FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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黒魔導士の子供
前書き
感想で展開を言い当てられる回数が増えている気がする(笑)
まぁ単純でわかりやすいという意味ではいいのかもしれないですね。
地面にひれ伏す大切な友。それを見たグレイはどんな表情をすればいいのかわからなくなっていた。
「ナツ・・・」
握り締められる拳。強く力の入ったそれは震えていた。
「あら?お仲間を殺されて怒っちゃった?それとも・・・」
顔を俯けている彼の顔を覗き込むように近付くヨザイネ。日の光のせいなのか、彼の表情はわからない。
「仇を討ってもらえて感激しちゃった?」
可愛らしく首を傾げるヨザイネ。彼女の言葉にルーシィたちの困惑はさらに深まり、メルディとジュビアは心配そうに顔を見合わせた。
「グレイ!!そいつに耳を傾けるな!!」
それに対しリオンは慌てたように口を開いた。インベルから聞かされたグレイの怨敵であるENDの正体・・・そのENDが目の前で死んでいるとなれば、次に彼がどんな行動を取るのか予想ができないのだ。
「・・・お前がナツを殺ったのか?」
「えぇ、そうよ」
ようやく絞り出したその言葉はひどく重たく感じた。しばらくナツの亡骸を見て黙り込む。それを見たヨザイネは飄々とした顔で話しかける。
「もしかして自分の手で殺したかった?憎きゼレフ書の最強の悪魔を」
完全に挑発に走っている彼女にリオンたちも思わずイラつく。だがグレイは一体どうなのだろうか、彼は果たして彼女にどのような感情を抱いているのだろう。
「・・・いや、感謝してるぜ」
ボソッと呟く青年。それに仲間たちは唖然とし、敵はニヤリと笑みを浮かべる。
「おかげでやっと大切なものに気付けた」
「ほぇ?」
その後に続けられる想定外の言葉に間抜けた声が出た瞬間、彼女の腹部に突き刺さる拳。それを放った青年の表情は鬼の形相そのものだった。
「ゴホッ!!ゴホッ・・・」
不意討ちに咳き込むヨザイネ。体勢が崩れた彼女にさらに攻撃を放とうとしたが、彼女は身を屈めて何とかそれを回避する。
「何?仲間を殺された敵討ちでもしようってことかしら?」
いつの間にか魔力が高まっているグレイをからかうようにして見据えるヨザイネ。それにグレイは答えない。
「でも、あなたはこの子を恨んでいるんでしょ?ゼレフ書の悪魔はあなたから家族も師匠も奪った。それの最高傑作が目の前で死んでいたら、喜ぶと思うんだけどなぁ」
「黙れよ」
饒舌に語り出した少女の言葉を遮るように口を開く。その目はひどく冷たく、彼を知るものたちでさえ背筋を凍らせた。
「その忌々しい口を閉じろよ。聞くに耐えねぇ」
あまりの物言いにムッとするヨザイネ。それに気付いているのかいないのか、グレイは続ける。
「確かに俺はナツを殺そうと思ってた。親父もウルも・・・みんなゼレフ書の悪魔に殺されたから」
以前からENDに照準を定めて力を付けてきたグレイ。彼はその正体を聞かされた後もその考えを変えようとはしなかった。
「ならそれでいい・・・!!」
いいじゃないと言おうとしたヨザイネだったが、彼女は何かに気付きそちらに視線を向ける。それにグレイは気が付かないまま、言葉を紡いだ。
「だけど・・・今気付いちまったんだ」
握り締める拳が震えている。彼の怒りは紛れもなく本物だ。
「生きてる奴の方が大事に決まってんだろ」
例え彼がゼレフ書の悪魔であろうと、親や師が死んでしまう原因であろうとも、ナツはグレイにとってとても大切な友人。その事に恥ずかしながら、目の前で友が亡くなってから気が付いたのだ。
「バカみたいだぜ。こんな大切なことに気付けねぇなんて」
思わず溢れそうになった涙を拭う。彼のその姿を見たジュビアたちは安堵した。ここに来るまでの彼の表情は思い出しただけでも身の毛がよだつ。だが、今の彼を見たその考えは一瞬で消え去る。
「ナツは俺の友達だ。それを奪ったお前を俺は絶対ぇ許さねぇ」
右腕から悪魔を滅する模様が顔にまで伸びてくる。それを見たヨザイネは彼を見た後、なぜか別の人物へと視線を向けた。
「気に入らないわね・・・」
