真田十勇士
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巻ノ百三十六 堺の南でその十三
その刺身を食いつつだ、幸村はまた言った。
「美味いのう」
「ですな」
「この魚も美味です」
「やはり大坂はよいですな」
「海の幸が絶品です」
「しかも水がいいので米もよく」
「酒も美味いです」
十勇士達も食いつつ応えた。
「上田とは違いますな」
「無論九度山とも」
「海の幸がふんだんにあり」
「しかも酒もよい」
「こんなにいい場所はありませぬ」
「天下一の美味処ですな」
「そうじゃ、場所もよいしのう」
大坂のそれもと言う幸村だった。
「都にも奈良にも近いな」
「はい、実に」
「それぞれの場所にすぐです」
「そして前の瀬戸内から西国のあちこちに行けます」
「何ともよい場所です」
「太閤様がここに城を築かれたのも道理です」
「全くじゃ、しかしな」
こうも言った幸村だった。
「そうした場所故にじゃ」
「幕府もですな」
「ここが欲しいのですな」
「大坂という地が」
「そうなのですな」
「大坂が欲しいのじゃ」
このこともわかっている幸村だった。
「幕府はな」
「大坂自体がですな」
「実は豊臣家はどうでもいい」
「潰さずともよい」
「そう考えているのですな」
「そうじゃ、大坂を手にいれば幕府の天下は盤石のものになる」
豊かで西国全体に睨みを利かせられるこの地をというのだ。
「だからじゃ」
「これまでですな」
「幕府は大坂を手に入れようとしてきた」
「この度の様に戦をしてまで」
「そうですな」
「この戦は切支丹からはじまった」
茶々が領内での彼等の布教を許した、それが家康にしてはどうしても認められるものではなかったからだ。
「しかしな」
「大坂を手に入れる為なのもですな」
「それも事実ですな」
「この度の戦の訳は一つではない」
「そういうことですな」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「幕府は大坂が欲しい」
「この地を」
「それこそどうしても」
「それでの戦じゃ、幕府は大坂がどうしても欲しい」
それが家康の考えだというのだ。
「関ヶ原の前にもそうした動きがあったであろう」
「でしたな、徳川家の兵を多く入れたこともありました」
「西の丸に天守を築こうとしたことも」
「あの時は強引にもでしたな」
「大坂城に居座ろうとさえしていましたな」
「そうして城をご自身のものとされてじゃ」
当時の家康の考えもだ、幸村は述べた。
「大坂自体をな」
「乗っ取る」
「そうお考えでしたか」
「そして今もですな」
「大坂をご所望ですな」
「そうなのじゃ、それでの戦じゃ」
まさにというのだ。
「そしてこの魚も酒もな」
「これからは幕府がですか」
「味わうことになる」
「大坂のものは」
「そうなりますか」
「我等が負けるとな」
その時はというのだ。
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