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天体の観測者 - 凍結 -

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停止教室のヴァンパイア
  三大勢力会議

 
前書き
連続投稿

はい、駄目でした
気付けば執筆し、投稿していました
ではどうぞ 

 
 此処は駒王学園の旧校舎へと続く廊下。
 その放課後の薄暗い廊下にはとある3人の姿が。

 本日の授業が終わった矢先にリアスと朱乃の2人がウィスのいる教室へと赴き、ウィスを連れ出したのだ。

 朱乃はウィスの右腕へとすかさず抱き付き、リアスは当然の様にウィスの傍へと近付いた。
 リアスとウィスのパーソナルスペースはかなり近い。

 その時の男子達の視線は心地良く、愉悦を感じざるを得なかったことを此処に明記する。
 今夜は実に良い酒が飲めそうである。

「それにしても良かったの?」

 彼女達に挟まれる形でウィスがオカルト研究室へと足を進める中、突如リアスがウィスへと問い掛けた。

「…?」

 要領を得ず首を傾けるウィス。

「ほら、あれよ。朱乃の神社でミカエル様から頂いた聖剣、聖ジョージのアスカロンを放棄してしまったことよ。」

 ああ、そのことか。

「別に問題ない。」

 自分の得物はあの杖だけで十分だ。
 それにアスカロンは脆すぎる。

 あのアスカロンであろうとも自身が遣えば瞬く間に粉微塵になってしまうことは間違いないからだ。

 また、リアスと朱乃、アーシアは論外、小猫は拳、木場は神器で武器を創造することで戦う。
 故に消去法でアスカロンは一誠へと譲り渡したのだ。

 それに、その方が面白い。
 赤龍帝である一誠がドラゴンの天敵であるアスカロンを遣う。
 実に度し難く、矛盾しながらも理にかなった戦法であり、愉しい案件だ。
 人知れずウィスは笑みを深める。

「着きましたわ、リアス部長。」

 そして、一行はオカルト研究部へと辿り着く。
 本日も悪魔としての活動を行うべく、彼女達が部室の扉を開けた矢先… 





「…!ウィス様、否!天使様!私をお導きください!」

 此方に恭しく平身低頭するゼノヴィアの姿があった。

「いや、何を言っているんですか?」



 こうなった経緯にはもう少し時間を遡る必要がある。


 




▽△▽△▽△▽△







 先日、堕天使の幹部であるコカビエルを消滅させたウィス。
 聖剣を教会から奪取し、再び三つ巴の大戦を繰り広げようとしたコカビエルは教会から派遣されたゼノヴィアとイリナが駒王町に赴いた当日にウィスの手によって阻止された。

 出会いがしらの気合砲から始まり、駒王学園のグラウンドへの墜落からの急降下。
 その後、コカビエルは為す術無く戦闘不能に陥られ、神速のラッシュによる血みどろ状態へと早変わりし、真のエクスカリバーの輝きの前に敗れ去った。

 彼が渇望した血肉湧き踊る大戦の再開の狼煙は上がらなかったがそこに救いはあったのだろう。
 彼の死に顔は非常に清々しいもので、その瞳には闘いへの渇望心は既に存在していなかった。

 黄金の極光の光に呑み込まれたコカビエルの脳裏に浮かぶは走馬灯の様に駆け巡る数多の過去の記憶。

 過去から現在へ。
 全ての記憶が目まぐるしい勢いで瞼の裏側に駆け巡り、己の人生の軌跡を確かなものにした。
 そして此方へと微笑みながら優しく手を差し出すかつての愛する戦友達。

 間違いはあったのだろう。
 譲れないものもあったのだろう。
 すれ違いやどうしようもない程の葛藤、苦悩、憎しみも有していたのだろう。

 だがそこに救いはあった。
 エクスカリバーの聖なる光に断罪され、主の光を思い出し、戦友達の思いを受け止め、コカビエルは悔いも無く消滅したのだ。

 その後、教会組のゼノヴィアとイリナの2人はどこか晴れ晴れとした様子で聖剣を回収し、帰還していった。

 真のエクスカリバーの力を解放した聖剣はあの極光の光の奔流を世界に知らしめた後に無残にも崩壊。
 刀身はバラバラに砕け散り、偽作のエクスカリバーはその身を崩壊させた。

 彼女達が回収したのはその場に寂しく散らばった聖剣の因子を含んだ結晶。
 文字通り彼女達の任務は現地に赴いた当日に終わりを迎えたのだ。

「…。」

 そしてエクスカリバーを振りぬいたウィスもコカビエルと同じ様に過去を回顧していた。
 あの黄金の光はウィスの数多の記憶を刺激し、ウィスを深い感傷へと浸らせていたのだ。

 ウィスが無意識の内に目を逸らしていた彼、彼女達の存在を。
 故にコカビエルを撃破したウィスは達成感を感じることはあれど、喜ぶことはなくただひたすら空を見据えていた。
 









