魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第156話「妖の薔薇姫」
前書き
緋雪sideは蹴り飛ばしてから時間は過ぎていません。
前回と今回は、同じ時間の別視点という話になっています。
=out side=
「下がりな!」
「っ………!」
紫陽の言葉に、前線にいる者たちが巻き込まれないように飛び退く。
既に紫陽が膨大な霊力の持ち主だと、奏達が念話で伝えているため、皆素直に従った。
「華々と燃えな!」
―――“華焔”
そして、巻き添えの心配がなくなった瞬間、多くの妖が焔の中に消えた。
紫陽は幽世の土着神だ。そして、その名に恥じない実力を持っている。
元々抑えられていた妖の群れ如きなら、あっさりと焼き尽くすことができる。
「す、凄い……」
その凄まじさに、なのはが全員の気持ちを代弁するように呟いた。
―――そのようにして、京都で妖が食い止められている頃……
「……っ……」
緋雪が大門の守護者と戦闘する前に張られた結界の中で、椿が目を覚ます。
実際に戦闘していた優輝と葵と違って、椿は大した傷を負っていない。
そのため、目覚めるのが早かったのだ。
「ここは……」
目を覚まし、椿は辺りを見回す。
……結論から言えば、椿がこのタイミングで目を覚ましたのは、運が良かった。
ただし、状況は最悪には変わりない。なぜなら……。
「ッ……!」
椿が霊力を感じ取った方向に、蝙蝠が集まっていく。
そして、それは傍に未だに気絶している葵と同じ姿を取っていく。
「嘘……葵が倒しておいたはずじゃ……」
実際に聞いた訳じゃない。援軍に来たからそう思っていた。
事実、葵は倒したと思って駆けつけていた。
……そう。妖の薔薇姫は、まだ倒せていなかった。
「くっ……」
それどころか、身に纏う瘴気により、さらに強くなっていた。
それを椿も感じ取り、短刀を構える。
「(優輝も葵も目を覚まさない……大門の守護者との戦いのせいね……最悪だわ……)」
椿の得意武器は弓で、距離も当然遠距離だ。
近接戦用に短刀を扱っているが、近接戦が得意な相手には及ばない。
おまけに、結界がまだ残っているとはいえ、優輝と葵は守りながら戦わなければならない。
低く見積もって実力が互角以上の相手に、その条件は最悪でしかなかった。
「(でも、やるしかない)」
幸い、現れた薔薇姫は、まだ結界の外にいる。
余波程度なら防げそうな結界があれば、優輝と葵を守る必要はない。
そう考え、椿は結界の外に出る。
「(意識の対象を私に。優輝たちには決して向かせない。……行くわよ……!)」
そして、椿は駆け出す。
それに反応するように、薔薇姫はレイピアをふるう。
椿は短刀でレイピアの穂先を反らし、そのまま横を通り抜ける。
「はっ!」
「ッ!」
ギギギィイン!!
そして、すぐさま振り返り、三連続で矢を放つ。
矢はあっさりと薔薇姫に弾かれるが、これで椿の最初の目的は果たされた。
「(これで私に意識が向いた。後は……)」
ギギギギギィイン!!
「ぐっ……!はぁっ!」
―――“風車”
「(……如何にして、この薔薇姫を打倒するか……ね)」
レイピアの連撃を短刀で凌ぎ、すぐさま術を使って離脱する。
そして、矢を放って牽制。近づかせないようにしつつ、椿は思考を巡らす。
「(近接戦は明らかに私が押し負ける。かと言って、遠距離だけでは仕留めきれないし、いずれは接近されてしまう……)」
薔薇姫だけでなく、吸血鬼系の式姫は蝙蝠になることができる。
そのため、蝙蝠になってばらけられてしまうと、椿の弓では倒しきれない。
さらには、椿のような遠距離系の戦い方は、近接系の味方がいてこそ輝く。
一人ではジリ貧になってしまう。
「(……いえ、恐れてはダメよ。“どうせ押し負ける”と考えること自体が間違い。どの道、それ以外に方法がないのなら、その上で倒しきるしかない……!)」
“それ以外”の方法が存在しない。
それならばその不利な条件の戦法で、なんとかして勝つしかない。
そう椿は考え、覚悟を決めて短刀で斬りかかる。
「ふっ!」
「……!」
ギギギィイン!
