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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第160話「見えない打開策」

 
前書き
何気に大門の守護者が勝ち続けているのは実力差が大きい訳じゃありません。
相性や状況、戦闘技術などによって、勝敗が決まっているようなものです。
実力自体は連戦していることもあって拮抗したものばかりでした。
 

 






       =out side=







「なんで……どうして……!?」

 土御門の屋敷で、次期当主の澄紀は式姫召喚が上手くいかない事に狼狽えていた。

「っ……まだよ……!もう一度……!」

 霊気が濃くなった今、確かに式姫の召喚は可能になっている。
 それなのに上手くいかないのは、召喚のための触媒である型紙がないからだ。
 また、古い文献から急いで読み解いていたため、術式も若干間違っていた。
 それに気づかない澄紀はもう一度試そうとする。

「くっ……!また……きゃぁっ!?」

 焦りが積もり、また召喚に失敗すると同時に、澄紀は躓いてこけてしまう。
 その拍子に、文献などの資料がある棚にぶつかってしまう。

「あ、危なかった……って、これは……?」

 運よく資料には傷がつかなかったが、その際に一つの古い箱が見つかる。

「封印が掛けられてる……そういえば、家に伝わってるものの一つだったような……」

 その箱は厳重な封印が施されており、簡単には開かないようになっていた。
 澄紀はその箱が幼い頃に触れてはならないものだと教えられていた事を思い出す。

「って、こんなことしてる場合じゃない。早く、もう一度試さないと……ぇ……?」

 すぐに元の位置に戻し、再度召喚を試そうとして、思わず立ち止まる。

「……封印が……?」

 箱にかけられていた封印が、勝手に解け始めていたのだ。
 そして、自身に変化が訪れる。

「な、なに……なんなのこれ……!?」

 自分のものとは思えないほど、洗練された霊力が巡る。
 そして、勝手に体は動き、召喚のための陣に立つ。

「(どうしてかはわからない。……でも、こうすれば……)」

 ほぼ無意識な行動の後、召喚陣が眩く輝く。
 ……この時、彼女は気づいていなかったが、触媒に彼女自身が使われていた。

「ぁ……え……?」

 光が収まり、澄紀の目には信じられないものが映っていた。
 それは、自分の顔と瓜二つで……そして、半透明だった。

「な、なに……?成功、したの?」

『ここは……なるほど、私の残したアレが機能したのね』

「っ……!?(喋った……!?)」

 そして、その幽霊らしき人物は納得した様子で呟く。

『召喚したのは貴女ね?名前を聞いてもいいかしら?私は土御門家9代目当主、土御門澄姫よ』

「わ、私と同じ名前……?あ、わ、私は土御門澄紀……21代目次期当主よ」

 実際には文字が違うが、発音自体は同じなため、澄紀は思わず呟く。

『あら、貴女も私と同じ“すみき”なのね。……文字はどうか知らないけど、この際いいわ。それに、どうやら私の子孫みたいだし……』

「ご先祖様……?そういえば、9代目って……」

『そう。ちょうど幽世の門が開いていた時代。一人の陰陽師がその身を賭して大門を閉じた時代よ。……もしも、再び同じようなことが起きれば、私が現世に戻ってこれるように、とある術式を封印していたのよ。それが、これね』

「さっきの、箱……」

 澄紀は知らない事だが、箱の中には御札が大量に貼られた、かつて澄姫が使っていた髪飾りなどの装飾品などが入っていた。
 封印が解けたのは、以前のように幽世の門が開いていたため。
 そして……。

『私を召喚できた貴女は、私の依り代になれるの。……協力してもらうわよ。ちなみに、拒否権はないわ』

 封印に触れた者が、澄姫と波長や魂が近しく、依り代としてふさわしいからだ。

「え、ちょっと……きゃぁあああああ!?」

 突然取り付くように自分に飛び込んでくる澄姫に、澄紀は反応しきれずにただ叫び声をあげる。一応、悪霊などではないため、害はないが、それでも憑りつかれる事に驚いたのだろう。