ボソッと呟いたその声が何と言ったのかは誰にもわからなかった。しかし、その時の彼女の目が明らかに憎悪のそれになっていたことに皆が困惑する。
「あの子と同じ髪の色なんて・・・」
脳裏に蘇る小さな人影。この場面でなぜ彼のことを思い出してしまわなければならないのかと彼女は苛立った。
「悪魔を滅する魔法・・・私には相性が悪いわよ」
奥歯を噛みながらまずは視線を最初に倒すべき相手へと向ける。
「すぐに全員始末してあげるから」
何かを見てスイッチが入ったヨザイネ。その原因が何なのか、まだ誰にもわからない。
「ハァ・・・ハァ・・・!?」
ティオスをラクサスたちへと任せてまだ見ぬ会わなければならない人物を探していたシリル。すると、彼は突然足を止めた。
「どうしたの~?やっぱり空から探す~?」
その後ろから翼を出して付いてきていたセシリーが声をかける。だが、シリルはその声が届いていないのか、どこか遠くを見つめている。
「なんだ?この胸騒ぎ・・・」
「え~?」
彼が何に気が付いたのか検討もつかないセシリーは彼と同じ方向を見つめるだけで何があるのかさっぱりわからない。
「こっちか!!」
「あ!!待ってよシリル~!!」
これまで走っていたルートを変更して再び走り出した水竜。彼を待ち受けているのは果たして・・・
ここは何もない荒野。そこでは六人のフィオーレの魔導士と一人のアルバレス帝国の魔導士がぶつかり合おうとしていた。
「時間はまだある。焦らず仕留めていくか」
ターゲットであるシリルを逃がしてしまったことでさぞ慌てていることだろうと思っていたティオス。だが、彼の表情に焦りなど感じられなかった。
「こいつ・・・ラミアのレオンか?」
「いや・・・髪の色が・・・」
素顔を露にしたティオスを見てラクサス、ギルダーツ、カナ、一夜は呆然としていた。その顔は幼さが抜けてはいるが、紛れもなくレオンのそれだったからだ。
「こいつは未来から来たレオンらしい。氷の滅神魔法を使ってくる」
「パワーも今のレオンより強くなってますよ」
彼と対戦経験のあるローグとスティングがそう告げる。だが、そこである疑問がこの青年の中で浮かんできた。
「お前・・・あの時死んだんじゃなかったのか?」
「「「「「!?」」」」」
ハルジオン解放戦に参戦したものたちしか知らない事実。それは、今目の前にいる青年はすでに命を落としているということ。つまり、未来から彼が来ることは不可能なのだ。
「レオンが・・・死んだ?」
「じゃあこいつは・・・?」
ラクサスの言葉で広がる動揺。それを聞いてもティオスの表情は乱れることはない。
「確かに俺は死んだ。だが、俺はレオンであることに間違いはない」
ニヤリとほくそ笑む青年。彼の肢体に力が入ったのを感じ取った彼らも遅れまいと構えを取った。だが・・・
「だが俺は、レオンでありレオンではない!!」
彼の速すぎる動きに、誰一人として反応できなかった。
「バカな!?」
「さっきよりも遥かに速い!!」
一瞬のうちで手負いのギルダーツの懐へと入り込む。先のオーガストとの戦いですでに彼は満身創痍。ただでさえ衰えているのに敵の圧倒的な速度。反応することなどできるはずがなかった。
「できれば全快のあんたと戦ってみたかった」
決して本気とは言えないほどの力だった。それなのに、ティオスの腕はギルダーツの体を貫通し、口から鮮血が飛び散った。
「ゴハッ!!」
「お父さん!!」
「ギルダーツ!!」
全く太刀打ちできなかった。反応すら許すこともなく体を貫かれたギルダーツは膝を付く。
「お父さん!!しっかりして!!」
心配して敵が目の前にいることを忘れて駆け寄る娘。それをティオスは手を出す訳でもなく、不敵な笑みで見つめていた。
「カナ・・・俺はもうダメだ」
「何言ってんだよ!!あんたらしくない!!」
力が抜けてきた彼は地面に倒れそうになる。カナはそれを支え、どんどん失われていく体温を感じていた。
「こんなだらしねぇ父親で・・・すまなかった・・・」
「ホントだよ・・・あんたはいつもいつも・・・自分勝手で・・・」
自分が彼の子供であるとなかなか言い出せなかった。伝えてからもなかなか構ってもらうことができなかった。もっと多くの時間を過ごしたかったのに、それももうできない。その事がわかっているからなのか、カナの目から大粒の滴が休むことなく地面へと降り注ぐ。
