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とある3年4組の卑怯者

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144 誓約

 
前書き
 スケートの全国大会開催の地、盛岡に到着した藤木。そこでスケートの練習の折りに、中部大会に出ていた吉岡肇、佐野武政、元オリンピック選手の片山次男と再会し、近畿大会の金賞者の瓜原かける、そして高山で藤木の姿を目撃したという古宮美鈴と出会う。そしてとある少女にも・・・。 

 
 藤木はショートヘアにヘアバンドを付けた少女に話しかけた。
「君がもしかして桂川美葡ちゃんかい!?」
「・・・え?そうだけど・・・」
 その少女は自分が桂川美葡だと否定はしなかった。なぜ自分の名を覚えているのかその少年に少し気味悪がった。
「僕は藤木。静岡から来た藤木茂って言うんだ。堀こずえさんの友達だよ」
「こずえちゃんの・・・!?」
 美葡は転校して言った己の旧友の知り合いだと分かると藤木に対する気味悪さはなくなった。それに地元・山梨県のスケート場で練習していた時に、堀と最も親しかった雪田みきえとの手紙を見せて貰った時、藤木の名を聞いたことがあった。
「じゃあ、貴方が中部大会で優勝した藤木君だったのね!改めて自己紹介するワ。私は桂川美葡です。堀こずえちゃんの転校前の学校の友達です。よろしくね」
「僕の方こそよろしく。会えて嬉しいよ」
 二人は握手した。藤木は美葡と手を触れ合う事でやや赤面した。
(美葡ちゃんも可愛いな・・・)
 藤木はそう思ったが、心変わりは許されないと思い、自制を心掛けることにした。
「ところで美葡ちゃんも僕の事を知ってるんだね。驚いたよ」
「ああ、こずえちゃんと親しい友達から来た手紙に藤木君の事が書いてあってね、名前はそこで知ったのよ」
「へえ」
「そうだ、藤木君のスケートの技術、凄いんだって?私にも見せてくれるかしら?」
「ああ、いいよ」
 藤木は本来の必殺技を隠しておきたかったのだが、美葡のためなら特別に見せてやろうと考えた。藤木は滑り出す。そしてトリプルアクセルからのスパイラル体制での着地を試行した。すこしよろけたが着地は成功した。
「凄いワ。スパイラルの姿勢で着地ってそんな事できるなんて、私もやった事ないワ」
「あはは、ありがとう。でも僕もこの技は地区大会前に発明したばかりで今でも失敗するけどね」
「ふうん、じゃあ、今度は私の技術見せてあげるワね!」
「うん」
 今度は美葡が滑り出し、藤木がそれを見る。彼女のツイズルでのターンからキャッチフットスピンを行った。ツイズルはスピンのように片足で回転しながら移動するものであるが、その移動の際に手と足を掴んでそのままスピンに入ったのだ。藤木は凄いと思う以外なかった。
「す、凄いよ、美葡ちゃん!!」
「えへ、ありがとう・・・」
 美葡もまた藤木に照れた。
「美葡ちゃんもきっと金賞獲れるよ」
「えへ、ありがとう・・・。藤木君も凄い技持ってるからきっと金賞獲れるワよ」
「うん、そうだね。一緒に世界大会に出られるといいね」
「うん、そうのつもりでいよう!!」
 藤木と美葡は互いに世界大会への出場を誓約した。
「ああ、そうだ、さっき君に話しかけていた子は?」
「ああ、西東京の黄花蜜代さんよ。関東大会で銀だったけど、私を超えるように練習してきたんだって」
「そうか、強敵だね」
「うん、でも黄花さんだけじゃなくて、皆そうよ。今までの大会よりも厳しくなると思うワ」
「そうだね・・・」
 その時、二人の横から声が聞こえた。
「ほう、大会が男女一緒だからって恋愛しちゃってんのかな~?」
 振り向いてみると一人の男子がいた。
「な、何だ、君は?」
「俺は四国大会で金賞を獲った大串啓太(おおぐしけいた)だよ~。お似合いだね~」
「う、うるさいな!そんな事どうでもいいだろ!!君も練習したらどうなんだ!?」
「ああ、するよ。そういうお前達も練習した方がいいんじゃないのかな~?」
「うるさいワね、あっち行きなさいよ!」
「そうだよ!変な勘違いはよしてくれよ!」
「おっほ~い」
「もう、藤木君、また後でね」
「う、うん」
 大串のせいで藤木と美葡は別れた。
「あ~、嫌われちゃったねえ~」
「うるさい!嫌われるも何も僕には他に好きな人がいるんだ!」
「え、えええ~!そうなんだ~」
 大串は驚いた。藤木は墓穴を掘ってしまい、その場でどうしようと思った。
(し、しまった。とにかくこいつから離れよう!)
「ぼ、僕は練習を始めるよ!!」
 藤木は大串から離れようと練習を再開した。
(まったく、何だよ、アイツは・・・)
 藤木は大串のしつこさに嫌になった。

 藤木は昼食は両親と共に付近の飲食店で食べる事にした。
「茂、お前色んな子と仲良くなってるようだな」
「う、見てたのかい?」
「もちろんだよ。楽しそうだったね。本番も楽しくなるんじゃないのかい?」
「そ、そうかな?」
「まあ、お前ならきっと賞を獲れると思うぞ!」
「ありがとう、父さん、母さん、僕、絶対に賞を獲るよ!!」
 藤木は絶対に金、銀、銅のいずれかを獲り、世界大会へと出場したかった。それが彼の目標でもあるのだから。そして両親の察する通り、藤木は他の出場者と仲良くなっていた(そうでない者もいるが)。確かに緊張はするけど楽しい事もあるかもしれない。藤木はそう考えていた。

 夕方になり、スケートの出場者はスケート場の中にある会議室に集まった。協会の人間と思われる女性が話を始めた。
「それでは、皆さま、本日はご来場いただきまして、誠にありがとうございます。これからアマチュア小学生スケート全国大会についての説明を行いたいと思います」
 女性は話を続けた。
「まず、前半に男子の部、後半に女子の部を行います。演技する順番はこちらで決定してありますのでお手元のプリントをよくご確認ください」
 藤木は机の上に置いてある資料のプリントを確認した。順番はよく見ると自分は最後から二番目だった。さらに自分の前に滑るのが瓜原である。
(僕と瓜原君が後ろの方か。銅、銀、金の順に並んでいるな・・・。細かい順番はどう決めたんだろう?)
 藤木はどのように順番を決めたのか気になった。
「そして大会後の交友会の出欠を獲らせていただきますので、この紙の出欠票に参加する、しないのご記入をお願い致し、明日までにご提出をお願い致します」
(これか・・・。父さん、母さん、許してくれるかな・・・?)
 藤木は後で交友会について両親と相談する事を考えた。
 説明会が終了し、藤木は会議室を出た。その時、美葡が藤木に再び話しかけてきた。
「藤木君、後ろの方なのね。頑張ってね」
「美葡ちゃん・・・、うん、ありがとう。君も頑張ってね」
「うん」
 その時、瓜原が一人の男子と睨みあっている所を目撃した。
「瓜原君だ。いったい誰と睨みあってるんだろう?」 
 

 
後書き
次回:「前哨戦」
 瓜原に前哨戦を仕掛けてきた男子は滋賀県から来た近畿大会の銀賞の者だった。藤木はその場を止めようとする。そして美葡と黄花の元にもまた一人の女子が挑発する・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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