「さて、戦闘面では私が主導権を握るわ。今の土御門がどうなっているかわからないから、他の事は任せるわ」

『え、嘘!?私の体が!?』

 次々と驚愕すべきことが起こり、澄紀はパニックになる。

「時間がないのだから冷静になりなさい!土御門の次期当主になるのなら、緊急時こそ冷静に!」

『は、はい!』

 澄姫の一喝に、澄紀は意識だけの状態で背筋を伸ばすように佇まいを直す。

「……行くわよ。私だって、ただ止めるために戻ってきた訳じゃないの。……あの子が、今度こそ犠牲にならないように覚悟を背負ってきたの」

『……え……?』

 並々ならぬ気配を意識越しに感じ、澄紀は思わず思考が止まる。

「……無駄話ね。行くわよ」

 話を止め、澄紀(澄姫)は外へと向かった。











「……ダメだな。これだと通じる通じない以前に成功しない」

「近接戦の人数が足りませんね……」

「オレや猫又じゃ、補いきれないからな……」

 一方、生き残りの式姫達は、京都へと向かいつつ作戦を組み立てていた。
 ……が、勝てる勝てない以前に成功する作戦が組めずにいた。
 つい先ほど、大気の霊力濃度が上がり、全盛期の力を一部取り戻したにも関わらず、守護者に対して“成功”する作戦が組み立てられなかった。

「……その話、私も噛ませてもらえない?」

「っ、何者だ!?」

 そこへ、並走するように鈴が追い付いてきた。

「土御門鈴。……詳しい説明は省くけど、陰陽師よ。事情に関してはある程度知っているし、もう一人助っ人がいるわ」

「土御門……現代の陰陽師か……!」

 鈴の名を聞き、鞍馬が驚く。

「……助っ人とは?」

「そろそろ追いついてくるわ」

「……呼んだか?」

 噂をすれば何とやら。蓮の質問に答えるように、悪路王もすぐに追いついてきた。

「なっ……!?」

「あ、悪路王!?」

 その姿を見て、集まっていた式姫全員が驚愕した。

「幽世の門が開いているのであれば、吾がいてもおかしくはないだろう」

「それよりも、作戦を聞かせて頂戴。私たちで穴を補えるかしら?」

「あ、ああ……」

 味方してくれるのなら、この際なんでもいいと判断し、鞍馬は作戦を伝える。
 結論から言えば、鈴と悪路王が加われば作戦は“成功”すると判断できた。
 そして、再び京都へと一行は急ぐ。

「……ねぇ、貴女……」

「……何かしら、織姫」

 その途中、織姫はふと気になった事を鈴に尋ねる。

「……貴女、以前に私たちと会ったかしら?」

「……どうして、そう思うのかしら?」

「そうね……。貴女の私たちを見る表情が、どこか懐かしい人を見るようだったから。……それに、“土御門”と“鈴”。……どちらの名前も知らない訳ではないから、無関係とは思えないのよ」

 その言葉に、鈴は少し考え……。

「まぁ……そうね。会ったことはあるし、この“土御門”の名も貴女の考えている通り、あの安倍氏の家系よ」

「やっぱり……」

「……ありがとうね。あの時、鵺を倒してくれて」

「っ……!」

 ぼそりと呟いたその言葉で、織姫は確信した。
 あの時、自分を含めた皆で倒した鵺に囚われていた人物だと。

「貴女……」

「……今度は、私が恩を返す番よ」

 これ以上は語るべきではないと言わんばかりに、鈴はスピードを上げた。
 織姫もそれを理解し、それ以上は話さず、真っ直ぐに京都へ向かった。















『姉さん……!』

「まずいね……これは……」

 そして、京都では。
 妖を術で抑え込んでいる紫陽が、守護者の気配を感じていた。

「(妖も多くいる中、守護者まで来てしまった……。本来なら、それなりの期間を掛けて解決していく事象を急いだ結果かね……。緋雪も抑えきれなかったとは……)」

『姉さん……どうするのですか……?』

「慌てるなって葉月。……守護者は幽世の神たるあたしを狙ってる。実際、あたしが殺されたら葉月が死ぬだけじゃなく、妖の抑止力もなくなるからね」

 そう言いつつ、近寄ってきた妖を霊術で焼き尽くす紫陽。

「……だけど解せないのはなぜそうするか、だ。あたしを殺せば確かに抑止力はなくなるし、もしかしたら守護者が神に成り代わるかもしれない。でも、そんな事をしてしまえば、それこそ幽世と現世の均衡は完全に崩壊する。霊力に惹かれていると言われればそれまでだが……」

