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天動説

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第四章

「それは、切支丹も実は教え自体は」
「構わないですね」
「どうというものはありません」
 それ自体はというのだ。
「全く、問題はです」
「この国を教えを使って乗っ取ろうとしている」
「このことが問題なので」
 それが為にというのだ。
「禁じているので」
「教え自体は」
「何も」 
 幕府にとっても羅山にとっても問題ではないというのだ。
「問題はありませぬ」
「それではガリレイという者についても」
「私が天動説でもです」
 若し彼が日本にいればだ。
「それで学問についての論戦になろうとも」
「その考えを捨てろとは言われぬ」
「不服ならまた私に論戦を挑めばいいだけのこと」
 羅山はこう言い切った。
「それだけのことです」
「そしてそれがこの国での考えですか」
「幕府もです」
「教会の様なことはされませぬか」
「そうする必要がありましょうか」
 ない、とだ。羅山は反語で言った。
「ですから」
「そして新旧の宗派での殺し合いも」
「それはより信じられませぬ、本朝でも一向一揆を抑えはしましたが」
 それでもというのだ。
「あくまで一揆を起こすからであり」
「教え自体はですね」
「一向宗は今もあります」 
 その総本山である本願寺もというのだ。
「そして僧兵達を持っていた寺々も」
「今もですね」
「僧兵達がいなくなっただけで」
 それでというのだ。
「別にです」
「何もないですな」
「潰したり皆殺しにしたりなぞ、ましてや町の者を全て殺すなぞ」
 自分達と同じ宗派でもだ、神が見分けるとなぞと言ってだ。
「想像も出来ませぬ」
「それがこの国なのですね」
「このことは確かに申し上げておきます」
 羅山は阿蘭陀人に述べた、そして幕府での務めの後で己の屋敷に戻ってから屋敷にいる弟子にガリレイのこともあちらの戦のことも話した、するとその弟子は唖然とした顔でこう師匠に言ったのだった。
「あの、それは全てまことのことですか」
「その様じゃ」
 羅山は弟子に深刻な顔で述べた。
「嘘を言っている顔ではなかった」
「幾ら何でも」
「無道に過ぎるな」
「どれもこれもが」
「わしはあの時相手の考えを捨てさせなかった」
 論戦の話を弟子にもした。
「それを強制することはな」
「そうでしたね」
「しかしあちらでは言うなら幕府がな」
「お白洲に連れ出してですか」
「命を奪わんとせんばかりの剣幕でじゃ」
「その考えを捨てさせたのですか」
「恐ろしいことじゃ」
 羅山は西洋、そして教会について述べた。
「あちらではそこまでの無道が普通なのじゃ」
「戦でもですな」
「宗派が違うと皆殺しじゃ」
 それもするというのだ。
「西洋はそうしたところとのことじゃ」
「いや、本朝とはまるで違いますな」
「本朝ではそうしたことは一つもない様にせねばな」
「全くです、これからも」
「このこと、幕府は見習わぬようにしていこう」
 羅山は固く誓い実際に将軍にも幕府の要職の者達にも話した、実際に幕府はその歴史において西洋の様なことは一切しなかった。日本では皆殺しにせんまでの宗教戦争もガリレイもいなかったことは事実である、そして羅山が天動説を言い相手の議論で勝ったが教会がガリレイにした様なことをしなかったことも全て日本の歴史にあることである。


天動説   完


                  2017・10・21 
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