レーヴァティン
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第五十四話 吟遊詩人その二
「地震はな」
「どうしてもな」
「避けられないぜ」
「わかってるさ、だからな」
「地震はか」
「いつもな」
それこそとだ、芳直も正に憮然とした顔で返した。
「揺れたらすぐに安全な場所に避難してるさ」
「トイレとかか」
「テーブルの下とかにな」
「逃げたり隠れたりしてるか」
「そうしてるんだよ」
「地震は怖いか」
「雷、火事、台風よりもな」
「台風じゃなくて親父だろ」
そこはと言った正だった。
「違うのか」
「ああ、うちは親父よりお袋の方が怖いからな」
「だからか」
「それでお袋よりもな」
「台風か」
「お袋は怒らせないといいだと」
こちらはというのだ。
「人間だからな、けれどな」
「台風はそういうの関係ないからな」
「だから台風だよ」
親父ではなくというのだ。
「それで火事、雷とあってもな」
「御前の中で一番はか」
「地震なんだよ、あれでどれだけ死ぬんだよ」
「今じゃ火事や台風の比じゃないな」
このことは正もよくわかった、火事は江戸時代では江戸の大火事で十万もの犠牲者を出した大火事があり台風でも伊勢湾台風や室戸台風のそれはかなりだった。
だが地震、こちらの災害はというと。
「そんなものじゃないな」
「何千何万と死ぬからな」
「そう言われると確かに地震がダントツか」
「戦争より怖いだろ」
「自衛隊の人も実質そっちが主な敵だしな」
震災が起こった時の行動がどうかだ、震災から国民を守ることもまた軍事組織の義務であるのだ。その救助も。
「外敵よりも」
「中も大事なんだよ」
「地震もか」
「そう思うぜ、俺っちは」
「その通りだな、こっちの島は地震ないみたいだしな」
「ああ、起こった記録はないな」
これは実際にとだ、久志は自分が読んだ文献から述べた。
「台風もないぜ」
「その二つはないんだな」
「そうさ、それはいいことだな」
「確かにな、じゃあその点は安心して」
「今から会いに行こうな」
「吟遊詩人にな」
芳直は気候や災害の話から久志の言葉に頷いた、そしてだった。一行は屋敷の中に入った。そうしてからだった。
屋敷の主である見事な服を着た初老の男に挨拶をした、男は一向に余裕のある笑顔で名乗った。
「はじめまして、グリマルディ家の当主ロレンツォです」
「こっちこそな」
「まさかです」
その初老の男は久志に応えてさらに言った。
「貴方達もこの世界を救って下さる方々とは」
「ああ、俺とな」
「十二人の方々だとは」
「偽物とは思わないんだな」
「まさか」
当主は久志に笑って返した。
「この島の者ならともかく」
「いや、東の島から来た山師って場合もあるだろ」
「そうかも知れませんがさらにです」
「腰のか」
「その剣を見れば一目瞭然です」
久志の腰にある大きな剣を見て言うのだった。
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