「ッ……!」
―――“扇技・護法障壁”
レイピアの連撃を短刀で逸らし、練っておいた術式で障壁を張る。
その障壁は次にレイピアが当たる箇所だけに集中させており、その分固い。
それを利用し、一撃分だけ隙を作り出す。
その僅かな隙で、椿は至近距離で弓矢を構える。
「はぁっ!」
だが、その矢は蝙蝠化することで回避されてしまう。
尤も、椿自身も今ので仕留められるなどと思ってはいない。
すぐさま次の戦術を練り、実行する。
「これなら、どうかしら!」
―――“神槍”
矢を放ちつつ、動きを制限する。
回避か迎撃が出来る限り、薔薇姫はそれを行う。
それを利用し、椿は動きを誘導し、そして術式を叩き込んだ。
さらに、その術は効果範囲を広め、蝙蝠化しても易々と避けれないようにしておいた。
……だが。
バシュゥッ!
「っ……!なるほど、“ソレ”はそう使うのね……!」
薔薇姫が纏う瘴気が、壁となり、その想定は前提から覆された。
「ッ……!」
矢を放ちながらも、椿は逃げ回る。
壁となった障壁は、そのまま触手となって椿を襲ったからだ。
さらに、それだけじゃない。薔薇姫自体も、椿へと襲い掛かる。
「(倒すなんて出来そうにないわね……!少なくとも、この状態だと……!)」
遠距離対策はされ、実質二対一。
相性すら悪いという状況で、それは致命的だった。
倒すどころか、耐え凌ぐことすら難しい状態だ。
「(蝙蝠化は私の攻撃をほぼ確実に回避できる代わりに、私へ攻撃することができない。……そうすれば私の術で一網打尽にされるから)」
厳密には、蝙蝠化した状態でも椿に攻撃することはできる。
だが、それは分裂した蝙蝠が群がる必要があるので、その際に椿が捨て身で術を行使すれば、それだけで一網打尽にできる。
それが椿も薔薇姫をわかっているから、蝙蝠化での攻撃は起きないのだ。
「(だから、牽制として放つ矢は、普通に回避するか、弾くのね。……おかげで、時間稼ぎになってこっちは助かるのだけど……)」
逃げ回りながら矢を放つ椿を、薔薇姫は矢を弾きながら追う。
既に優輝や葵への意識は全く向いていないため、椿はさらに引き離すことで安全を確保することができた。
「ッ……!」
―――“扇技・護法障壁”
「くっ!」
ギィイン!!
しかし、瘴気の攻撃を躱しきれなくなり、咄嗟に障壁で防ぐ。
そこへ、あっさりと薔薇姫が追いつき、レイピアによる刺突が繰り出される。
椿は何とかそれを回避するものの、追撃を短刀で防がされることになる。
「っづ!」
―――“風車”
そこへ、瘴気が椿を覆うように襲い掛かる。
すぐさま椿はその場から飛び退き、術で薔薇姫を牽制する。
しかし、それでも瘴気が掠り、少しばかり傷を負う。
「(接近戦が不利どころか、持ち込まれた時点で不味いわね……)」
簡易的な治癒霊術を傷口に当てつつ、椿はそう思考する。
そして、治療を傷口を塞ぐ程度に済ませ、すぐさま矢で牽制する。
ちなみに、傷と瘴気の影響は、椿が体内で霊力を巡らすだけで対応できる。
「(勝機があるとすれば、蝙蝠化から戻る瞬間。それ以外は高く見積もっても厳しいわね……。それに、瘴気も何とかしないと……)」
―――“風車”
―――“旋風地獄”
瘴気を半身ずらして避け、椿は矢の代わりに術で牽制する。
風の刃を薔薇姫はレイピアと回避で凌ごうとするが、すぐに蝙蝠化する。
「(好機!)」
―――“弓技・閃矢”
その瞬間、椿は残っている瘴気に向けて矢を放ち、打ち払う。
瘴気は薔薇姫が纏っているため、蝙蝠化すると瘴気の攻撃は止むのだ。
だから薔薇姫は蝙蝠化から戻る際に、椿の死角を突くように、至近距離には出現しない。
「そこね!」
―――“弓技・瞬矢”
「ッ……!」
纏っている瘴気以外を祓い、蝙蝠化から戻った瞬間、椿がそこをめがけて矢を放つ。
再び瘴気を放つ隙も、回避や防御をする暇も与えない一撃だった。
そして、それは見事に命中する……が。
「(致命打には……程遠い……!)」
回避できないとはいえ、薔薇姫は避けようとした。
そのため、矢は心臓ではなく肩を貫いていた。
「(……惜しいわね。今ので決めれていたら……いえ、希望的観測を言ったところで無意味ね。でも、今ので……)」
「ゥゥ……ァアッ!!」
「ッ……!」