『………』

「……いや、今は置いておこう。今重要なのは、守護者をどうするかだね」

 呪属性の霊術で妖を一掃し、一度態勢を立て直す。
 そして、危険を考慮した上で自身が守護者と戦おうとして……。

「……どうやら、相手をしてくれるみたいだね」

『はい。ですが、あれは……』

「力はあっても、感情に流されているね。あれじゃあ、いくら強くても勝てないね」

 神夜が守護者に突撃していったのを、気配で感じ取った。
 尤も、あっさりと勝てないと判断されたが。

「……賭けてみようかねぇ……」

『姉さん……?』

「葉月、あたしはこのまま妖の足止めを続けるよ。守護者の……とこよの相手はあいつらに任せる」

『しかし……!』

 まさかの人任せにするという紫陽に、葉月は食い下がる。
 死ぬのが怖くない訳ではないが、なぜ人任せにするのかわからなかったからだ。

「……あたしは、あいつら魔導師について少し知っているのさ。……というより、聞かされてたって感じかねぇ。……緋雪の仲間だった奴らなんだから、少しは信じてみるのさ」

『姉さん……』

 そう言って、紫陽は気配を感じる方向から目を背け、再び妖の足止めに戻った。











「がはっ!?」

 そして、守護者がいる場所では。
 司がやられた事に神夜が激昂して突撃し、あっさりと返り討ちにされていた。
 神夜に“十二の試練(ゴッド・ハンド)”がなければ、既に死んでいた。
 否、今ので一度死んでいた。命のストックがあるからこそ、助かったのだ。

「馬鹿野郎!無闇に突っ込んでも勝てねえぞ!」

「だけど、司がやられたってのに!」

「司がやられたからこそ突っ込むなって言ってんだろうが!」

 追撃を食らう前に、ヴィータが神夜を連れて上空へ逃げる。
 その際に、ヴィータが魔力弾を、シグナムが矢を打ち込む事で目晦ましをしていた。

「くそっ……!」

「(とは言ったものの、逃げ切れる訳でもねぇ。というか、あたしたちが逃げれる状況にない。ここにいるって事は、司どころか、あいつもやられたってことだろ?……一体、どうすりゃいいってんだよ!)」

 神夜が冷静じゃなくなっているからこそ、ヴィータは冷静に思考する。
 だが、危機的状況をどうにかする方法が思い浮かばない。

「(遠距離か、近距離、どっちが弱い?いや、そもそも何人がかりなら敵うんだ?)」

 戦力を分析しようとして、力の差が圧倒的な事しかわからないヴィータは焦る。
 さらにそこへ、思考を中断させるように、矢が飛んできて……。

   ―――ガードスキル“Delay(ディレイ)”、“Hand Sonic(ハンドソニック)

     ギィイイイン!!

「ッ……!」

「奏!!」

「早く、離れて……!」

 庇うように割り込んできた奏によって、何とか矢は逸らされる。
 守護者との距離が大きく離れていからこそ、できた事だ。

「だが!」

「ッ!」

「ぐっ!?」

   ―――“Delay(ディレイ)

 食い下がろうとする神夜だが、即座に奏に蹴り飛ばされる。
 同時に奏もガードスキルで少し後ろに下がる。
 直後、矢がそこを通り抜ける。

「ッ……!」

「奏!?」

「『私が時間を稼ぐ。その間に援護と打開策を……!』」

 奏はそのまま守護者へ向けて宙を駆けていく。
 ヴィータの呼び声を無視し、念話で全員に伝える。

『無茶だ!優輝も司もやられたというのに、奏、君一人では……!』

「『でも、誰かがやらないとその分犠牲が増えるだけ』」

Attack Skill(アタックスキル)

   ―――“Fortissimo(フォルティッシモ)
   ―――“弓技・螺旋-真髄-”

     ギィイイイン!!

