そして、『適性』はないけど艦娘に自らなるパターン。男連中は知らないだろうけど、小学校の時に女の子だけが集められるときがあったでしょ?あのときに、一通りの説明を受ける。そして、女の子が保護者だったり、責任者と一緒に艦娘になることを本部に何らかの方法で伝えればいい。」
俺は息を飲んだ。
つまり、世の中の女性は、知っていたのだ。
深海棲艦に対抗することができる『艦娘』の存在。
それは女性にしかなることができないこと。
俺達は、身近な人が艦娘になって、はじめてそれに気付くってのに。
「どうやって適性のない人を艦娘にするかは、誰のでもいい、艦娘の血を注射すれば『適性』ができる。どの艦になるかは分からないけどね。」
…………そこまで聞いて、気になることがあった。
「…………家族へはどれくらい包むんだ?」
「三~四千万。そして、艦娘への給与と同じ金額が毎月入る。」
即答だった。
「……………………身売り、じゃねぇかよ。」
俺は名瀬だか力が抜けるような感覚になって、拓海を放した。
「…………だね。」
拓海は襟元を正しながらそう呟いた。
しかし、ある意味良心的かもしれない。
戦争ってのは、なんにもなしで駆り出されるもんだ。カネが払われるだけまだましだろう。
もっとも、人の命をカネで動かしているという点では、どうなのかとも思うが。
「まぁ、あまりに小さい女の子や、家族に半分無理矢理『艦娘』にさせられた人なんかには、軽く記憶操作をするけどね。」
今は平成だからね、と拓海は苦笑しながら付け足した。
俺は、ここまでの会話を脳内で何度も何度も繰り返した。
艦娘になる方法。
血液注射。
カネ。
記憶操作。
俺は…………一つの結論に至った。
「じゃあ、この鎮守府の奴等は……!」
俺は目を見開いて、固まった。拓海はそんな俺を見て、コクリと頷いた。
「中には、本部だったり各鎮守府が『買われた』という記憶を消すべきだと判断した人の記憶を、完全に消してしまう場合もある。その人には、『艦娘は海から産まれるもの』と教え込む…………この阿武隈なんかは、まさにそうだね。」
「……………………。」
言葉もなかった。
俺は、呉の事を思い返す。
誰もそんなそぶりを見せなかった。あそこに阿武隈のようなパターンの奴が居るのかどうか、それは分からない。
「…………呉の提督は、すげぇ人だったんだな。」
俺はボソッと、そう呟いた。
「…………僕の数少ない、尊敬する人だよ。あの鎮守府には、そんな経緯の人は一人もいないからね。」
拓海は窓の外を眺めた。
「…………なんだよ、俺にどうこうできる問題じゃねぇじゃんか。」
俺は、力なく笑った。
俺が気にしていたものは、俺が思っていたものよりも、圧倒的に大きな問題だった。
正直な話、色々と信じられないことがある。記憶操作とか、なに言ってんだお前と叫びたいところだが、拓海は嘘をつけない。
それがたとえ、自分にとって不利になることだとしてもだ。
疑えない。信じるしかない。
だとしたら、本当に俺にはどうしようもない。
彼女らに俺は、どう言えばいい?
今までの連中は、望んで艦娘になった連中だ。だから意識も高いし、レベルが高かったのだろう。
じゃあ、ここの連中は?
なりたくてなった訳じゃない。そんな奴等に、どう接すればいい?