肩をやられたと認識した薔薇姫は、激昂するように瘴気を繰り出す。
その猛威は、先ほどまでよりも激しく、椿は回避に専念させられた。
「(やっぱり、本気にさせてしまった……!)」
御札に霊力を流し込み、その術式で身体能力を底上げする。
迫る触手を矢で相殺し、その場に伏せ、直後に飛び退く。
伏せた瞬間に頭上を瘴気が薙ぎ払い、飛び退いた直後にそこから黒い剣が生えた。
「(呪黒剣……!術も併用してくるのね……!)」
立ち止まってはダメだと断じ、椿は動き回る。
そして、その状態のまま矢を放つ。
「(一矢一矢を鋭く、速く!)」
相手の攻撃が激しくするのなら、こちらも強くするまで。
そう言わんばかりに、椿は一矢一矢を霊力でさらに強化して放つ。
「(このまま続けてもジリ貧……さっきのようにはいかなくても、それを狙うしかないわね……!)」
もう一度、蝙蝠化させて戻る所を狙う。
先ほどよりも難易度が高まっているとわかっていても、椿にはそれ以外に勝てる道筋がなかった。
「(……他にあるとすれば……)」
椿の手に淡い黄緑色の光が現れる。
それは、椿の魔力光だった。
「(……私が扱える魔法じゃ、トドメは無理ね。でも、勝つための道筋を……隙を作るぐらいなら……)」
そこまで思考し、椿は矢を放つと同時にその反動を利用して飛び退く。
すると、寸前までいた場所を黒い剣が貫き、矢は迫ってきていた瘴気と相殺された。
ギギギィイン!!
「くぅっ……!」
「……!」
―――“神撃”
―――“闇撃”
バチィイッ!!
さらに、薔薇姫本体の攻撃を短刀で捌くことになり、術は相殺される。
幸い、至近距離での相殺だったため、それで間合いが離れる。
「はぁっ!」
―――“旋風地獄”
手を振るい、薙ぎ払うように風の刃を椿は放つ。
薔薇姫はそれを後退しつつ躱しきる。
「ふっ!」
ギィイン!
―――“神槍”
矢を放ちつつ移動し、同時に光の槍を大量に放つ。
それらは、瘴気や呪黒剣と相殺される。
「(一番の不幸中の幸いは、ここが森の中っていうことね……!)」
木々が多い。つまり遮蔽物が多いということだ。
椿の矢も阻まれやすくなるが、接近もされにくくなる。
さらに、立体的な動きが行われるということからも、間合いを詰められにくい。
それを利用し、術を予め用意することで、椿は接近を許さないようにしていた。
それでも接近してくることはあるが、平地よりも再び間合いを離すのは容易だった。
「(でも、長くは続かない……!だったら……!)」
椿も薔薇姫も霊術を使う。
その影響で、どんどん木々は倒れていく。
瘴気でも枯れるし、薙ぎ倒されていく。
木々も無限にある訳ではないので、いずれは遮蔽物はなくなるだろう。
……だから、その前に椿は手を打つ。
「はっ!」
―――“旋風地獄”
―――“速鳥”
手始めに、風の刃を繰り出し、動きを阻害する。
回避か防御のどちらにしても、椿にとっては好都合だった。
同時に、術式を起動させて敏捷性を上げる。
「まだよ!」
―――“旋風地獄”
旋風地獄の範囲外を高速で駆け回りつつ、同じ術を放つ。
風の刃で、そこから動けないようにするためだ。
対し、薔薇姫はそんな椿の思惑通りに瘴気とレイピアによる防御に専念していた。
風の刃が相手では、蝙蝠になってもダメージを食らってしまうからだ。
「……ふっ!!」
そして、一射、二射、三射と、旋風地獄の範囲外を回りながら椿は矢を放つ。
もちろん、効果が切れないように旋風地獄の重ね掛けをしながら。
だが、それでも矢はあっさりと回避されるか、レイピアに叩き落される。
「かかったわね!!」
―――“風車”
だが、椿は別にそれで倒そうとしている訳ではなかった。
狙いは、回避した事で薔薇姫の足元に矢が刺さることだったのだ。
そして、その矢には風車の術式が込められており、繰り出された風の刃が退路を断つ。
「(長期戦どころか、まともにやりあうだけでも厳しいのなら……今、森の中という環境を生かして、ここで倒す!!)」
―――“弓奥義・朱雀落”
そして、退路が断たれた所へ、渾身の一矢が放たれた。
回避を許さない状況での、全力の一撃。
纏う瘴気も、風の刃を防御するので精一杯。
―――故に。
「ッ……!」
―――“刀奥義・一閃”
ギィイイイイイイイン!!
