納戸婆
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第三章
ダイアナはお店の中の納戸を見てだ、恵子に尋ねた。
「マスター、いいですか?」
「あっ、恵子でいいわよ」
そこはとだ、恵子はダイアナに断った。
「マスターって店長さんってことだけれど」
「その呼び方では」
「大層だからね」
そう呼ばれると、というのだ。
「だからね」
「いいですか」
「ええ、だから恵子でいいわ」
「ではミズ恵子ですか」
「さん付けにしてね」
「日本風にですね」
「それでお願いね」
日本にいるからそうして欲しいというのだ。
「いいかしら」
「わかりました。では恵子さん」
ダイアナは恵子にあらためて言った。
「あのお店の上の方にある小さな戸棚みたいなのは何ですか?」
「あれは納戸よ」
「納戸?」
「大阪とか日本の西の方では神様を祀ったりする場所なのよ」
「というと神棚ですか」
「そうしものよ」
そう考えていいというのだ。
「要するにね」
「そうですか」
「そう、それでこのお店でもね」
「神様を祀っていますか」
「ええ、あと何でもね」
恵子はダイアナに納戸の話をさらにした。
「妖怪もいるとか」
「妖怪ですか」
「ええと、ダイアナさんイギリス生まれだから」
恵子は彼女のその生まれのことから話した。
「妖精とかの話も多いわよね」
「幽霊の話もかなり」
ダイアナは恵子にこう答えた。
「多いです」
「そうしたお話も多い国よね」
「もう国全体で、です」
「妖精や幽霊のお話が多かったわね」
「はい、それで妖怪は日本の」
「妖精みたいなものよ」
まさにというのだ。
「強いて言うならね」
「そうなんですね」
「日本文学でも出て来るでしょ」
「はい、何か一杯出ていました」
ダイアナもこう答えた。
「小泉八雲を読んだことがありますが」
「あの人の作品は妖怪や幽霊ばかりよね」
「怪談ですね」
英語風に片仮名ではなく漢字読みであった。
「あの作品ではそうですね」
「そこで妖精みたいって思ったでしょ」
「妖怪のことを読んで」
「それが日本の妖怪なのよ」
「読んでいて何かと思いましたが」
だがここでだ、ダイアナはわかったのだった。頭の中で別々になっていたものが一つになった感じだった。
「そういうことでしたか」
「そうなのよ」
「そうですか、ではあの納戸を開けると」
ダイアナはその納戸を見つつさらに言った。
「妖怪が出てきますか」
「まさか。このお店にはいないでしょ」
「いえ、いるかも知れないですよ」
普段とは違った興味津々の楽し気な笑みを浮かべてだ、ダイアナは恵子に言った。
「ちょっと開けてみますね」
「えっ、本当にそうするの?」
「妖怪が本当に出たら」
そうなればとだ、ダイアナは楽し気に笑ったまま恵子に話した。
「面白いじゃないですか」
「だからっていうの」
「はい、ちょっと開けてみましょう」
「怖くないの?」
動かさないのならいいがだ、こう聞いた恵子だった。
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