 クロノの念話に奏はそう答え、同時にアタックスキルを放つ。
 ハンドソニックの刃から放たれる砲撃で、飛んできた矢を何とか相殺する。
 躱す事は可能だったが、未だに射線上に神夜とヴィータがいたため、こうして相殺する事にしたのだ。

『……今回だけは、無理をしてでも死ぬなよ』

「『わかっているわ。……でも、その言葉は守れないかもしれない』」

 そう念話を締め括り、奏は駆ける速度を上げる。

「(優輝さんも、司さんも負けた。神降しもジュエルシードも使えない私では、火力どころか全てが足りない。……でも、やるしかない)」

 怖くない訳ではない。
 当然、奏にも死の恐怖があり、自分よりも強い二人がやられた絶望感はある。

「(……大丈夫。前世と比べれば、まだ“希望”は残っている……!)」

 それでも、奏にとっては、前世の病気でどうにもならなかった時と比べれば、力もあり、まだ“希望”も残っていた。
 ……絶望に呑まれるには、まだ早い。

「(覚悟を決め、精神を研ぎ澄ます。一手一手が必殺の一撃。決して当たってはいけない。……決して、捉えられてはいけない……!)」

 次々と矢が飛んでくる。
 それを奏は躱しながら、距離を詰めていく。
 他の皆に対する流れ弾はもう気にする余裕はない。
 そもそも、奏が矢を躱せるのは、それだけ距離が開いているということ。
 距離が詰まれば、奏も躱せなくなる。
 だから、そうなる前に奏は次の手を打つ。

「……エンジェルハート」

〈はい。マスター〉

 愛機のエンジェルハートから、いくつもの魔力結晶を取り出す。同時に、エンジェルハートを二刀の形態にする。
 この魔力結晶は優輝が創りだしたものではなく、奏が作ったものだ。
 そのため、その結晶の魔力は奏にしか使えない。
 しかし、今の状況ではそれだけで十分だった。

「(限界を、超える……!)」

〈“重奏”開始……!〉

   ―――“Delay(ディレイ)-Solo(ソロ)-”

 加速する。
 普通では躱しきれなかった矢を、躱す。

「ッ……!」

   ―――“Delay(ディレイ)-Duet(デュエット)-”
   ―――“弓技・双竜撃ち-真髄-”

 さらに、加速する。
 二連続で襲ってくる矢を、ジグザグに動く事で回避する。

「(来る……!)」

   ―――“風車-真髄-”

 そこへ、霊術の射程範囲内に入ったのか、風の刃が飛んでくる。
 大きく迂回するように避け、再度接近を試みる。

「ッ……!」

 その瞬間、守護者が動き出した。
 遠距離で対応するべきではないと判断したのか、猛烈な速度で間合いを詰めてくる。

「(ガードスキル……!)」

   ―――“Distortion(ディストーション)

 それに気づいた奏は、ガードスキルの一つを使い、バリアを張る。
 尤も、それでは防ぎきれないだろうということも分かっている。気休めでしかない。

「(ハーモニクスはむしろ危険。ダメージが蓄積されたら、私が不利。……このまま行くしかない……!)」

 持続するディレイの効果で、矢をギリギリ躱す。
 直後、目の前に霊術が襲い来る。
 広範囲且つ、タイミング的にも回避が間に合わない。

「(相殺は……ギリギリ!!)」

   ―――“火焔旋風-真髄-”
   ―――“Fortissimo(フォルティッシモ)

「っ、ぁあああああ!!」

 全力のアタックスキルによる砲撃魔法を放つ。
 貫通力を高める事により、霊術の焔に穴を開ける。
 その穴へ、即座にディレイの効果を利用して飛び込む。

   ―――“Delay(ディレイ)-Trio(トリオ)-”

「(ここからが、本番ね……!)」

 さらに、加速する。
 同時に、霊術を通り抜けてきた所を狙い撃ちするように矢が放たれる。
 回避しきれずに腕を掠るが、構う暇もなく動き続ける。

「(魔力結晶はまだまだ大丈夫。でも、これほどの強さなんて……!)」

 わかっていた。優輝と司の二人がやられた時点で何となく予想はできていた。
 それでもなお予想以上だと思える守護者の強さに、奏は戦慄を隠せない。

「(……未だに、接敵できていないのに、ここまで命の危険を感じる……!)」

 ……なぜなら、未だに守護者と相まみえていない。
 霊力と瘴気による特徴的な気配から、居場所はわかっていた。
 しかし、“近くにいる”ということがわかるだけで、姿もまだ見えていなかった。
 だというのに、遠距離からの狙撃だけで奏はピンチと紙一重だった。

「(……見えた!)」

   ―――“Delay(ディレイ)-Quartet(カルテット)-”

     ギィイイイイイン!!!