「ラクサス・・・カナを頼む・・・」
「・・・あぁ、任せろ」
彼に背を向けたまま答えるラクサス。彼は振り返ることができなかった。今彼を見れば、間違いなく心が折れてしまうのがわかっていたから。
「カナ・・・俺はいつでもお前を見守ってるからな」
そう言い残し、彼の体から完全に力が失われた。後に残された者たちの耳に聞こえてくるのは、最愛の娘の悲痛な叫び。
「ここまでダメージを与えたんなら、殺せば良かったのに。やっぱり実の母の子たちは殺せないのか、あいつは」
悲しみに暮れる妖精を見下ろしながら冷静な分析をしているティオス。その姿に怒りを感じた男たちはやっとの思いで口を開いた。
「母の子?誰のことを言ってるんだ?」
鋭い目付きで問いかけたのは影の竜。その問いにティオスは嬉々として答えた。
「お前らにも情報は入ってるだろ?黒魔導士には子供がいるって話」
マカロフが一年間アルバレスとの交渉に向かっていた際に仕入れた情報。それはゼレフには子供がいるということ。その第一候補は彼に似た魔力を持ち、スプリガン16の中で唯一風当たりが強いティオスだと思われていた。
「だがお前はレオン・・・ゼレフの子ではないだろう」
レオンはリオンのいとこ・・・つまり彼の親の兄弟の子・・・ゼレフとは一切関係のない血筋であることは言うまでもない。
「俺も黒魔導士の子と言えば当てはまらなくはない。だが、いるんだよ。本当の子供が」
「「「「!!」」」」
その宣告は衝撃だった。いるのかどうかもわからなかったゼレフの子。それが実在するとなれば、驚かないはずがない。
「なかなかのサラブレッドだと思うぜ?黒魔導士の子であり、妖精軍師の子でもあるのだから」
「初代の子供・・・だと?」
新たな事実にさらなる動揺が広がる。メイビスとゼレフが愛し合っていたことはメイビスから聞かされていた。だが、二人の間に子供がいたことなど、聞いたこともなかったからだ。
「知らないのも無理はない。奴は本来なら生まれてくるはずがなかった子なのだから」
不思議な言い回しに思わず顔を見合わせる男たち。話についていけない彼らを置いていくようにさらに続ける。
「妖精軍師がありもしない矛盾の呪いで意識を失った時、奴はまだ腹の中にいた。それを救出したのが、妖精の二代目マスタープレヒトだ」
「??ありもしない?」
疑問点が次々に増えていく。懸命に理解しようと頭をフル回転させるスティングたち。ティオスはそれに順を追って答えていく。
「だがプレヒトは奴を捨てた。生まれながらにして強大な魔力を持っていた奴を育てる自信がなかったのさ。故に妖精軍師も黒魔導士も知らない・・・哀れな子というわけだ」
生まれながらにして持ってしまった強大な魔力が彼を苦労のどん底へと叩き落とした。プレヒトから捨てられ、生きるために物を盗み、ただ生きるために必死だった。人を恨んでしまっても仕方がないほどの生い立ち・・・それなのに、彼は誰も恨むことはしなかった。
「あいつが生涯で恨んだのは俺とラーケイドぐらいのものだ。自らを黒魔導士の子と名乗るラーケイド、黒魔導士の子供間違えられる俺。未だに親から認知されていない奴からすれば、憎い存在以外の何者でもなかったであろう」
今まで何年も共に国を栄えさせてきたのに、父からは気付いてもらえず、母からはその存在すら知られていない。それでも父に尽くすその姿を思い出せば、それだけでティオスは涙が出そうになった。
「それで?その子供とは誰なんだね」
「そうだ。お前は一体誰のことを言ってるんだ!!」
なぜここでその話を出してきたのか、その正体が誰なのか問いかけずにはいられない。すると、ティオスは笑みを浮かべながら、口を開いた。
「アルバレスでは、8月は厄災が集まると言われている。8月を乗り越えるため、人は皆祈り、慎み、正直に暮らす。8月は恐怖の月、誰もが知ってる昔話」
後書き
いかがだったでしょうか。
原作では謎のままで終わった8月は恐怖の月の下り。ここではそれを勝手な解釈の元出してみたいと思います。他にも様々な点で謎で終わったところを出していきたいと思ってはいます。私が覚えているところはね。
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