真田十勇士
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巻ノ百三十七 若武者の生き様その三
香も焚いていた、その夜幸村は木村のところを訪れて言った。
「では明日は」
「はい、長曾我部殿と共にです」
「出陣されますか」
「全ての用意は整えました」
木村は幸村に微笑んで答えた。
「既に」
「ですな、身を清められ」
風呂に入ったのは幸村が見てもわかった、そしてもう一つのことも。
「香もですな」
「焚きました」
「では」
「明日は思う存分戦って参りまする」
「それでは」
「はい、それがしの働きお聞き下さい」
木村は悔いのない澄んだ笑みで応えた。
「そして覚えておいて下さい」
「その様に」
幸村も確かな声で応えた。
「させて頂きます、木村殿のことは」
「忘れないとですか」
「そうさせて頂きます」
「そうして頂けますか」
「それがしこの度の戦で共に戦った御仁のことは忘れません」
一人もという返事だった。
「何があろうとも」
「真田殿程の方に覚えて頂けるとは」
「そうして頂けます」
「ではお願いがあるのですが」
「若しもの時はですな」
「それがしがことを果たせなければ」
家康と秀忠の首を取れなかったその時はというのだ。
「その後は」
「承知しました」
これが幸村の返事だった。
「そうさせて頂きます」
「それでもう思い残すことはあり申さぬ」
「左様ですか」
「真田殿そして後藤殿多くの方々とお会い出来て」
それでというのだった。
「それがし果報者です」
「よき者と出会えることは」
「はい、まさに」
それこそという言葉だった。
「そのことがよくわかりました、この度の戦では」
「ですな、それはそれがしも思いまする」
「真田殿もですか」
「これまで生きてきて多くの素晴らしき方々と出会い」
「家臣もですな」
「あの者達にも会えました」
十勇士達のことは笑って話せた。
「これはまことにです」
「果報ですな」
「あの者達に会えて何と幸せか」
「それはそれがしもです、この度の戦で」
まだ若い、しかしその短い生でというのだ。
「多くの素晴らしき方と出会えて」
「よかったのですな」
「何も悔いはありませぬ」
「そうですか、では」
「若しもの時はお任せします」
是非にと言ってだ、そうしてだった。
木村は幸村そして後で来た後藤殿と共に水盃を交えた、そうしてから真田は後藤と共に木村の前を後にしたが。
後藤はその時共に夜道を歩く幸村に言った。
「それがしもですぞ」
「木村殿のことはですな」
「忘れ申さぬ」
「そうして頂けますか」
「何があろうとも、そしてそれがしもまた」
「木村殿の様にですな」
「戦いまするぞ」
こう幸村に言うのだった。
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