「ッ!?くぅぅっ……!?」

 さらに加速すると同時に、守護者を視認する。
 ……刹那、その加速度を上回る速度で守護者は刀を振るい、奏を二刀の防御の上から吹き飛ばした。
 地面に踏ん張り、吹き飛ばされた勢いを殺しながらも、その速度と攻撃の重さに戦慄する。

   ―――“Delay(ディレイ)-Quintet(クインテット)-”

「(嘘……!?)」

 さらに加速する。守護者はその速度に追いつく。
 残像が見える程の速度へと、守護者は的確に刀を振るう。

「(速すぎる……!)」

 “ありえない”と奏は思う。
 だが、その一方で優輝達を倒した事から、それもあり得ると思ってしまう。

「穿て……」

「ッ……!」

   ―――“Delay(ディレイ)-Sextet(セクステット)-”

 ディレイを利用して、一度間合いを離そうとする。
 しかし、瘴気が蠢き、奏を穿たんと触手となって襲い来る。
 さらに加速することで、何とかそれを躱すが……。

「しまっ……!」

     ギギィイイイイイン!!

「っぁ……!!」

 躱した所を狙い撃つように、刀が振るわれた。
 だが、仮にも加速は六段階目。
 咄嗟に二刀で防御することはできた。
 尤も、その上から吹き飛ばされ、木々に叩きつけられてしまったが。

「ッ……!」

〈マスター!来ます!〉

「くっ!!」

   ―――“Delay(ディレイ)-Septet(セプテット)-”
   ―――“弓技・閃矢-真髄-”

 痛みを堪え、さらに加速する。
 同時にその場を飛び退き、飛んできた矢を躱す。

「ッ……!」

〈“Jump(ジャンプ)”〉

 直後に飛んできた霊術と、守護者自身による刀の攻撃を、転移で躱す。
 そのまま、奏は守護者の背後上空を取り……。

「舞え……!」

〈“Angel feather(エンジェルフェザー)”〉

 羽を散らすように、魔力弾をばらまく。
 このままではいくら避けたところで、防戦一方なだけだと判断した故の、牽制。
 当然、奏は今ので効くとは微塵も思っていない。

「(他の皆は……まだ、ね)」

 妖の防衛自体は、紫陽がやっているおかげで、戦力は足りている。
 しかし、“どう動くべきか”を決めかねていた。
 付け加えれば、守護者のあまりの強さに体感時間が狂っており、奏が思っているほどに時間はあまり進んでいないのもあった。

「ッ!」

 再び矢が飛んでくる。
 加速度を保ちつつ、ギリギリでそれを躱す。

「くっ……!」

 さらに追撃の如く放たれる瘴気の触手を避ける。
 だが、それを避けていては退路が断たれてしまう。

   ―――“紅焔-真髄-”

「ッッ……!」

〈“Jump(ジャンプ)”〉

 そこへ放たれる焔の霊術。
 奏は咄嗟に転移魔法でそれを避け……。

   ―――“Delay(ディレイ)-Octet(オクテット)-”

「はぁっ!!」

 同時に、さらに加速する。
 転移先は守護者の背後。
 タイミング的にも絶好。初見殺しの必殺とも言える一撃。
 事実、守護者も不意を突かれており、その一撃は刀で防げなかった。

 ……“刀”では。

     キィイイイイイン!!

「ッ……!?障壁……!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 事前に仕掛けられていたであろう、障壁が展開される。
 奏が振るった二振りの刀は、その障壁にあっさりと阻まれてしまった。

「くっ……!」

 同様する暇はなかった。
 即座にその場から離脱。一気に間合いを取る。
 次々と、寸前までいた場所に、守護者の攻撃が突き刺さる。
 
「(まだ追いつかれる……!だったらもう……限界を走り続けるしかない!)」

   ―――“Delay(ディレイ)-Nonet(ノネット)-”
   ―――“Delay(ディレイ)-Dectet(デクテット)-”

 加速し、加速する。
 音を置き去りにし、その場に残像を残し、奏は神速で動き続ける。

「ッ……!ぁあああっ!!」

     ギギギギギギギギギギギギギィイイン!!