 そんなウィスは現在、波風晃人と名乗り駒王学園で学生生活を享受している。
 左手の掌を自身の頬へと乗せ、その紅き双眸で窓越しに外の景色を眺めていた。

「…。」

 今、教室では授業が執り行われている。
 だがウィスの意識はそこに無く、ただ呆然と外の雲景色を見据えていた。

 最近、妙な気配と力を感じる。
 どこか懐かしく、自身の過去を回顧させるような漠然とした何かが。

 日に日にその不可思議な感覚は強くなってきているのも事実。
 残念ながら依然としてその謎は解けていない。

 だが決して良からぬことの前兆というわけではなく、どこか自身と深く関係している気がするのだ。
 それと同時に何故か背中に強烈な寒気も感じている。

 あの悪寒と寒気、まさかね…。
 ウィスは確信にも似た答えを抱きながらも、思考を放棄する。

 ウィスの脳裏に浮かぶは朱槍を有するある1人の女性。
 ただ今は彼女と言葉を交わしたい想いで一杯であった。







「…君!…風君!波風君!聞こえていますか?」

「…はい。何か?」

 どうやら思考に没頭し、授業に集中し切れていなかったようだ。
 見れば教師が此方を指名している。
 
「気付きましたか、波風君。それでは黒板に書かれている文章の和訳をお願いします。」

 成程、この文章の和訳を行えば良いのか。

「分かりました。えー、"神の教えに従うべし……"」

「"……さすれば海の恵みは豊かになり嵐はやってこないであろう。"」

 何ともまあ、イラつく文章であろうか。 
 平静を装ってはいるが、内心は煮えくり返っているといっても過言ではない。

 どうやら自分は自身が思っている以上に神という存在を嫌悪していたようだ。
 思考に没頭し、上手く頭が回っていなかった影響も否定できないが。

 こうしてウィスの学生生活も今日も終わりを迎えるのであった。







▽△▽△▽△▽△







『…。』

 部室内の誰もが驚きを隠せなかった。
 否、理解できなかった。

 先日、ウィスにより心身共に砕かれ、意気消沈したあのゼノヴィアがウィスへと敬意を払っている光景に。

「私は御身があの伝説のエクスカリバーを振りぬいたあの刹那、理解しました。否、確信しました!貴方様が天使様であることを!」

 呆然とするリアスを置き去りにし、ゼノヴィアはまくし立てる。

「聖なる聖剣であるエクスカリバーをいとも簡単に扱うあの圧倒的なまでの力!そしてまるで首回りに下げるは天使の象徴である天使の輪っか!見間違いようがありません!」

 今なお平身低頭し、彼女はウィスへと自身の言葉を投げ掛けている。
 ウィスのことを天使だと述べ、自身を導いて欲しいと。

「いやいや、ウィスさんはそんな存在じゃないぜ、ゼノヴィア?」
「そうですよ、ゼノヴィアさん。」
「流石にそれはないかと…。」

 だが彼女の言葉を否定するは一誠とアーシア、小猫の3人。
 流石にその可能性はないだろうとやんわりと否定する。
 宇宙へと行き来するあのウィスがそのような神に仕える矮小な存在であるはずがないと。
 見れば他の皆も彼らと同意見の様だ。
 
