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足の裏の毛

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第一章

               足の裏の毛 
 ホビットの足の裏には毛がある、このことはあまりにも有名である。
 だが近年だ、そのホビット達の間で議論が起こっていた。
「わし等はいつも裸足だったがな」
「ああ、靴を履かなかった」
「靴下だってな」
 ホビットの足の裏の皮はただ毛が生えているだけでなく非常に固くそうする必要もなかったのである。
「だが最近な」
「裸足だと寒いしな」
「やはり靴を履いた方が安全だ」
「暑さも寒さも凌げる」
「わし等も靴を履くべきじゃないか」
「他の種族と同じ様に」
 こうした議論が起こっていた、そして実際にだった。
 ホビット達の中には靴下を穿いて靴を履く者が出て来た、そうしてみるとだった。
「夏の焼けた地面も平気だぞ」
「冬の寒さもだ」
「そしてその分余計に安全だ」
「足の爪を怪我することもなくなったぞ」
 裸足でいるとどうしてもこのリスクがあるがだ。
「随分楽になったぞ」
「これはいいぞ」
「これからはホビットも靴を履くべきだ」
「そうすべきだ」
 やがて靴派が裸足派を圧倒する様になりホビット達も靴を履く様になった。しかしここで問題が起こった。
 ホビットのある村に住む少年オルボルグは難しい顔で家で母に尋ねた。靴を履いている自分の足を見ながらだ。
「おいら達ホビットも今では靴を履いてるよね」
「昔と違ってね」
「その話は知ってるけれど」
 木靴を履いている自分の足を見つつ言う。
「ホビットは足の裏に毛が生えてるけれど」
「ええ、皆ね」
「それはどうなるのかな」
「足の裏の毛が?」
「うん、こうして靴を履いてたら」
 裸足でなくなったならというのだ。
「もうね」
「足の裏の毛は必要ないっていうのね」
「だって毛は寒さとか石とかから身を守るものじゃない」
 それで裸足で過ごすホビットの足の裏には毛が生えていたのだ。
「けれど靴を履く様になったら」
「他の種族みたいにっていうのね」
「もういらないんじゃないかな」
 こう母に言うのだった。
「どうなのかな」
「そう言われてもお母さんにはわからないわよ」 
 これが母の返事だった、小柄なホビット達に合わせた小さな家の中で。
「足の裏の毛のことまでは」
「そうなんだ」
「そうよ、というかあんた変なこと気にするわね」
「足の裏の毛のこととか」
「そんなの何でもないと思うけれど」
「そうかな、気になるけれど」
「そんなことを気にするよりはね」
 ここで母親らしいことをオルボルグに言った。
「お勉強とかね」
「家のお仕事のこととかだね」
「そう、うちはお肉屋でしょ」
 村のそれである、売っている肉は豚肉が多い。
「お肉の捌き方やソーセージの作り方を覚えなさい」
「そう言われるとね」
「そうでしょ、もうお店に出すベーコン出来たから」
 燻製のそれがというのだ。
「切ってお店に出しておいて、あとお父さんと店番代わって」
「わかったよ」
 店、つまり家のことには素直に頷くオルボルグだった。それで実際にベーコンを燻製窯から出して切って店に出して店番もした。
 オルボルグは店のことも学校の勉強のことも真面目にしていた、しかしどうしても足の裏の毛のことが気になってだ。学校でも先生に尋ねた。
「あの、ホビットの足の裏の毛ですけれど」
「それがどうしたんだね?」
 先生はオルボルグに怪訝な顔で応えた。
「我々の足の裏の毛のことが」
「そこの毛は足の裏を守る為の毛ですよね」
「その通りだよ」
 先生の返事はオルボルグの母と同じものだった。 
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