 限界の速度且つ、限界の力を振り絞り、守護者の二刀を凌ぎ切る。
 常に全力の出力で戦っているため、何とか吹き飛ばされずに済む。

「(早い、鋭い、重い……!優輝さんと違って、反撃に重点を置いていない分、私自身が攻めあぐねている……!)」

 流れるような太刀筋は、どこか優輝に似た太刀筋だった。
 真正面から防ぐ訳ではなく、軌道をずらすことで受け流す動き。
 だが、導王流と違って防御よりも攻撃に主体を置いていた。
 攻撃の箇所をずらす事で、導王流とやりあえた奏からすれば、攻撃は通しやすい。
 ……が、それは速度が拮抗している状態から加速できた場合だけだ。
 加速を重ねた状態で何とか拮抗している上に、守護者の一撃一撃をまともに食らう訳にはいかない奏にとって、攻撃の箇所をずらす暇などなかった。
 “攻撃は最大の防御”という場合があるが、それと似たような状況だった。

「ッ……!」

   ―――“Angel feather(エンジェルフェザー)

「シッ……!」

   ―――“戦技・強突”

 魔力弾を目晦ましにし、背後に回って強烈な一突きを放つ。

     ギィイイイン!!

「(通ら、ない……!)」

 ……が、それはまたもや障壁に阻まれる。
 奏の力では、守護者の障壁を破れなかった。

「ッ……!」

     ギギギギィイン!!ギギギィイン!!

 すぐさま体勢を立て直し、守護者の連撃を凌ぐ。
 間合いを離し、霊術と瘴気を躱し、また刀を凌ぐ。

     ギィイン!!

「しまっ……!?」

 もちろん、そんな攻防では、長く続く訳がなかった。
 奏の二刀が大きく弾かれ、その隙に守護者が奏の懐に入る。
 そして、霊力を伴った蹴りが奏の体に突き刺さった。

「が、ぁ………」

 声も出せずに、奏は吹き飛ばされる。
 木々に当たり、そのまま地面に転がった。

「ぁ、ぐっ……!」

〈マスター!〉

「(体が動かない……!ダメ、このままじゃ……!)」

 ディレイの効果は今ので消えてしまった。
 それでも、奏は力を振り絞ってその場から飛び……。

「っぁ!?」

 飛んできた矢の余波で、再び地面に転がされる。
 すぐさま動いたおかげで直撃はしながったが、動いていなければ矢に貫かれていた。

「ぁ……」

 そして、守護者はその先を想定していた。
 奏の視界に、守護者が刀を振りかぶるのが見えた。
 それを見た奏の瞳に、絶望が宿る事は……なかった。

     ギィイイイン!!

「させ、ない……!」

「なのは……!」

 なぜなら、守護者の背後から、なのはが斬りかかっていたからだ。
 なのはの瞳には不屈の炎が宿り、そして御神の剣士としての覚悟も見えた。

     ギギィイン!

「くっ……!」

「シッ……!」

「ッ!」

 即座に守護者はなのはの刀……レイジングハートを弾く。
 そのまま追撃を放とうとするのを、奏が攻撃する事で阻止する。

「(間に、合った……)」

 だが、それが限界だった。
 ダメージが響き、奏はその場に倒れこむ。
 しかし、同時に理解していた。
 なのはが来たということは、時間稼ぎが間に合ったのだと。













 
 

 
後書き
重奏…優輝の偽物との戦闘で使った爆発的な加速を、改めて術式として組み直し、魔法とした際の起動ワード。〇重奏と段階的に加速する事ができる。段階を飛ばす事も可能だが、その際は体への負担が倍増する。

弓技・双竜撃ち…突属性の二回攻撃。基本に近い技なので、大した威力はないが、真髄となれば回避は難しい。

Distortion(ディストーション)…Angel Beats!に登場するガードスキルの一つ。体にバリアのようなものを張り、攻撃を弾く。

Jump(ジャンプ)…奏が扱う転移魔法。至近距離であればディレイがあるが、それ以外の距離や次元を跨ぐ転移の場合はこちらを使う。

戦技・強突…突属性の攻撃。霊力を纏い、強力な一突きを放つ。本来であれば槍で放つ技だが、突き攻撃であれば他の武器でも使える。


土御門家が何代目なのかなどは、安倍氏から派生してから適当に数えています。まぁ、設定としては大した事ではないので気にしないでください。
今更ですが、神夜の十二の試練は、神夜の三日分ほどの魔力があれば、命のストックを一つ回復できます。

この小説では、かくりよの門よりも未来設定のひねもす式姫や、式姫転遊記の設定はまず使いません。一応設定上はそれらの作品での出来事は起きた事に今のところなっていますが、後々変更する可能性もあります。予めご了承ください。 
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