……多少捨て身であろうとも、薔薇姫も渾身の一撃で相殺してくるのは、当然だった。
「くっ……!」
弾かれた矢は、そのまま背後に逸れ、風の刃の包囲に穴が穿たれる。
そこから薔薇姫は脱出してしまう。
咄嗟に椿が放った矢も、大した効果が出せずに弾かれた。
「(理性はなくとも、戦闘本能はそのまま……か。どちらが“マシ”か、咄嗟に判断してその場から脱出するなんて……)」
椿は、神降し時の優輝と記憶を共有している。
なので、薔薇姫が葵の式姫としての抜け殻だということも知っている。
だからこそ、他の知性のある妖とはまた別だと考えていた。
だが、それでも式姫としての戦闘本能が残っていたことに歯噛みする。
「(……おそらく、あれの“経験”はあの日、一度葵が死んだあの時まで。つまり、式姫としての私の動きは全部知られていると考えてもいい)」
地形や環境を生かした戦術もまるで通じなかったところから、椿はそう推測する。
「(……普段の戦い方じゃ、どうあっても対処されそうね)」
“なら”と、椿は短刀を御札に仕舞い、代わりに刀を取り出す。
「(“普段”とは違う戦い方。そして、あの妖が知らない戦い方で、倒すしかない。……それに……)」
椿は刀を構えずに、弓を構え、矢を放つ。
その先には、矢を弾きながらもこちらへ突き進む薔薇姫の姿が。
「(向こうも、同じ戦い方なはずがない。次は、もっと妖らしく来るでしょうね)」
薔薇姫にもまったくダメージがない訳じゃない。
だが、ダメージを与える度に、薔薇姫の動きは式姫従来のものではなく、妖としてのものへと変化していく。
……わかりやすく言えば、瘴気を用いた動きが増えるのだ。
―――“闇爪”
「ッ……!!」
攻撃範囲に入った瞬間、薔薇姫は腕を振るう。
その瞬間、瘴気が爪で切り裂くかのように繰り出された。
咄嗟に椿はそれを躱すが、それは一撃だけではなかった。
「ァッ!!」
「連発!?」
二撃、三撃と、実際に爪で引っ掻く攻撃を連発するように、何度も放たれる。
これは、言い換えれば三つ以上の斬撃が同時に何度も放たれているようなものだ。
大きく避けない限り、椿には回避は難しいだろう。
「くっ……!」
とにかく距離を取るべきだと、椿は瘴気の爪を躱しながら矢を放ち、牽制する。
だが、薔薇姫はそれがどうしたと言わんばかりに、次の手を打った。
「ォォァァアアアアアア!!」
―――“瘴波”
「ッ……!」
方向と共に、瘴気が衝撃波となって周囲に放たれる。
それらは木々を薙ぎ倒し、距離を取ろうとする椿へと迫る。
「くっ……!」
―――“扇技・護法障壁”
回避できないと悟った椿は、すぐさま障壁を張る。
同時に、地面を蹴る。
直後、障壁は耐えきれずに割れ、残りの衝撃波は椿の体を掠めるように飛んでいく。
「一方的なまま、終われないわよ……!」
―――“弓技・閃矢”
負けじと椿も矢を放つ。
それらの威力は十分にあり、瘴気を突き破るほどだが……。
「っ……!」
蝙蝠となって散開することで、避けられてしまう。
―――“闇刺”
「くっ……!」
さらに、瘴気が広がり、あらゆる場所から瘴気のトゲが生えてくる。
障壁を張れば防げるほどだが、足止めされたら敵わないと椿は駆けて避ける。
縦横無尽に、木々や倒木を蹴り、立体的に回避する。
「これなら、どう!?」
―――“弓技・火の矢雨”
僅かな隙を突き、椿は霊力の矢を空に向けて放つ。
そして、その矢は炸裂し、火を纏った矢の雨として降り注ぐ。