 だが残念ながら彼女の言葉は真実を明確に射抜くものであった。
 本人であるウィスにも最早隠す必要性がないため、今此処で自身の正体を暴露することを決意した。
 





「…いえ、彼女の推測はあながち間違ってはいませんよ、皆さん。」

 そう、ゼノヴィアの推測は間違ってなどいない。
 我ながら彼女は良い線をいっていると思う。

『え…?』

 瞬く間に硬直し、壊れたブリキの様に顏を此方へと向けるリアス達。
 彼女達は驚愕の表情を浮かべ、ウィスを凝視していた。

「じゃ…、じゃあ、ウィスさんは…。」

 信じられないとばかりに木場はウィスを見据える。
 見ればリアス達も目を大きく見開き、ウィスが肯定したことに頭が追い付いていないようだ。

「ええ、確かに私は天使に相違ありません。」

 突然の暴露。
 空いた口が塞がらないとはこのこと。

 誰が合図であったか。
 彼女達の止まっていた時間が即座に動き出し、この場の全員が甲高い声を上げた。

 途端、オカルト研究部の部室内はリアス達の驚愕の声が支配するのであった。










「えっ…と、じゃあ、ウィスさんは一体何歳なんですか?」

 そんな中、わなわなと震えながらウィスへと問いかけるは一誠。

「…私の、年齢ですか?」

 これはまた珍しい質問をする。

 ウィスは一誠の問い掛けに対して左手の掌を顎に乗せ、静かに思考した。
 自身の実年齢を。

 そんなウィスをリアス達は固唾を飲みながら見詰める。

「ふむ、そうですね…。私の実年齢ですが…、軽く4000歳は越えていることは確かですね。」

 そう、4000歳。
 4000歳である。

「4000歳ですか!?」
「4…4000歳…!?」

 口をあんぐりと開けざるを得ないリアス達。

「じゃあ…、ウィス、貴方は何らかの力でその見た目を保っているのかしら…?」

 想定したくもない可能性を脳裏に浮かべてしまうリアス。
 そう、ウィスの真の見た目が皺くちゃの老人の可能性をだ。

 そう、決してこれはただの好奇心から来る質問に過ぎない。
 例えウィスの真の姿が老人であろうと自分には問題はない。

 これはそう、乙女心的な問題だ。

「いえいえ、これが私の素の姿ですよ。別に姿を偽っていなどいません。」

 ほっ、とリアスは静かに心を撫で下ろす。
 だが見た目が変わらないということは…。

「じゃあウィス貴方…。もしかして不老不死ってことなの…?」

「ほほほ、さあ、それはどうですかね?」
 
 ウィスは朗らかに笑い、その真偽に答えることはない。

「えっと、それではウィスさんは主の遣いであるということなのでしょうか?」

 次に質問を行ったのはアーシア。
 かつて主に仕えていた身としてはどうしても気になってしまうようだ。

 そんな彼女の質問に対しウィスは…

「それは愚問ですね。私が嫌悪している神に仕えているわけがないでしょう…!」

 青筋を浮かべながらウィスは激怒する。
 やはりウィスは天上の神々のことを酷く嫌悪しているようである。

「ひぃ…!すみません…。」

 アーシアは涙目だ。
 やはりウィスにこの手の質問はタブーのようだ。

「あらあら、それではウィスはどの神話体系の天使なのでしょうか?」

 "A secret makes a man man."、それはまだまだ秘密である。

「それは秘密ですよ、朱乃。」

 ウィスは可愛くむくれる彼女を宥める。
 もっともウィスの真の正体を掴むヒントは既にリアス達はその身を持って体感しているのだが。

「…とまあ、私は天使であったということです、皆さん。」

 こうしてウィスはあっけなく自身の正体を暴露した。



「ゼノヴィアさんも、これを機に外の世界を見て回るのはいかがですか?せっかく自身を縛る鎖が無くなったのですからね。」

 無論、自身もできる限り手助けはするつもりだ。

「ああ…、そうだな。そうするよ。」

 どこか憑き物が取れたかのようにゼノヴィアは笑う。
 
 その後、ゼノヴィアはアーシアに真摯に謝り両者の仲は無事修復された。
 早速彼女は自身の新たな人生を歩んでいるようだ。










─そして遂に、三大勢力による会議が催される─




 





「…。」

 そして、ウィスは三大勢力の会議で出会う。
 否、出会ってしまった。
 リアス以上にとある一人の女性を強く連想させる1人の女性に。

 それが一種のトリガーであった。
 まるで決壊したダムの様にウィスの脳裏に数多の記憶が蘇り、走馬灯の様に駆け巡る。

 過去の記憶を強く刺激されたウィスはらしくもなくその場に棒立ちになってしまった。
 視線はその女性から離れず、ウィスは人知れず瞳から静かに涙を流す。

 ウィスの中に眠る過去の記憶を強く刺激されてしまったがゆえに。
 最近感じる不可思議な力の存在も影響しているのも違いないが。

 その容姿、髪の色。
 その在り方、魂。
 その身に宿す優し気な性格と気高いまでの高潔な精神。
 だがどこか抜けており、残念な気質を持ち合わせている女性。
 その全てがとある女性と似通っていた。

 否、無論その全てが似通っているわけではない。
 相違点も存在しているだろう。
 だが、それでも会議室に入室して以降ウィスはその銀髪の女性から一度たりとて視線を逸らすことができなかった。

 彼女の隣には初老の顎髭を蓄えた神と思しき老人が座しているが興味など微塵もない。
 壁に背中を預け、此方を好戦的な目で射抜くその身を包帯でグルグル巻きにしている男性も同様だ。

 数十年。
 そう、数十年だ。
 もう数十年も彼・彼女達と出会っていない。

 自分だって元はただの人間だ。
 人としての名を忘れ、この身体を与えられることでこれまで悠久の時を生き続けてきた。
 この頂上の身体と力を糧に。
 
 だがこの身が幾ら天使のものだとしてもその精神は元の人間のままだ。
 この身体に自身の精神が未だ追い付いていないことも否定できない。
 この身体を得た影響で喜怒哀楽の感情が薄まっているとはいえ、時折負の感情を表すことも珍しくはないのだ。

 故に此度のウィスの異変もいずれ起きる必然的なことであった。

「…。」

 一歩

 また一歩 

 また一歩とウィスは歩を進め、遂にその銀髪の女性の元へと辿り着く。

「え…えっと。」

 女性は困惑することしかできない。
 だが今のウィスには困惑した彼女の様子を気に掛ける余裕も無かった。



「名前を…、名前を教えて頂けませんか?」

 ウィスは彼女の手を優しく掴み取り、彼女の名前を問い掛ける。
 ウィスの瞳は涙に濡れ、深紅の瞳で彼女の綺麗な青き瞳を見据えた。

「…、え?」

 会議室に女性の呆けた声が響いた。 










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─残り20%─
 
 

 
後書き
最後に記した2人の女性ですが非常に似ているとは思いませんか?
そして珍しくノスタルジックなウィスさんでした

感想+評価よろしくお願いします('ω') 
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