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とある3年4組の卑怯者

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146 予行演習(リハーサル)

 
前書き
 藤木は理不尽に瓜原に詰め寄った住吉重彦や美葡や黄花を挑発した進藤幸子との遭遇に波乱の予感を感じる。そして翌日、大会のリハーサルが始まった!! 

 
 3年4組の教室では山根と永沢が藤木について話していた。
「藤木君、どんな演技を見せてくれるか楽しみだね」
「さあ、わからないよ。藤木君にそんな事できるのかな?もしかして怖くて逃げるかもしれないよ」
「永沢君はいつもそう酷い事言うね。君は何しに行くんだい?」
「それはもちろん僕は家が火事になっただろ?新しい家を建てるために他にお金を使う余裕がないから、ただ旅行のつもりさ」
「永沢君・・・。君は本当に友達がいがないね」
「僕が藤木君と友達だって?そんな冗談はよしてくれよ・・・」
 その会話の様子をまる子とたまえ、とし子は聞いていた。
「まったく酷いねえ、永沢は!」
「ホント、藤木に失礼だよ!」
「そうだ、とし子ちゃん、お土産楽しみにしててね!いいもの探すよ!!」
「うん、ありがとう。まるちゃん、たまちゃん」
 とし子は家族に出かける用事が既に入っていたため藤木の応援には行けないのであった。
「それにしても盛岡ってミヤザワケンジとかいう人の記念館とかあるってウチのお婆ちゃんが行ってたな~。あ~楽しみだなあ~」
「ま、まるちゃん・・・」
 たまえはまる子も永沢同様、藤木の応援よりも単なる旅行が目的ではないのかと疑っていた。一方、小杉が満面の笑みで叫んでいた。
「あ~、楽しみだぜ~!!」
 その小杉の喜ぶ様子を大野と杉山が気になり、聞いてみる事にした。
「小杉。何がそんなに楽しみなんだ?」
「ああ、藤木がいる盛岡についてだけど、長山から聞いたらあそこは麺が有名なんだってよ!!冷麵にわんこそば、じゃじゃ麵、ああ~食いてえぜ!!」
(なんだ、また食い物か・・・)
 大野と杉山は聞いた事を後悔したくなった。