「ふっ……!」
火の矢なため、木々は燃える。
幸い、多くの木々が倒れたため、燃え広がる心配はない。
そんな、燃える木々を駆け抜け、椿は刀を振るう。
そして、少数とはいえ、矢を避けた蝙蝠を切り裂く。
「ォァッ!!」
―――“闇爪”
「はぁっ!!」
―――“戦技・迅駆”
一部とはいえ蝙蝠がやられた事に、薔薇姫は慌てて元に戻る。
そして、すぐさま瘴気の爪を繰り出すも、刀による二撃で相殺される。
……薔薇姫としての強さを一部捨ててしまったが故の、隙だった。
「これ、なら……!!」
―――“神撃”
そして、椿は霊力の塊を叩き込む。
微妙に間合いに入り切っていない事。瘴気で防御される事。
それを考慮した一撃は、薔薇姫を大きく吹き飛ばした。
「(まだ倒せていない!だから……!)」
―――“弓技・重ね矢”
吹き飛ばしたところへ追撃するように、椿は矢を放った。
「くっ……!」
だが、その矢は蝙蝠と化す事によって躱される。
「でも、対策済みよ!」
―――“旋風地獄”、“神槍”
すかさず椿は二つの術式を発動させる。
風の刃で動きを制限し、光の槍で蝙蝠を貫こうとする。
―――“闇刺”
「っ……!」
だが、薔薇姫もただではやられない。
瘴気をトゲにし、雨のように降らしてくる。
さらに、先ほどと同じように木々や倒木、地面からも生えてくる。
椿はそれを回避するのに専念することになり、術の制御が不安定になってしまう。
「このっ……!」
―――“扇技・護法障壁”
回避しきれないと悟った椿は、すぐさま障壁を張る。
だが、その間に薔薇姫は人型に戻り、術を破って椿に襲い掛かる。
「っ……かかったわね」
―――“アローシューター”
“身動きが取れなくなり、好機だと思う”、それが椿の狙い目だった。
接近しようとしていた薔薇姫は、突如目の前に現れた矢型の魔力弾に命中する。
そして、命中した事によって薔薇姫は大きく仰け反り……。
「私だって、成長しているのよ!」
―――“弓技・瞬矢”
高速の矢が、その体を貫いた。
同時に、椿の障壁が破られるが、すぐに回避行動を起こして被害を抑える。
何度も掠り、既に椿の体はボロボロとなっている。
「(まだ、終わらない……!魔力も残っている。これで、隙を……!)」
魔力を練り、いつでも魔法が使えるように椿は備えておく。
お互い、体勢は立て直していた。
「ォォッ!!」
―――“闇爪”
―――“瘴波”
椿が矢を放つと同時に、薔薇姫も瘴気の爪と衝撃波を放つ。
矢は爪と相殺され、衝撃波は回避する事で凌ぐ。
「二度も見れば、見切れるわよ……!」
さらに、魔力を使って足場を生成。
木々も関係なく上空へと跳ぶ。
そして、薔薇姫の上を通過しつつ、連続で矢を射る。
衝撃波で相殺されるものの、いくつかは薔薇姫へと迫る。
連射速度はともかく、威力や貫通力は椿の矢の方が上なため、薔薇姫は相殺しきれなかった矢を躱すためにその場から飛び退く。
「(瘴気を使った方が強いのでしょうけど、使い方が私とは相性が悪かったようね……!)」
飛んでくる瘴気の爪は刀で切り裂け、衝撃波は矢と相殺される。
連射速度などが速くなった薔薇姫だが、そもそもの機動力が高い椿には効果が薄い。
瘴気を使う事で、近接戦もなくなり、椿の方が有利になっていた。
もし、瘴気が障壁か近接武器のように扱われ、近接戦メインで仕掛けてこられたら、椿に勝機はなかった。
「シッ!」
ザンッ!
