レーヴァティン
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十四話 吟遊詩人その五
「島の北西の統治にはあの都は欠かせません」
「そうだよな」
「はい、ただ貴方のお考えは島の北と中央、そして南と北西は考えておられますが」
「まだ足りないか」
「南西と東ですが」
「そうした場所の統治も大事か」
「この二つも重要です、若し縁があれば」
その時はというのだ。
「行かれて下さい」
「その二つの地域もか」
「そして副都もお考え下さい」
「南西ならマドリード、東ならワルシャワか」
「そこでその二つの街をすぐに話に出されたのは見事です」
当主は久志にこのことも認めた。
「まさに。ですがそれだけではです」
「足りないよな」
「はい、行かれることもです」
「大事でか」
「行かれて下さい、ウィーンもおそらくは」
「まだ行ってないぜ」
「ではです」
「あの街もか」
「行かれて下さい」
機会があればというのだ。
「是非」
「そうするな、じゃあな」
「今からですね」
「会うぜ}
笑顔で言った、そうしてだった。
久志達は当主が一旦部屋を出て連れて来た吟遊詩人と会った、その吟遊詩人は長い黒髪を後ろで束ねた切れ長の黒い目と細く長い眉を持つ面長の女だった。背は一七〇と女にしてはかなり高くすらりとした身体を緑と茶色の露出の少ない長袖とズボンとブーツ、それにマントという恰好で覆っている。そしてその手には銀色の竪琴があった。
その女がだ、久志達に名乗った。
「間柴清音よ」
「間柴さんか」
「ええ、この名前でわかるわね」
「俺達と同じだな」
「この島、ひいてはこの世界を救うというね」
「十二人の一人だな」
「そう言われているわ」
久志に高く澄んだ声で応えてきた。
「そしてそう言われながらね」
「旅をしていたんだな」
「そうよ、けれど戦う時も多かったわ」
清音は久志に冷静な声でこのことも話した。
「何かとね」
「モンスターだのならず者だのとか」
「そうだったわ、けれど私は武器は持っていないわ」
「それで戦ってたんだよな」
久志は笑ってだった、清音が持っている銀の竪琴を見て話した。手にしっかりと持てる位の程よい大きさだ。
「オルフェウスの竪琴で」
「わかるのね」
「聞いてたんだよ」
わかるのではなく、という返事だった。
「もうな」
「私のことを聞いて」
「そうさ、しかしな」
「しかし?」
「あんたもひょっとしてな」
己の顎に右手を当ててだった、久志は清音に尋ねた。
「八条大学の学生さんか?」
「教育学部よ」
これが清音の返事だった。
「教育学部よ」
「じゃあ将来はか」
「音楽の先生を目指してるわ」
「そうなんだな」
「他にも社会や国語の先生の資格も目指してるわ」
こちらもというのだ。
ページ上へ戻る