獣篇Ⅲ
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25 怖い人が優しい時は、何か裏がある。
_「戯言と言うのなら、引き取れますかぁ?お登勢さんを…。逃げるんですかぁ?」
_「西郷やィ…安心しなァ、ヤクザ者は、ケツを女オカマに拭かせる訳にャァいかねェってんだァ。テメェら引っ込んでなァ。オイラ一人で敵ァ、つけてくる。」
_「待ちなァァッ!まだ話は終わってねェェッ!」
_「あなたが駄々を捏ねるからぁ今回だけ特別に見逃してあげたいんですよぉ?せめてここは黙っていてもらえますかぁ?」
_「黙ってられる訳なッ…」
_「そちは忘れていまいか?約束を違えば、ワシらはそちらも相手取らねばならぬ。城を攻める際、まず最初に狙うのはどこか…?最も弱き壁から切り崩す。歴戦の勇士のそちなら百も承知であろう?」
_「マ、ママァッ…!て、てる君がァ…、てる君がァァッ!」
_「おのれェェェェッ!」
聞きながら、晋助の服に着替えた。
編笠を深く被り、包帯と共に、お面を着ける。もちろん、髪の毛も晋助そっくりにしてある。
あともう少ししたら店で平子と落ち合う約束なので、今から向かうことにした。
先に着いて、のんびり煙管を咥えながらしばらく待っていると、平子が現れた。
_「お待たせ致しましたぁ。」
_「いや、いい。ところで単刀直入になっちまうが、オメェさん明日…もしくは明後日に事を起こすつもりだろォ?」
しばらく沈黙していたが、頷いた。
_「…ええ。そのつもりですぅ。何か、あるんですかぁ?」
_「…いや、特にはないが。オメェさんの計画としては、もうそろそろ頃合いなんじゃァねェか、って思ってたからな。」
_「今回、坂田の兄貴を使って四天王の協定を破らせることに成功したので、このまま内部抗争を勃発させれば…とにかく、今が華蛇を利用するチャンスです。」
_「そうさなァ。まァどっちにしろ、今回の件で銀時が動くのは間違いねェ。」
_「どうしてですかぁ?兄貴は今日の夕方には死んでいるはずです。」
_「平子よォ…アイツがあのくらいで死ぬような魂に見えるかァ?仮にもかぶき町最強の男だぜェ?…あとはァ…華蛇が動くのを待つのみ。」
_「そうですかぁ。とにかく、明日が楽しみですぅ。」
_「そうかィ。引き続き頼んだぜェ?」
_「了解しましたぁ。」
と言って、私はその場を去った。
***
次の日の昼頃、私はエメラルドの着流しを着て、編笠を被ってかぶき町を歩いていた。万事屋のある裏道に入り、状況を伺った。
今日は、朝から曇天の日である。
一階のスナックお登勢の状況を伺いながら、それぞれ らすべがすに潜入している一番隊、二番隊、そして てる君を拐って見張っている三番隊、未だ鬼兵隊に残っている四番隊の幹部とやり取りしていた。
_「零杏様、そちらの具合はどうですか?」
_「そろそろ次郎長か動き出す頃でしょう。こちらは大丈夫です。てる君の方はどうですか?」
_「どうやら、西郷は息子が人質となったことを悟ったようです。」
_「そうですか。分かりました。では、そのまま続けてください。明日にでも彼は解放されるでしょう。」
_「こちら四番隊。そろそろ潜伏に入った方が良いですか?」
_「はい、頼みます。着き次第、その他全部の隊と連絡を密に取ってください。」
_「零杏、突入のタイミングはオレが指揮すらァ。お前はお前のすべきことに専念しとけや。」
_「ありがとうございます、総督。助かります。では皆さん、後のことはとりあえず、頼みます。」
と言って、トランシーバーを切る。そして、スナックお登勢宛てに電話をかけた。もちろん、西郷を装って、である。すると運良くお登勢が出たので、そのまま伝えた。
店内には、マイクを仕掛けたので、会話が聞こえてくる。
_「そうかィ。分かったよォ。…
フン)心配いらないよ。銀時からだぁ。どうやら平子も無事だし、次郎長一家と衝突寸前で、例の知らせが向こうに入ったらしくて。お互い、話し合いで手ェ引いたらしいよォ。」
_「よかったぁー。もう手遅れかと思いましたよぉ。」
_「心配させやがって。どこで何やってたアルか?アイツら。」
_「アンタらもご苦労だったねェ。昨日からずっと飯食べてないだろォ?」
_「そういやぁ、そんな話 したら急にお腹が…」
_「どこに食べに行く?」
_「いいアルかぁ!?」
_「焼キ肉!断固焼キ肉デス。高イトコロ!」
_「アホがッ!それじゃよく食べられないネッ!食べ放題ッ!ソフトクリーム食べれるところッ!」
_「二人とも、喧嘩は止めてください。ここは折衷案でガソリンスタンドにしましょう。」
_「どこが折衷案ッ!?」
_「先に行っといてくれェ。アタシも銀時と平子が来たら行くからァ。」
_「早く来てくださいね?来るまで食べずに待ってますから。」
_「ソフトクリームはいいヨネ!?ソフトクリームは先食べていいヨネ?」
_「ライスは?ライス。」
万事屋の子供たちと、スナックの従業員が去るのを確認し、お登勢を追跡する。ある程度の距離を保つため、お登勢が店を出たのを確認してからマイクを取り外し、後をつけた。
予想通り、墓場に来たようだ。
また、次郎長もちゃんと来たらしい。墓の影からそっと伺う。
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