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103部分:第八話 ファーストデートその十一


第八話 ファーストデートその十一

「それよりもバイエルンのあのボリュームたっぷりのお料理の方が」
「バイエルン?」
「はい、父がバイロイト好きでして」
 今度話に出て来たのはこの街だった。ワーグナーの歌劇場であるバイロイト歌劇場がある場所だ。ワーグナーファン、ワグネリアンの聖地でもある。
「それでそこにも」
「何か西堀の家って凄くない?」
 怪訝な顔で月美に問うた。
「ウィーンにバイエルン、それにパリってさ」
「父の仕事の関係で行きやすいんです」
「お父さんの?」
「はい、大学の音楽部の教授でして」
 そうであるというのだ。
「八条大学の」
「八条大学のなんだ」
「そうなんです。その関係で」
「やっぱり凄いよ」
 あらためて月美に対して話すのだった。
「何かさ。そういう音楽的なものって俺の家にはないし」
「ないんですか」
「うん、ただ同じ八条系列に勤めているけれど」
「八条大学じゃなくてですか」
「親父は八条銀行なんだ」
 そこだというのである。
「本社にいるよ、ここのね」
「そうなんですか」
「うん、お袋はお医者さんでさ。八条病院にいるよ」
「お母さんはお医者さんで」
「内科のね。最初八条銀行にいてその縁で親父と知り合ったんだ」
 尋ねられる前から答えたのである。
「そうして結婚して俺と妹が生まれたんだ」
「そういえば妹さんおられましたね」
「ああ、そうだよ」
 妹のことになると笑顔で応える陽太郎だった。
「それでなんだ」
「私も妹がいます」
 月美も言ってきた。
「小学生の。五年です」
「うちは一年だよ」
「学年は違いますね」
「そうだね。けれど妹さんいるんだ」
「そうなんですよ。結構生意気で」
「あはは、うちのもだよ」
 今度は妹の話で弾むのだった。
「もうさ。やんちゃでね」
「妹ってそうですよね」
「そっちもなんだね」
「もう手がかかって」
 こう話していく陽太郎だった。
「本当にさ」
「けれどそれでも」
 ここで月美の言葉が少し変わった。
「可愛いですよね」
「ああ、確かにね」
 陽太郎は月美が話を変えてきたのに内心戸惑った。だがそれに合わせることはできた。そうしてこう言ってみせたのである。
「それね」
「妹がいてよかったです」
「俺も。それはね」
「兄弟がいるっていいですよね」
 月美もまた返した。
「本当に」
「ああ、そうだ」
 ここで陽太郎はまた話した。
「それだけれどさ」
「それで?」
「妹の分も買おうかな」
 こう言ったのである。
「ザッハトルテを。どうかな」
「あっ、それでいいですね」
 月美も笑顔でそれに頷いた。
「私も。そうします」
「何だかんだ言って妹さん大事なんだね」
「斉宮君もそうですね」
「うん、やっぱりね」
 それをまた言う陽太郎だった。
 
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