真田十勇士
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巻ノ百四十一 槍が折れその九
「その時はな」
「はい、すぐにです」
「反撃じゃな」
「そうしましょう」
「半蔵、城の方はどうなっておる」
家康はここで服部にこのことを問うた。馬でひたすら逃げつつ。
「一体」
「右大臣様の馬印は見えませぬ」
服部は家康の言葉に従い城の方を見てから答えた。
「全く」
「そうか、では茶々殿はだな」
「またなのでしょう」
「我儘を言っておるか」
「それで右大臣様はです」
「出陣出来ずにおるか」
「そうかと」
服部はこう家康に答えた。
「これまで通り」
「わかった、ではじゃ」
ここまで聞いてだ、家康は確かな顔になり服部に述べた。
「この度の戦はじゃ」
「勝てまするな」
「うむ」
服部に答えた、声も今は確かなものだ。
「あと少し逃げればな」
「大坂方の兵の士気は極限には上がらず」
「真田の兵もな」
今幕府の軍勢を攻めている彼等もというのだ。
「そうなってな、そしてな」
「その分ですな」
「疲れが来るのが早くてな」
そうなってというのだ。
「限界が来る、無限に動ける者なぞおらん」
家康はこうも言った。
「だからじゃ」
「ここはですな」
「あと少し退く、そしてな」
「真田家の軍勢の動きが止まった時に」
「反撃じゃ」
それに転じるというのだ。
「そうするとしよう」
「では」
「わしは馬鹿なことを言ったわ」
この言葉は笑って言った家康だった。
「腹を切るなぞな」
「それは我等がさせませぬので」
「そうじゃな、天下人たる者が簡単に腹を切ってはな」
「なりませぬぞ」
「そうじゃ、もう言わぬ」
家康は先程の自分を今の自分の戒めとして述べた。
「決してな」
「そうして頂けると何よりです」
「そしてじゃ」
「真田家の軍勢の動きが止まれば」
「そこを攻めよ、あと少しでじゃ」
「その動きがですな」
「止まる」
家康はこの言葉は確信を以て言った。
「そしてその瞬間にな」
「反撃に転じますな」
「そうする、今は幕府の軍勢全体が攻められておろうが」
このことも察している家康だった。
「しかしじゃ」
「敵の攻めが止まった時には」
「反撃に転じる、竹千代も今は攻められておろうが」
将軍である秀忠もというのだ。
「あ奴は死なぬわ」
「お傍に柳生殿がおられるからですな」
「あの者がおれば安心じゃ」
「天下の剣豪であられるが故に」
「そうじゃ、あの者が竹千代を護ってくれる」
だからだというのだ。
「安心じゃ、ではな」
「あと少しですな」
「辛抱をしよう」
家康はこう考えてだ、今はだった。
退きつつも反撃の機会を待っていた、そして家康が服部から聞いて読んだ通りにであった。大坂城では。
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