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真田十勇士

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巻ノ百四十一 槍が折れその七

「真田殿はお一人です」
「そうじゃな、しかしな」
「あらゆる場所にですか」
「真田の軍勢のな」
「おられぬか」
「では」
 若武者はまずはこう考えた。
「影武者がいて」
「それでじゃな」
「それぞれの場所で采配を執っておられるのでしょうか」
「影武者は影武者じゃ」
 大久保は若武者にこう返した。
「所詮はじゃ」
「真田殿程の采配は執れませぬか」
「到底な、どうも何人もの真田殿が同時にな」
「戦の場におられる」
「そんな感じじゃ」
「そんなことが有り得るのでしょうか」
「それはわからぬ、わしの知っている術ではない」
 大久保は若武者に眉を顰めさせて答えた。
「一人の人間が同時に幾つもの人間はおることなぞ」
「とてもですな」
「ない、忍の分身の術もじゃ」
「あれは幾人も同時に采配を執るものではない筈」
「そうじゃ、相手を惑わすものでな」
 その場に幾人もの同じ者が姿を現わしてだ。
「采配を執ったりするものではないわ」
「ではそれは」
「わしの気のせいか、しかしな」
「真田殿が幾人もおられては」
「強いのも道理、一人でも相当な御仁じゃ」
 家康が恐れるだけの智略と采配、そして武勇を持っているというのだ。
「それなのにじゃ」
「幾人もおられるとなると」
「恐ろしいまでの強さじゃ、陣を突き抜かれることも」
「道理ですか」
「それならな」
 まさにというのだ。
「それも道理、しかしな」
「ここはですな」
「わしはその道理に逆らう」
「では」
「うむ、大御所様はわしが命にかえてもお守りする」
「お願いしました」
「ではな」 
 大久保も馬を走らせた、そうしてだった。
 家康の馬印の方に馬を走らせた、その間にもだった。
 幸村と十勇士達は駆けていた、三河武士達の決死の守りを突き抜けたうえで家康を追っていた。あくまで追いすがる敵の兵達を跳ね飛ばし。
 懸命に追っていた、だがそれでもだった。
 家康も逃げる、遂に馬印まで迫ってそれを持っていた騎馬武者を倒してもだ。家康は逃げ続けていた。
 それを見てだ、十勇士達は苦々し気に幸村に言った。
「殿、馬印は倒してです」
「何とか大御所殿に手が届くところまで迫っていますが」
「それでもです」
「攻撃を仕掛けても」
「伊賀者達がいてです」
「攻撃が当たりませぬ」
 見れば服部と十二神将達が必死にだった、家康を守っていた。彼等は結界を出して家康の後ろで盾を作っていた。
 その盾に阻まれてだ、幸村も十勇士達も手裏剣や鉄砲、術や気を放っても攻めきれずにいたのだ。家康には全く当たっていない。
 だからこそだ、十勇士達は苦々し気に言うのだった。
「幾ら攻撃を仕掛けようとも」
「我等だけではです」
「結界を破れませぬ」
「あの結界を破るには」
「やはり」
「うむ、多くの兵で攻めるしかない」
 幸村はここでもどうすればいいのかはわかっていた、このことはだ。
「多くの槍で突き崩すしかないわ」
「ですな、それでは」
「ここはですな」
「もっと多くの兵がいてくれれば」
「士気の高い兵達が」
「攻めきれるが」
 幸村も苦い顔で言った。 
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