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外伝・少年少女の戦極時代

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斬月編・バロン編リメイク
  流行ってます?


 碧沙はどうにか「室井咲」のフリを通して室井家での夜を乗り切った。
 朝の登校は、チームメイトが総出で迎えに来てくれたので、仮病を使って学校を休むというテンプレートな策に訴えずにはすんだ。

 放課後もまた同じく。リトルスターマインの仲間が教室に迎えに来てくれて、碧沙は無事下校してフリーステージに向かっていた。

 例のオールスターステージ以来、ビートライダーズはチームの垣根を超えて踊る大きな輪となった。
 今日のステージも、チームバロン×チームリトルスターマインのコラボステージだ。

 道すがら、碧沙はゆうべ明らかになった新たな問題を仲間に打ち明けた。

「電話に出れない、かあ」

 ナッツが難しい顔で腕組みする。

 現在、碧沙が持つのは咲のスマートホンだ。咲もまた碧沙のスマートホンを持っている。
 着信があっても、プライバシーがあるから電話もメールも下手につつけない。着信履歴を見ることもできない。
 実はゆうべ、結構長く電話が鳴ったのだが、咲ではない自分が出ては、相手によっては咲によくない誤解を与えるかもしれないと思って出られなかった。今は碧沙が「室井咲」なのだ。

「しゃーない。今日のステージで咲が合流しだい、スマホとりかえっこしよ」
「でも、メールやSNSはいいとして、電話はどうするの? 声ちがうよ?」
「風邪ひいたとか言ってごまかすしかねえんじゃね?」
「……押し通せ」

 確かにモン太やチューやんの言うようなやり方しかないのが現実だ。

 ふと、碧沙の視界を、ベンチで寝ている男が掠めた。
 その男が駆紋戒斗でなければ、碧沙は迷わず無視して進んでいただろう。

「ヘキサ?」
「ごめんね。みんなは先に行ってて」

 4人の少年少女は顔を見合わせたが、最終的には折れて、先にステージに向かってくれた。

 さて、と碧沙はベンチで寝る戒斗を顧みた。
 薄藍色の地に唐草模様のスーツは一目で高級品だと分かった。いつもの駆紋戒斗は赤と黒(トランプツートン)のコスチュームを着ているのに。

「駆紋さん。駆紋さんっ」

 声を張ると、戒斗は重たげに瞼を開いてくれた。

「こんなとこで寝てたら風邪ひきますよ? 3月とはいえまだまだ寒いんですから」

 戒斗は頭を押さえつつベンチの上に体を起こした。

「……あいつ、絶対許さん」

 怒髪冠を衝くとは今の戒斗のことを言うのだろう。インベスとの戦いでさえこんな表情を見たことは――あるわけがない。そもそも戦闘中はフェイスマスクで顔が隠れている。

「お前、今日はやけにお上品に話すんだな。相方の真似か?」
「相方って、もしかして咲?」
「は?」
「――あ!」

 しまった。今の文脈では自分が咲ではないと言ったも同然だ。
 碧沙は口を手で押さえたが、一度出した言葉は引っ込められない。

「――お前、室井じゃないな」

 ばれた。完膚なきまでに完璧に。相手が駆紋戒斗であったのがせめてもの救いか。

「はい。わたしは咲じゃありません。あの、おどろかないで聞いてくださいね。ほんとのことしか言いませんから。わたし、ヘキサです、呉島碧沙なんです」
「……冗談にしてはタチが悪い」
「ですからっ。ほんとのことしか言わないって言ったじゃないですか」

 値踏みとも睨みともつかない戒斗の視線を、碧沙は内心怯えつつも真っ向から受け止めた。

「……わかった。とりあえずお前は室井じゃない。これは認める。お前が本当にヘキサかどうかはこれから見極める」
「! はい! 信じてくれてありがとうございます!」

 戒斗はベンチから立ち上がり、車道に出る道を歩き始めた。

 カツカツ。てふてふ。

「おい――何で付いて来るんだ」
「え? 駆紋さん一人だとあぶなっかしいからですけど」

 戒斗のことだ。どこへ行くにせよ、トラブルを起こしてザックやペコを心配させるに決まっている。ここは碧沙が戒斗を監督すべきだ。

「はあ……勝手にしろ」
「はい。勝手にします」

 車道に出たので、脇の街路を碧沙は戒斗と並んで歩いた。

「ところで今日はどうされたんです? そのカッコ。いつものコスチュームじゃないんですか?」
「盗られた。今から取り返しに行く」

 言葉少なな戒斗から、持ち前の粘り強さで聞き出したところによると――

 戒斗は少し前に、何と彼と全く同じ顔をした男と出会い、催眠スプレーを嗅がされて気を失っている最中にチームユニフォームを盗られて、その男のスーツを着せられていた――と。

「それってリッパに犯罪ですよね……それにしても、駆紋さんにそんなことして、その人、こわいもの知らずってゆーかダイタンってゆーか」

 自分と咲といい、戒斗とそのそっくりさんといい、この冬は入れ替わりが流行っているのだろうか?

「――――」
「あの、駆紋さん? わたしの顔になにか付いてます?」
「室井の顔で敬語なのも『さん』付けで呼ばれるのも異様にしっくり来ないと思ってな」
「あー、わかります。咲、男の人を『さん』とか『ちゃん』で呼ばないのがマイルールですから」

 ――その、他人からすれば拘り所でもなんでもないそれが、室井咲の固い自戒によるものだと、碧沙はよく理解していた。

 キュキキィ!

 すぐ横の車道で、碧沙にとっては見慣れた黒くて長い車が停まった。
 黒い車から降りてきたのは、黒服の男が二人。

「お坊ちゃまっ」

 黒服たちは戒斗に対してそう呼びかけた。お坊ちゃま。何とも駆紋戒斗に似合わない形容だ。

「アルフレッド様がお待ちです。ホテルにお戻りください」

 黒服が戒斗の腕を掴んだ。
 これに対して当然、身に覚えがないであろう戒斗は抵抗し、黒服たち腕を振り解いた。

 戒斗は碧沙(体は咲)の小さな手を掴んで再び歩き出した。歩幅が大きいため、手を引かれる碧沙は小走りにならざるをえない。

(そういえば、兄さんたちとモン太とチューやん以外の男の人と手をつなぐのって、はじめてかも)

 暢気に思いを致した直後――黒服たちが追って来て、戒斗の背中にスタンガンを押しつけた。

「駆紋さん!?」

 碧沙は倒れた戒斗に取り縋った。揺さぶっても戒斗は目覚めない。

「なにするんですか! ――きゃっ」

 黒服の男たちの片方が、背負った水色のランドセルを掴んで碧沙を引きずって行き、黒い車に碧沙を投げ込んだ。
 混乱する碧沙に続いて、気絶した戒斗が座席に乗せられた。

 車が発進する。
 もう碧沙にはどうすることもできなかった。 
 

 
後書き
この冬の沢芽市のトレンド、入れ替わり!
あなたも友達と頭をぶつけるか、そっくりさんを探してみては?

今さらですが斬月編とバロン編が微妙にクロスしてます。 
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