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夢幻水滸伝

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第五十三話 東国その一

                第五十三話  東国
 賑やかな街だった、多くの家々が立ち並び川と堀に幾重にも囲まれ繁栄を見せている。その中心にだった。
 巨大な城、江戸城がある。本丸だけでなく二の丸、三の丸、北の丸、西の丸から成っている。内堀と外堀が渦巻き状に城を囲み石垣も壁も高い。その中央にだった。
 五層七階の見事な天守閣がある、その天守閣の最上階にだ。今赤と黄色、白に橙に青と様々な色がある大きな着物を着た中背で痩せた顔の男がいた。
 顔立ちは明るく猛々しい、眉は大きく口元には笑みがある。髪の毛は茶色で短く見れば尻には尻尾、猿人のそれがある。東国の棟梁である天罡星幸田吉三郎だ。職業は傾奇者であり威風堂々にして器の大きい豪快な男として知られている。
 その幸田が江戸の街々を腕を組んで笑って見ている、そしてだった。
 その彼にだ、後ろから若い武士が言ってきた。
「棟梁、今日もですね」
「ああ、この時間はな」
「こうして江戸の街をですね」
「見ることにしているだろ?」
「はい、こうして江戸の街を見るのが」
「おいらの楽しみの一つだからな」
 それでとだ、幸田は後ろにいる武士に笑って話した。
「見ているんだよ」
「左様ですね」
「ああ、それでお主がここに来たのは」
「はい、関西に向かわれていた松尾様がです」
「戻ってきたか」
「はい」
 そうだというのだ。
「今しがた」
「よし、それならな」
「これからですか」
「会うか、しかしな」
「お会いする場所は」
「ここだ!」
 見得を切る様にしてだ、幸田は言った。
「ここで江戸の街を見ながらな」
「松尾様とお話しますか」
「ああ、日毬ちゃんとな」
 その彼女と、というのだ。
「そうするな」
「わかりました、では」
 武士は頷いてだった、早速。
 日毬を幸田のところに呼んだ、日毬は幸田の後ろから彼に問うた。
「あの件だな」
「ああ、聞かせてくれるか」
「わかった、ではだ」
「横に来てくれるか」
 幸田は自分の背の方にいる日毬が話そうとするとこう返した。
「そうしてくれるか」
「いいのか」
「ああ、それで頼むな」
 幸田は腕を組み日毬に背を向けたまま笑って言った。
「これから」
「しかし貴殿には」
「ははは、彼女がおっても話は近いところで聞きたい」
「だからか」
「横に来て一緒に天守閣からの景色を見ながらな」
 そうしてというのだ。
「話そうな」
「わかった、ではな」
 日毬もここで頷いた、そしてだった。
 足を前に出して幸田の横に来てだ、そうして話をはじめた。日毬も目の前に広がる江戸の見事な街並みを見た。江戸の家々が立ち並び町人達が笑顔で行き交っている。ただよい家が多いだけでなく町人の数も多く賑わっている。
「都に行ってだ」
「綾乃ちゃん達に会ったな」
「学校で見る時とまた違いな」
「別嬪さんか」
「うむ、あちらでも美人と言っていいが」
「こっちの世界でもか」
「見事な美人だ、しかし人間の美貌ではなく」
 日毬はまずはこの世界の綾乃のことを話した。
「光の精霊のそれだ」
「光輝いている感じでか」
「また違う美貌を見せていた」
「そうか、おいらも会うのが楽しみだな」
「そうか、そしてだ」
「ああ、それでこっちの考えは伝えたな」
「そうしてきた」
 日毬は幸田に確かな声で答えた。 
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