…………って、答えは一つか。
「だからどうした。」
俺が気にすることじゃない。俺がやることは、海の上で戦うことだ。
それは、拓海の仕事だ。
「…………そーゆーと思ったよ。」
拓海は笑った。俺は笑わなかった。
「まぁ、もしここに艦娘が増えたとき、そいつが海から産まれたとか言い出したら、容赦なくぶん殴るからな。」
あと、俺が気に食わなかった時とか、と付け足した。
「いやだなぁ。絶対痛いじゃん。」
拓海はまた笑った。俺は少しだけ口角を上げた。
「…………さてと、バ○サンしてくか。」
「だね。」
俺と拓海はそう言うと、床に置いていた袋とヤカンを持ち上げた。
―翌日 四階廊下―
ぶっちゃけ、その覚悟が揺らめいていた。
キョトンとした三人の顔を見ると、どうしてもそう思ってしまう。
…………コイツらは、望んで艦娘になったわけではない。
どうして艦娘にさせられたのか、その経緯は全く知らないが、それは確実だ。
でも、コイツらはそれを知らない。そういう意味では、春雨となんら変わらない。
「…………まぁ、あれだ。前世の記憶だろ。よく知らねぇけどさ。」
俺は適当なことを言った。
確かに、俺にはどうしようもない問題だ。
だけど、海の上の話なら俺にもどうにかできる。
「さてと、サクッと終わらせて、昼飯作るぞー!今日は…………材料ねぇからそうめんだ!!」
俺は自分にできる最大限の笑顔を見せた。
「……ご飯…………。」
「…………そーめん…………。」
「…………よーし、やりましょう!!」
三人とも気合いが入ったようだった。
…………こうしてみると、全員歳はそんなに離れてないように見える。不知火は中学生、五十鈴は高校生、榛名さんは大学生位に見える。
そして、そんな女の子が昼御飯を楽しみにしている光景を見ると、俺の中の決意がさらに固くなった気がした。
「…………絶対、終わらせてやる。」
「ん?なにか言った?」
「いや、まずはそこの部屋からかなって。」
俺はそう言うと、近くの扉のドアノブに手をかけた。
―オマケ 今回のぽいぽい―
「ぽい~…………ぽい~…………。」
ぽいぽいは、弥生を抱き枕にしてぐっすり寝ていた。しかし、そのイビキは人としてどうなのか。
「…………拓海くーん…………えへへ…………。」
違う、それ、弥生。
残念ながら、ぽいぽいの夢の中は覗き見ることはできないが、どんな夢を見ているのかは、容易に想像がつく。
しかし、それは弥生である。抱き枕にされている弥生は、そんなの関係ないと言わんばかりに爆睡していた。
そんな感じで、ふわふわした空間がそこには広がっていた。すぐ近くで千尋と春雨がイチャラブしているが、起きる様子はない。しかし、この隻腕とピンク髪、さっさと結婚しやがれと思うのは我だけだろうか。
「ちひろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ドタドタドタドタ!
「へっ?まっ、待っててください!」
パタパタパタパタ!
そんなイチャラブしていた二人は、そんな叫び声を聞いて走り去ってしまった。
「…………っぽい?」
ぽいぽいは、パチリと目を開けた。弥生を離すと起き上がり、キョロキョロと辺りを見渡す。
「…………拓海くん?居ないっぽい?」
やはり、すぐ近くの足音ではなく、拓海の叫び声に反応したぽいぽい。もはや忠犬。
「…………そうだ、朝御飯作ろーっぽい!」
確実に寝ぼけているぽいぽい。なぜかそんな事を思い付いた。
しかし、ぽいぽいは料理をしたことは全くない。精々、卵かけご飯位である。
さぁ、どうするのかぽいぽい。
「えーっと、確か…………。」
ぽいぽい、台所の奥でゴソゴソと何かを探し始めた。何を探しているのか。
「あった!昨日買ったやつ!」
ぽいぽいの目線の先には、BBQセット。
このぽいぽい、朝から焼き肉をするつもりである。しかし、止めてくれる隻腕やピンク髪は居ない。
かくして、第一回佐世保鎮守府BBQ、開催――
「…………これ、どうやって組み立てるっぽい?」
――は、悪ノリ大好き不知火が起きてくるまで、延期となった。
こうして、ぽいぽいの朝は、無駄にゆっくりと流れていくのであった。
後書き
読んでくれてありがとうございます。オマケは、最近めっきり出番の減っているぽいぽいのために書きました。後悔はない。むしろ、なんかスッキリしました。
それでは、また次回。
追伸 いつのまにかUA二万、PV三万突破していました。これから人生の山場に入るため、投稿頻度は落ちていくかもしれませんが、これからも頑張っていきたいと思います。
この作品を読んでくださって、ありがとうございます。
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