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外伝・少年少女の戦極時代

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デューク&ナックル編
  黒い悟りの根元にて ③


 ナックルとブラックバロンがそれぞれに動いた。

 まずブラックバロンが一直線に屋上の縁へ駆けつけ、バナスピアの刺突で咲からセイヴァーを遠ざけた。
 今度はナックルが、遠ざけたセイヴァーが咲のほうへ戻らないよう、(いが)(ぐり)をモチーフにしたアームズウェポン、マロンボンバーでセイヴァーに打ち込み始めた。

(ほんの数日前には死闘をくり広げた間柄だと聞いたのに。何て息の合った動きだ)

 呆けてばかりもいられない。斬月は痛む体に鞭打って起き上がった。そして、ナックルへ加勢に行くブラックバロンと入れ替わりに屋上の縁へ走った。

「お兄さん……っ」
『手をっ』

 咲が金網に掴まったほうと逆の手を持ち上げた。斬月は金網に手を突きながら咲の手を握り、力一杯、咲の体を引き上げようとした。
 これで咲が戦線復帰すれば4対1だ。いくら供界といえどもそうなれば――


 バキ……ッ


 斬月が支えとして掴まっていたほうの金網が、壊れた。

 咲の行動は早かった。
 それ以上の重みがかかって斬月まで落ちてしまわないよう、咲は自ら斬月の手を、ふりほどいた。
 金網の亀裂が広がり、咲が掴まっていた金網は完全に剥がれ落ちた。


 ――リフレインする。空へ身を投げる、お仕着せの小さな妹。
 伸ばした手はすり抜けて。あの日のように、落ちる少女を掬い上げる天使は、ここにはいないのに。


『室井ぃ!!』





 ビルから落下しながら、咲は冷静だった。

 ――咲には空翔けるための翼がある。小学生時代にフェムシンムたちがジュグリョンデョと呼んだ羽根がある。

 ヒマワリの錠前を取り出して、バックルにセット、カットした。

「変身――っ」
《 カモン  ヒマワリアームズ  Take off 》


 ――正直に言って、供界の言っていることはちっとも理解できない。できないが。

 戦いの輪廻から解放されるべき。なるほど、それはその通りだ。
 戦いを通じて得るものはない。
 得るのではなく、見失っていたものを再び見つけるのだ。
 答えも結論も、最初からそこにある。――ただ、気づけなくなっているだけで。
 世界はそんなふうに出来ているから、途方もなく神様(かれ)の愛に満ちている。

(だから、人類は見捨てられてなんかない)





 (くう)を切る下からの勢いがあり、斬月は後ろへたたらを踏んだ。

 つられて夜空を見上げた斬月は、まず安心したが、次いで、また使わせてしまったという無力感に打ちのめされた。





『さっき泣いちゃったこと、悔しいけど、はずかしいなんて思わない』

 大輪の花が夜空に咲き誇る。
 その、ひたむきに太陽に向かう花の色をした翼に――

『泣いていいの。泣きながら進んでいいの。だって、絋太くんも戒斗くんも、そう言ったんだもん』

 狗道供界は、菩薩を見た。 
 

 
後書き
 最後の一文、初稿では「天使を見た」だったのですが、供界の価値観が仏教寄りっぽいので変えたというどうでもいい小ネタがあったりします。 
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