爪は刀で、衝撃波は矢で相殺しつつ、徐々に薔薇姫を追い詰める。
蝙蝠化することで切り抜けようとするが、それは椿の術式で阻止される。
「(魔法を使う際に、立体的な機動に慣れていて助かったわ。これで、倒せる!)」
戦闘の影響で木々が倒れ、辺りは若干開けた場所になった場所になっている。
その上空を、椿は魔力の足場を使って跳び続ける。
椿が魔法を使う際に重点的に鍛えたのは、主に二つだ。
魔力弾と、足場の生成。従来の戦い方に組み込みやすい二つを、主に鍛えていた。
故に、攻撃が当たりそうになる事はもうなかった。
「ァアッ!!」
―――“闇刺”
「甘いわよ!!」
―――“弓技・矢の雨”
瘴気のトゲが、椿を打ち落とそうと迫る。
それに対し、椿は矢の雨を降らす事で相殺する。
「(……まずいわね。このままだと、優輝たちがいる方へ行ってしまう。巻き添えにしてしまう前に、仕留めないと……!)」
故意かどうかは椿には判断できないが、せっかく逃げ回りながら離した距離が、徐々に縮められていた。
「(ちょっと、無理をして、速攻で決める!)」
そう考え、椿はギアを上げる。
出来る限りの霊力と魔力を使い、先ほどまでの動きをさらに一段階速くする。
そして、徐々に薔薇姫は追い詰められていき……。
「ここよ!」
―――“霊縛”
蝙蝠化の阻止も兼ねた、霊術による束縛が決まる。
そして、魔力の足場を蹴って一気に肉薄。
繰り出される瘴気は矢と術で相殺し……。
「これで、終わりよ!!」
ドシュッ!!
薔薇姫に、その一撃で倒せるほどの霊力を込めた刀を突き出した。
―――だが……
「……か、はっ……!?」
貫かれたのは、椿の方だった。
「失念、して、いた……!」
椿の胸を貫いたのは、薔薇姫の持つレイピアだった。
戦法を変えた後は使っていなかったため、失念していたのだ。
「(まず、い……!)」
瘴気による身体の浸食と、胸を貫かれたダメージに、椿は倒れる。
引き抜かれ、血の滴るレイピアが目に入るが、椿が気にするのは別の事だった。
「(……優輝、葵……)」
視界の端に、優輝と葵が映っていた。
……そう。このままでは、二人が危ない。
「(ごめん、なさい……しくじった、わ………)」
激しい痛みを感じながらも、意識が薄れていく。
胸を貫かれた上に、瘴気の影響もある。
……完全な、致命傷だった。
「………かやちゃん……?」
後書き
華焔…火属性の全体術。うつしよの帳で紫陽(ボス戦)が使う術。華々しく広がる焔で相手を焼き尽くす。
闇爪…瘴気による爪で切り裂く攻撃。シンプル故に連発可能で、威力もバカにならない。
瘴波…瘴気による衝撃波。広範囲で、避けるのは困難。ただし、衝撃波がそのまま広がるというよりは、魔力弾を全方位にばら撒くような攻撃なので、避けれない訳ではない。
闇刺…瘴気のトゲを生やし、突き刺す。呪黒剣よりは威力が低いが、その分展開数が多い。また、雨のように降らす事も可能。
アローシューター…椿が扱う射撃魔法。矢のような魔力弾で、実際に矢として射る事も可能。誘導性は低いが、速度、貫通力が優れている。
霊縛…そのまま霊力による束縛。拘束する際は術者の特徴が出るらしく、椿の場合は蔦などが絡みつくように拘束する。
実は死んでいなかった妖の薔薇姫戦。
瘴気を扱うようになってから、椿との相性が良くなったように見えますが、実際は近づけば近接戦を仕掛けてくるので、どの道椿に勝ち目はありませんでした。
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