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上を向いて歩こう

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第一章

               上を向いて歩こう
 何でもない歌だった、私がまだ高校生の時の曲だ。
 ラジオでもその時何か急にあちこちの家に入って来ていたテレビでもその音楽が流れていた、当時高校生だった私はその曲を聴いていつも思った。
「人間確かに悲しい時ってあるよな」
「ああ、それはな」
「その時はあるさ」
 こう友人達にも言った。
「どうしても。それでな」
「泣きたくなる時もか」
「あるさ」
 こうも言った。
「やっぱり。けれどあの曲はいつも聴いてるから」
「それでか」
「もうな」
 本当にいつも聴いてるからだ。
「俯いて歩くことはなくても」
「それでもか」
「そんなに無理をしてもな」
 泣きたいなら泣けばいい、誰が言った言葉だったか。この時の私はこうしたある意味で思いきりのいい言葉についても言及した。
「一人なら泣いてもいいだろ」
「男なら泣くなとも言うけれどな」
「人に見せなかったらいいだろ」
 これがこの時の私の考えだった。
「それだったら」
「無理して上を向かなくてもか」
「ああ、そう思うけれどどうだろうな」
「それはわからないな、しかしな」
「しかし?」
「あの歌はそう言ってるだろ」
 悲しいことがあって泣いてそれでその涙が零れ落ちない様にだ、一体何が悲しいのかはわからないけれど。
「それだったらな」
「そうした歌だってことか」
「そういうことでな」
「割り切って聴けばいいんじゃないか?」
「そんなものか」
「ああ、まあそういうものでな」
「そんなものか。しかし本当に最近な」
 もうラジオでもテレビでもだ、何か最近あちこちにラジオもテレビもあってあちこちであの曲が流れる。ついこの間までテレビなんてそれこそとんでもなく高くて金持ちでもないと買えない様な代物だったのに。
「あの曲やたら聴くな」
「一日一回位か?」
「もっとだよ。音楽自体聴く機会がな」
「そっちは増えたな、確かに」
「だからな」
 それでだった、本当に。
「あの曲もなんだよ」
「それはそうだな」
「しかし流れ過ぎだろ。今一番売れてる曲ってのはこれからああなるのか」
「これからはそうかもな」
 今話している友人も否定しなかった、高校帰りの列車の中で。こっちも何か急に変わってきた感じがする。
「もうあちこちでどんどん流れてな」
「一日何度も聴くか」
「そうなっていくかもな」
「世の中本当に変わったな」
「そうだな、俺達が小学生の頃と比べてもな」
「全然違うな」
 その象徴が本当に急に普及してきたテレビだった、勿論当時の私の家にもあった。両親が奮発して買った介があったと喜んでいて私も喜んで観た、私以上に当時小学生の妹がそうしていた。
 その妹が家に帰ったらその曲を歌っていて思わずこう言った。
「おい、またその曲歌ってるのか」
「駄目?」
「駄目じゃないけれどな」
 それでもとだ、私は妹に言った。
「その歌一日に何度も聴いてるからな」
「もう飽きたの?」
「そうなんだよ」
 畳のちゃぶ台のある部屋で歌っていた妹に言った、丁度部屋に入ってきたところらしく立っている。
「もうな」
「お兄ちゃんそんなにこの曲聴いてるの」
「それこそ街に出たらあちこちで聴けるよ」
 商店街を歩いているだけでだ、何かその商店街も最近色々なものが売っている様になったと思う。 
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