 大会のリハーサルは続く。そして少しして、今度は四国大会で金賞を獲ったという、藤木と美葡の会話に邪魔をしてきた大串啓太という男子の番が来た。
(あの、やけに人の事に口出ししてきた大串君とかいう奴だ!)
 藤木はあんなふざけている奴だから多分演技は大した事ないだろうと思っていた。しかし、その予想は間違いだった。いざ、彼の練習が始まると、足換えとキャメルスピンのコンボが決まった。しかも、サーキュラーステップを決めた。
(なんだ、あの、スピンやステップの凄さは!!)
 藤木は大串に驚愕した。表向きではふざけてはいても、四国大会で金賞を獲っただけの実力は本物だと思い、大串こそ強敵の一人ではないかと危機感を感じた。やがて、瓜原の番が来た。
「ほな行ってくる」
「うん、頑張ってね」
 瓜原の演技が始まった。彼もまた片山から才能を認められた通り、素晴らしい演技だった。特に昨日の練習でも見せたとても高いジャンプは東京タワーの天辺まで届きそうな勢いのあるものだった。
(流石瓜原君、このジャンプは絶対に評価が高くつくかもしれないな・・・。でも僕も絶対に負けていられないぞ!ここで一番、最悪の場合でも入賞だ。そうでもないと世界大会へ行けないからね!!)
 瓜原の練習が終了し、自分の番が訪れた。
「よし、僕の番だ!!」
 藤木はリンクに向かった。これまでの練習により、藤木は演技の構成は組み立てていたので、あとはそれを失敗もなくこなせる事が気がかりであった。
(よし、始めるぞ!!)
 藤木が滑り出す。まずスリーターンをしていく。そしてダブルトウループ、トリプルサルコウを行った。これは飛騨高山へ旅行に行った時、リリィに初めてスケート姿の自分を見せ、その場にいた花輪やマーク、そして花輪の従姉妹のルリ子を魅了させ、初めて片山と会った時の自分の喜びを表した。そしてステップシークエンスを決め、さらにシングルのアクセル、ルッツを行った。これは不幸の手紙で皆から嫌われた悲劇のつもりだった。そしてフライングコンビネーションスピンを行った。これは不幸の手紙事件で自分が干された後、みどりに堀と出会い、彼女達から救いの手を差し伸べられ、さらに片山と再び出会い、スケートの大会に出る動機となった時を表現していた。そして次に披露するのはトリプルフリップ、トリプルルッツ、そしてトリプルループと三回転のオンパレードだ。この勢いは学校でいじめを受けた堀や校内テロで重傷を負った笹山が自分を応援してくれるその期待に応えたいという気持ちを表現していた。そして、アップライトスピンで皆が応援してくれる気持ちに感謝を表す事を示した。そして締めであり、最大の必殺技であるトリプルアクセルからのスパイラル体制での着地を示した。自分が発明したこの技が最大の武器として地区大会、そして中部大会で競り合った和島俊に勝り、金賞を獲得した事を表現する為に。その藤木の演技は全ての皆を魅了させた。その場にいた他の出場者達も、観客から見ている出場者の保護者達も、そして片山も。
(藤木茂・・・。初めて会った時も随分と成長しているな・・・。私が思っている以上に・・・)
 藤木はリンクを出た。その時、瓜原が現れた。
「藤木君、お疲れさん。わいは驚いたで。君のその演技に。わいらは本当に一緒に戦うライバルになるかもな」
「うん、お互い世界大会に行けるよう頑張ろうか」
「そうやな・・・。だが、わいが君よりいい評価を受けて見せるで!」
「僕だって!!」
 そして男子の部で最後の出場者の練習を見ることにした。
「東北大会の金賞者、豆尾亮吾(まめおりょうご)か・・・。どんな演技何だろう?」
「さあ、よう見ると、山形県の五年生とか・・・」
 藤木と瓜原はその豆尾亮吾という男子の演技を見る事にした。豆尾が滑り出す。その彼の神経に藤木も瓜原も息をのんだ。
 豆尾はダブルフリップやトリプルトウループを鮮やかに決め、さらにはステップも軽快にこなし、さらには後半のジャンプで4回転ルッツを行ったのだ。そしてスピンもまた佐野のような、いやそれ以上ともいえる高速回転で15回転は超えていた。
「な・・・!す、凄い・・・!!」
 二人は驚くのみだった。片山も豆尾の存在には今まで目に付けていなかったようで、彼の演技に心を奪われてしまった。
(す、凄い、私の予想を覆す凄さだ・・・。藤木と瓜原はあの豆尾亮吾という少年に勝てるのだろうか・・・?それとも豆尾が二人を差し置いて金賞を獲るのではないか?)
 片山は藤木と瓜原が金賞争いをするものだと予想していた。しかし、豆尾の存在はその二人を超えるものかもしれない。

 3年4組のクラスメイト達は羽田空港の飛行場に到着した。そこには花輪の自家用飛行機が飛行場に用意されてあった。
「それじゃあeverbody、乗ってくれ給え」
 皆は花輪家の自家用機に乗り込んだ。そしてパイロットが離陸の準備をする。
「藤木頑張ってるかな」
「きっと頑張ってるよ。藤木の特技なんだから」
 まる子とたまえはそのような会話をしていた。リリィは藤木が目標を達成のために賞を獲れるよう祈っていた。
(藤木君、もうすぐそっちに行くわ・・・)
 リリィは彼女自身は花輪が好きではあるのだが、スケートをする藤木の姿にも少し惹かれていたのだった。初めてスケートをする藤木の姿を見た時や、中部大会での藤木の演技に陶然とした時を経て・・・。 
 

 
後書き
次回:「意地」
 女子の部のリハーサルが始まった。美葡と黄花は二人を挑発した進藤幸子の演技を見る。そして藤木を応援するために花輪家の飛行機に搭乗した3年4組の皆は盛岡に到着する・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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